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作成: 1998/09/16 田中 進

データ番号   :020035
穀物照射装置の開発
目的      :60Coガンマ線を用いた同心多重円筒型連続穀物照射装置の開発
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(102.5TBq)
線量(率)   :100〜300Gy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所 コバルト60照射施設
応用分野    :食品照射、飼料

概要      :
米の中に生息する害虫をγ線で照射し殺虫するための実規模照射装置の開発研究を行った。大量照射装置として、同心多重円筒型連続穀物照射装置を考案した。中規模実験装置を製作し、設計に必要な米の流動試験および吸収線量の計算値と測定値の比較を行った。中規模実験装置で連続的に照射米の吸収線量の計算値は、測定値と±5.7%以内でよく一致することが分かった。

詳細説明    :
 米の中に生息するコクゾウ虫(穀象虫)などの害虫やその卵をγ線で照射することによって、殺虫殺卵する穀物照射装置の開発を行った。所定の照射処理速度、線量範囲(100〜300Gy)などの照射性能をもち、経済的な実用規模照射装置として、同心多重円筒型連続穀物照射装置を考案した。この装置を設計するためは、穀物の吸収線量に関係する照射装置内における穀物の流動状態および線量分布と照射装置の諸元との関係の解明が必要である。このため、中規模照射実験装置による流動及び照射試験を行い、その結果を報告する。
実用規模を想定した穀物照射装置の垂直断面を図1に示す。流入口Suから入った穀物は、同心円筒の線源導管G、隔壁Cbおよび照射部外筒CNで区画された照射領域In(n=1,2,・・・,N)内をγ線源Sによって照射されながら自重で流れる。その後、輸送管Ttを通って照射室外に設けられた貯槽に入る。線源から遠いほど照射領域内の線量率が低くなる。穀物が流れる照射領域が線源から遠いほど穀物の流速を遅くし、所定の線量範囲内で穀物を照射するため、各照射領域の底部に流速調節器を設けた。


図1 Vertical cross-section of the irradiator. G:Guide tube of gamma-ray source, S:Gamma-ray source, In(n=1,2,...,N):Irradiation region, CN:Irradiation vessel, F:Flowrate regulator, Tt:Transfer tube, Cb:Separator.(原論文1より引用)



図2 Flow rate regulator. H1,H2,H3:Hopper, St:Slit, Sh:Shutter.(原論文1より引用)

