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作成: 1997/12/20 久米 民和

データ番号   :020023
放射線処理による澱粉の有効利用
目的      :澱粉の放射線分解と有効利用
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :60Co-γ線、電子加速器
線量(率)   :1-50kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所食品Co棟照射施設
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :資源のリサイクル、環境汚染防止、省エネルギー

概要      :
 多糖類の1種である澱粉は、放射線によって分解し、粒子構造の崩壊、低分子化、粘度低下などが起こる。これらの変化により酵素による消化性が増大することを利用して、省エネルギー型発酵技術への応用が検討されている。また、高分子材料として、放射線グラフトによる酵素固定化剤としての改質、放射線重合を利用した生分解性プラスチックの開発等が試みられている。

詳細説明    :
 
 澱粉の放射線利用の研究は、1)食品や発酵工業分野における品質や消化性の向上、2)高分子材料としての改質、の2分野に大別される。
 食品中の澱粉変化に関しては、食品照射における品質劣化防止及び照射の有無の検知法への応用などが検討されている。また、ポテトチップス製造における褐変防止あるいは甘藷の甘みを増大させるといった観点から、 放射線によるイモ類のショ糖含量の変化が調べられている。


図1 ガンマ線照射した甘藷を30℃で貯蔵したときのショ糖と澱粉量の変化(原論文1より引用)

 図1は、放射線照射した甘藷の貯蔵中の澱粉含量の減少とショ糖含量の増加変化を示したもので、1kGy照射による澱粉からショ糖への変化は直接の分解でなく、貯蔵中の代謝系の変化によることを示している。一方、単離された澱粉を25kGyで放射線処理した場合には、照射によって著しい分解がおこり、粘度が低下する。放射線による殺菌効果と澱粉の分解効果を利用することにより、発酵工業への利用が検討されている。
 
 通常、澱粉の発酵は、蒸煮による殺菌と液化処理を行った後、酵素による糖化を行っている。蒸煮処理に使うエネルギーの削減、発酵の効率化を図るために生澱粉の酵素分解が検討されている。馬鈴薯澱粉の生澱粉消化性は、滅菌線量である25kGy程度のγ線を照射してもあまり向上しなかったが、低温蒸煮と組み合わせることにより著しい消化性の向上が認められた(図2)。


図2 Change in digestibility of irradiated potato starch by glucoamylase after cooking at low temperature(原論文2より引用)

 また、コーン澱粉でも、効果的な酵素分解に必要な温度は75-80℃であったが、照射との組み合わせにより65℃にまで下げることが可能となった。これらの変化は、照射による澱粉粒の崩壊、糊化温度の減少、粘度低下等に起因する。
 
 高分子材料の改質としては、酵素の固定化や生分解性ポリマー生産への応用が試みられている。Dungらは、澱粉にアクリルアミドをグラフトさせ、ウレアーゼの固定を行っている。澱粉に15%のモノマーを加えて5kGyの照射を行い、澱粉表面にカルボキシアミドグループを導入することにより、酵素の固定量及び繰り返し使用回数が著しく向上した。環境汚染防止の観点から注目されている生分解性ポリマー生産に関しては、ポリエチレンへの澱粉の導入、放射線による澱粉の酸化分解、放射線重合によるポリカプロラクトンの製造などが試みられている。
 
 大武らは、生分解誘引剤を含有する低密度ポリエチレン(LDPE)の開発と生分解性評価の研究を進めており、1)生分解の開始剤となる自動酸化剤として酸化オイルの添加が有効であること、2)ステアリン酸鉄等の有機金属化合物の添加による劣化促進効果、3)紫外線照射効果などを明らかにしている。とくに、紫外線照射は、LDPEの微生物に対する親和性を高め、酸化オイルや有機金属化合物の効果を促進することが認められた。今後、生分解性ポリマーの生産や分解促進に、放射線や紫外線の利用が進むものと考えられる。

コメント    :
 澱粉は放射線分解型の高分子であり、放射線分解を利用した改質が可能である。高分子多糖類である澱粉は放射線による分解が大きく、比較的低線量での改質が可能である。今後、省エネルギー、環境汚染防止の観点からの利用が進むものと期待される。

原論文1 Data source 1:
甘藷中の澱粉に及ぼすガンマ線照射の影響
林 徹、等々力 節子
農林水産省食品総合研究所
食総研報、58,(1994) 7-11

原論文2 Data source 2:
Change in digestibility of gamma-irradiated starch by low temperature cooking
T. Kume, Takasaki(Japan), S. Rahman, Dhaka(Bangladesh) and I. Ishigaki, Takasaki(Japan)
Starch, 40, 155 (1988) 155-158

原論文3 Data source 3:
Immobilization of urease on grafted starch by radiation method
N. A. Dung, N. D. Huyen, N. D. Hang and T. T. Canh
Biological Faculty, Ho Chi Minh University, Vietnam,
Nuclear Research Institute, Dalat, Vietnam
Radiat. Phys. Chem., 46, 1037 (1995)

参考資料1 Reference 1:
生分解誘引剤を含有するLDPEの開発と生分解性評価研究
大武 義人*、小林 智子*、伊藤 茂樹*、浅部 仁志**、矢吹 増男**、村上 信直***、小野 勝道****
*化学品検査協会、東京都墨田区東向島4-1-1、
   **荻原工業、岡山県倉敷市水島中通1-4
  ***竹中工務店、千葉県印旛郡印西町大塚1-5
  ****茨城大学工学部、茨城県日立市中成沢町4-12-1
日本ゴム協会誌、67、698(1994)

キーワード:澱粉、放射線分解、消化性、発酵、粘度変化、
starch, radiation degradation, digestibility, fermentation, viscosity change
分類コード:020301, 010506

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