放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1997/12/22 松橋 信平

データ番号   :020024
シゾフィランのγ線照射による低分子化
目的      :放射線分解によるシゾフィランの低分子化とその抗腫瘍活性
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :0.6- 84kGy
線量(率)   :60Co
照射条件    :減圧密封したガラスアンプル中(水溶液)、室温

概要      :
 抗腫瘍活性を持つシゾフィランにγ線を0.6〜84kGy照射した結果、分子量が低下し、還元末端の数が増加した。メチル化分析と抗腫瘍活性試験の結果、化学的な構造と抗腫瘍活性は0.6〜2.6kGyではほとんど変化しなかったが、20〜84kGyの照射により変化した。また、照射により化学的な構造や抗腫瘍活性が最も簡単に変化したため、シゾフィランの照射による低分子化の機構は、超音波処理や加水分解による機構とは異なることが推察された。

詳細説明    :
 
 シゾフィランはスエヒロタケ(Schizophyllum commune Fries)により産生される水溶性のβ-1,3-D-グルカンで、優れた抗腫瘍活性を持ち、分子量45万のシゾフィランが子宮頸ガンの治療薬として利用されている。シゾフィランは水溶液中で3重らせん構造を持つため、高粘性でチクソトロピックな流動特性を示す。シゾフィラン水溶液を超音波照射あるいは細管から高速で噴射することにより、その薬理活性や分子構造を変えることなく低分子化することができる。しかし、これらの方法は、分子量低下が進むにつれて、低分子化の効率が悪くなり、分子量が数万のシゾフィランを得るのに長時間の処理を必要とする。そこで、他の高分子多糖の低粘度化法として報告のあるγ線照射をシゾフィラン水溶液に適用し、そのときの低分子化について検討を行った。 
 
 照射溶液中の還元末端基数、ゲルろ過クロマトグラフィーおよび分子量の測定結果から、シゾフィランはγ線照射により、主として主鎖の分解による低分子化が起き、照射線量に比例して分子量が低下していくことが明らかとなった。(図1参照)。


図1 Change in molecular weight of schizophyllan during γ-ray irradiation.(原論文1より引用)

 0.6kGyおよび2.6kGyの低線量照射により得られたシゾフィランの分子量は、それぞれ75.2万および38万であったが、それらの基本構造はメチル化分析、exo-β-1,3-グルカナーゼによる検討により、非照射のシゾフィランの基本構造と全く同じであった。一方、8kGy、20kGyおよび84kGyの高線量照射で得たシゾフィランの分子量は、それぞれ23万、11万、および2.6万であったが、それらの基本構造は非照射のシゾフィランと比べて大きく変化し、その変化の度合いは照射線量が高くなるほど大きくなった。(図2参照)。


図2 Increase in reducing end group (●)and free glucose (○)during γ-ray irradiation.(原論文1より引用)

 マウスSarcoma-180腫瘍に対する抗腫瘍活性試験の結果から、分子量75.2万(No.5)および38万(No.4)の低分子シゾフィランは、真空凍結乾燥して得たシゾフィラン(N-SPG)と同様に、約90%の抗腫瘍制御率を示したが、基本構造の変化が著しかった分子量11万(No.2)および2.6万(No.1)のシゾフィランは、全く抗腫瘍活性が見られなかった。(表1参照)。

表1 Antitumor activity of N-SPG and γ-ray irradiated samples.(原論文1より引用)
-------------------------------------------------
Sample      Dose    Tumor weight(g)  Inhibition
          (mg/kg)    Mean±S.E.      ratio (%)
-------------------------------------------------
  N-SPG    10x1      0.38±0.330        90.3
  No. 1    10x1      4.63±3.468       -18.4
  No. 2    10x1      3.61±2.920         7.7
  No. 3    10x1      0.84±0.562        78.5
  No. 4    10x1      0.39±0.697        90.0
  No. 5    10x1      0.48±0.613        87.7
  Control  10x1      3.91±2.858         --
-------------------------------------------------
 以上の結果から、γ線を0.6〜2.6kGy照射しても超音波照射法と同様、シゾフィランの基本構造や抗腫瘍活性を変えることなく、約30万の分子量まで低分子化が可能であることが示された。

コメント    :
 水溶液のシゾフィランに放射線を照射して、高い抗腫瘍活性を得るのに適した構造と分子量が得られるかを検討し、これまでに用いたれている低分子化の手法と比較して、放射線法が優れていることを示している。このように生理活性物質の性質を変えることなく、効率よく分子量を変化させる手法の開発は、様々な分野で有効であると考えられる。

原論文1 Data source 1:
シゾフィランのγ線照射による低分子化
田畑けん吾、伊藤渡、平田昭夫、小島健正
台糖株式会社研究所、〒653神戸市長田区東尻池新町1-26
日本農芸化学会誌 第66巻11号 1633-1640 1992

キーワード:シゾフィラン、β-1,3-グルカン、抗腫瘍活性、放射線分解、低分子化
schizophyllan, β-1,3-glucan, antitumor activity, radiation degradation, depolymerization
分類コード:020304,010101

放射線利用技術データベースのメインページへ