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作成: 1997/11/10 小林 亮英

データ番号   :020028
飼料原料の放射線処理
目的      :殺菌効果と飼料の健全性を両立させる照射技術の開発
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(104MBq)
線量(率)   :1-30kGy
利用施設名   :Soreq Nuclear Research Center, Yavne, Israel、日本原子力研究所高崎研究所照射施設
応用分野    :飼料調製貯蔵技術

概要      :
 飼料原料(混合飼料の原料)またはその材料となる未利用資源に放射線を照射する目的は、放射線のもつ殺菌力や殺虫力を利用して有害微生物、害虫の増殖を防ぐことにある。しかし、放射線の作用によって飼料原料自体に変化が生じ、家畜にとって有害な物質ができる可能性があるので、この面の化学的な検討が必要である。また、照射した飼料を実際に家畜に給与して、飼料の栄養価や安全性を実証する必要がある。

詳細説明    :
 ブロイラーの飼料原料であるトウモロコシ穀実に7及び10kGyのγ線照射を行い、カビの発生と穀実中の脂質含量に対する影響を調べ、その後ヒナに給与して生長に対する影響を調べた。照射後の穀実を、実用的な貯蔵形態を考慮した不完全密封容器に入れ、定期的に内容物の一部を採取してカビに感染した穀実数の割合を調べるとともに、穀実の飼料成分、容器内空気の炭酸ガス濃度を調べた。カビが増殖した場合には粗脂肪含量が低下したが、アフラトキシンは検出されなかった。飼養試験後にヒナを解体して各種の内臓の重量を調べたが、こう丸などの相対重量に異常値はなく、したがって、他のカビ毒(ゼアラレノンなど)が生産された状況もないと思われた。結論として、低水分のトウモロコシ穀実の場合、今回の照射線量ではカビの増殖を60日間抑制することができた。
放射線照射は脂質の酸化を促進する可能性があるので、ぬか類のように脂肪含量の高い対象物の場合はとくに脂質の変化に注意して、適正な線量を検討する必要がある。そこで、米ぬかとふすまを供試して、γ線照射を行い、脂質の変化とカビの増殖を8週間にわたって調べた。脂質に関する調査項目は粗脂肪含量、酸価、過酸化物価、カルボニル価および共役酸含量である。過酸化物価は米ぬか、ふすまとも0.3および3Mrad(3及び30kGy)区で上昇した。カルボニル価は米ぬか、ふすまとも3Mrad区が対照区よりも約20%高くなった。共役酸含量も同様に約20%高くなった。しかし、この程度の増加では家畜に有害な作用があるとは思えない。過酸化物価やカルボニル価は貯蔵中に上昇したが、粗脂肪含量が減少したため、飼料中の濃度としては大きな変化はなかった。
 放射線照射によって飼料中のアミノ酸が変化し、リジノアラニンやヒスタミンが生産される可能性がある。これらの物質は家畜にとって有害と考えられるので、照射によって蓄積されるかどうかを調べた。精製蛋白質やアミノ酸を用いたモデル水溶液系の照射実験では生産される場合があるが、複合系である魚粉などの飼料においては、放射線の作用を受け難いために蓄積されなかった。飼料用の新資源を開発する目的で、血液廃液(血粉採取後の廃液)と馬鈴薯デンプン廃液を用い、キトサンの添加によって懸濁物質を凝集して採取する技術を検討した。廃液からの回収物は微生物の汚染がある場合が多いので、γ線照射処理を組み合わせて殺菌を行った。適当な濃度のキトサンを添加すると廃液中の蛋白質などを回収できることが示され、0.5Mradの照射で廃液やキトサン凝集物を殺菌できることが判明した。
 牛の飼料として重要なサイレージは、乳酸発酵または酸の添加によって品質低下を防ぐことが調製の原則であり、殺菌・滅菌によって保存するものではない。適切な照射はサイレージの微生物相を変化させ、品質向上に役立つと予想されるが、研究報告は今までほとんどなされていない。好気性細菌の菌数は 1〜2kGyで急激に減少した。嫌気性芽胞菌は 8kGy以上ではほとんど検出されなくなった。カビと酵母については 4kGy以上の照射直後にはほとんど検出されないが、貯蔵中に酵母が増殖する場合があり、十分に抑制するには16kGy程度の照射が必要と思われた。以上のように、不良発酵や好気的変敗を防ぐには吸収線量が16kGy程度の照射が必要と思われる。乳酸菌の菌数は 4kGy以上の吸収線量によって照射後急激に減少した。この場合、飼料作物だけを材料とするサイレージは乳酸発酵が不活発であったが、粕類を材料に使ったサイレージでは貯蔵後のpHが低く、乳酸含量が高いものが得られた。好ましくない微生物を抑制するため 16kGy程度の高い線量で照射した場合は、粕類を併用することで乳酸発酵を促進できるものと考えられた。

コメント    :
 多くの飼料原料は、貯蔵中の品質低下、変敗を防ぐために何らかの処置を施す必要があることが多い。防腐剤、防黴剤などを用いる化学的方法は、取扱者に対する害作用が生じたり飼料中に薬品が残留したりする可能性があるので好ましくない。放射線の照射によって有害微生物、害虫の増殖を防ぐ方法は一つの有効な手段と考えられる。また、現在輸入されている飼料用穀物には、生産地の圃場に生えている雑草の種子が混入しており、有害な帰化植物が増加する原因になっている。それらの種子の発芽を防ぐためにも放射線照射は有効と考えられるので、今後研究する価値があると思われる。照射によって生じる可能性がある有害物質に関する研究をさらに進展させ、安全な飼料であることを示して、照射技術の普及をはかる必要があろう。

原論文1 Data source 1:
Efficacy of Gamma Irradiation in Preventing Moldiness and Preserving the Nutritional Value of Corn Grain for Broiler Chicks
N.PASTER, I.BARTOV, M.MENASHEROV, R.PADOVA* and I.ROSS*
Agric.Res.Organization, The Volcani Centre, P.O. Box 6, Bet Began 50250, Israel
*Soreq Nuclear Research Center, Yavne, Israel
Poultry Science, 70, p823 (1991)

原論文2 Data source 2:
ぬか類に対する放射線照射処理 -とくに照射および貯蔵中における脂肪の変化について-
滝川 明宏, 檀原 宏, 大山 嘉信
農林水産省畜産試験場
畜産試験場研究報告第30号 p15 (1976)

原論文3 Data source 3:
飼料および飼料原料の放射線処理に関する基礎的研究
久米 民和
日本原子力研究所
JAERI-M, 83-161, (1983)

原論文4 Data source 4:
放射線照射による粗飼料等の流通化のための品質保持・向上技術の開発
小林 亮英, 河本 英憲, 上垣 隆一, 田中 治, 安藤 貞, 秋山 典昭, 山田 明央
農林水産省草地試験場
科学技術庁平成7年度国立機関原子力試験研究成果報告書 p42-1 (1997)

キーワード:飼料原料、穀実、ぬか、サイレージ、キトサン、カビ、過酸化物
feed, grain, bran, silage, chitosan, mold, peroxide
分類コード:020301

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