 流速調節器は図2に示すように、環状に配置した仕切弁によって構成されている。ここで、Shは照射室外からの遠隔操作によって上下に動くシャッター、Stは穀物の排出口で、H1、H2、H3は、それぞれα、β、γの傾斜角をもつ第1、第2、第3ホッパーである。流速の調節は、排出口の高さhを調節すること、および仕切弁の断続的開閉時間の調節によって行う。これは低速にするために、排出口高さを小さくしすぎると排出口が閉塞するか、あるいは排出速度が不安定で正確な流速調節は困難になることによる。
 中規模実験装置は、図1に示した籠形線源Sの代わりに1本の棒状線源を内蔵し、3個の照射領域を設けた。装置の主要諸元および穀物(米)の性質をまとめる。
 線源導管 :ステンレス鋼、外径20cm、肉厚0.2cm
 隔壁   :ステンレス鋼、外径33.2cm, 49.8cm、肉厚0.15cm、軸長120cm
 照射部外筒:鉄、外径68.4cm、肉厚0.3cm
 流速調節器:排出口の幅3.0cm、高さ0.2〜4.0cm(可変)、ホッパーの傾斜角 α=20°、β=20°、γ=30°、I1、I2、I3照射領域底部に12、18、24個の排出口を0.0679、0.0451、0.0324cm-1の曲率で環状に配列
 米の品質 :群馬県産水稲日本晴2等玄米(古米)
 米の係数 :見掛け密度 0.83±0.05g/cm3、3軸平均径 0.3cm(0.5, 0.3, 0.2cm)、安息角 50°
 穀物粒子の線量は、照射領域内における穀物粒子の流線上における線量率に比例し、その流速に反比例する。このため、所定の線量範囲内の照射を行う照射装置を設計するには、それに先立って穀物粒子の流動状態と、その制御の可能性を明らかにする必要がある。 中規模照射実験装置を用いて、流量調節器の排出口配列の曲率と平均排出速度との関係、平均排出速度の安定性および米の破砕率などの測定を行った。また、照射領域内における穀物の流動状態について各米粒子の流動経路、粒子流速の脈動、平均粒子流速分布の測定をおこなった。その結果、流量調節器仕切弁の排出口からの排出速度は排出口配列の曲率に依存しないこと、3%以内の精度で米の流速および排出速度を制御できることが分かった。
 所定の線量範囲内の照射を行うための線源量、隔壁半径および各照射領域内における穀物の流速などの決定のため、照射領域内の線量分布の計算法と、その精度について検討した。図1に示した照射領域を流動する穀物の吸収線量は、流動する範囲の各点を点減衰核法で計算し、それを流路に沿って積分することにより求められる。点減衰核法を用いた計算で重要なエネルギー吸収ビルドアップ係数は、穀物を実効原子番号6.7とし、米とステンレス製隔壁の多重層効果をBroderの近似式で求めた。中規模照射実験装置とほぼ同様な装置に米を満たし、静止状態の米の吸収線量を空洞電離箱(Victreen社製555-100IC)で測定した結果、米の吸収線量の測定値と計算値は3%以内で一致した。
 中規模照射実験装置で60Co線源102.5TBqを用い、各照射領域内を通過する米の吸収線量を熱蛍光線量計(Harshow LiF, 外径1mm,長さ6mm)で測定した結果を表1に示す。

表1 Dose of irradiated rice(原論文2より引用)
----------------------------------------------
  In  x(cm)  υ(cm/h)  Dm(Gy)  Da(Gy)  e(%)
----------------------------------------------
  I1  10.0    326.1     204     201    -1.5
      16.4              100     100     0.0
  I2  16.6    145.2     214     204    -4.7
      24.5              106     100    -5.7
  I3  24.6    70.29     204     198    -2.9
      33.9              101     100    -1.0
----------------------------------------------
                               (1Gy=100rad)
In(n=1,2,3): Irradiation region  x: Horizontal diatance from the source to flow line of rice 
υ: Mean velocity of rice in an irradiation region Dm: Measured value of dose
Da:Approximate value of dose e: Relative error (=(Da-Dm)/Dm)
ここでxは線源から線量計挿入位置までの水平距離、vは米の平均流速、Dmは線量測定値、Daは線量計算値、eはDmに対するDaの相対誤差である。この結果から吸収線量の計算値は測定値と±5.7%以内でよく一致することが分かった。

コメント    :
γ線を利用した穀物の連続照射方法として、袋詰めした穀物をコンベアで照射するパッケージ照射がある。多目的に使用できるパッケージ照射は、穀物以外の他の照射も可能なことが有利である。他の放射線源として、電子線加速器があげられる。電子線加速器は、60Co線源の10倍以上の放射線強度を出すことが可能であることから、大量照射に適している。一方、60Co線源を使用した照射装置は、高度な加速器技術が必要でないため、開発途上国などに適している。

原論文1 Data source 1:
穀物照射装置の開発 ―穀物の流動と照射装置の諸元との関係―
星 龍夫、田中 進
日本原子力研究所高崎研究所
RADIOISOTOPES, 30, pp.437-442(1981)

原論文2 Data source 2:
穀物照射装置の開発 ―照射領域内の線量率分布―
星 龍夫、田中 進
日本原子力研究所高崎研究所
RADIOISOTOPES, 30, pp.443-448(1981)

キーワード:γ線、放射線、放射線殺虫、穀物、食品照射装置、線量分布、ビルドアップ係数、実験、gamma-ray, radiation, radiation disinfestation, grain, food irradiator, dose distribution, build-up factor, experiment
分類コード:020402,020403,020202

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