放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1996/10/20 熊倉 稔

データ番号   :020015
放射線重合によって得られた担体による微生物固定化
目的      :放射線による微生物固定化
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :コバルトー60
線量(率)   :3-10kGy
照射条件    :ドライアイス温度
応用分野    :バイオマス変換

概要      :
 低温放射線共重合によって得られた重合体に酵母菌を固定化する方法において、固定化酵母菌のエタノール生産性はモノマー組成、共重合体の含水率によって変化し、エタノール生産性は26mg/ml・hrであった。また、水溶性架橋モノマーの放射線重合によって得られた粒子への酵母固定化では、エタノール生産性は8-10mg/g・hrであった。放射線重合によって得られた繊維状高分子担体によるトリコデルマ菌の固定化増殖菌体は、高い酵素産生活性を示した。

詳細説明    :
 
 HEMA、HEA、HPMA、M-23Gおよび4Gモノマーをいろいろの割合で混合し、γ線を低温で照射することにより重合した。このポリマー担体に前培養した酵母菌を添加し、30℃で振盪培養(72hr, 130rpm)を行なった。培養時間とともに酵母菌の増殖した集落がポリマーの表面に認められ、72hrの培養で担体・空孔が酵母菌で充たされた状態になった。培養によって菌体は担体表面で増えるが、それは培養の継続によって担体の中に侵入して増殖することがわかった。酵母菌の吸着および増殖はモノマーの親水性担体の多孔構造によって影響を受けた。HEA - M-23G(10% : 10%) で 80%水系からの担体はスポンジ状で弾性的であり、その空孔径は30-40μmであった。この担体を使用した固定化酵母のエタノール生産性は最も高い。HEA - M-23G(20% : 10%)系で固定化した場合、エタノール生産性は最も高く、26mg/ml・hrであり、これはフリー酵母の4倍であった。エタノール生産性と担体の含水率との関係では、含水率が増すとともにエタノール生産性が増大し、94.85%含水率の場合が最大であった。HEA - M-23G系からの担体において、モノマー組成が4% : 4%、6% : 6%の場合の含水率は最も高く、20% : 10%のモノマー組成よりも高い。
 
 しかし、エタノール生産性は逆であり、20% : 6%からの担体の空孔は大きくなり、そのため、酵母菌の固定化は困難であることがわかった。これを改善するために4Gモノマーを架橋剤として添加した。 高分子粒子への酵母菌固定化の研究では、菌体と水溶性モノマー溶液の混合溶液を-80℃に冷却した石油エーテルに滴下して粒子状に凍結させた。これにガンマー線を約3kGy照射した。照射後、エーテルを除去し、代わりに氷水を加えて解凍することにより、粒子状の固定化菌体を得た。アクリルアミド、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸ナトリウムをモノマーとして用いたときよりも、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PDM)をモノマーとして使用し て固定化した時の方が得られた固定化菌体は高いアルコール生産能を示した。
 
 固定化菌体を異なるpHのリン酸緩衝液中で35℃にて10時間インキュベートした後のアルコール生産能を調べた結果、固定化菌体は5.0-5.5のpH領域において最も安定であり、アルカリ側にいくほど不安定になった。固定化菌体のADH活性は、酵母1g、30%アクリル酸マグネシウム2ml、30%アクリル酸ナトリウム1ml、30%アクリルアミドを混合して放射線重合を行なった時に最も高い。固定化酵母のアルコール生産能は8-0mg/g.hrであり、固定化 Zymomonas mobilisの50-60mg/g・hrよりはるかに低い値であった。
 
 トリコデルマ菌の固定化では、固定化に使用する高分子担体はガーゼの表面を放射線重合によって修飾することにより作成した。モノマーにはテトラエチレングリコールジメタクリレートでアセトンに溶解して使用した。放射線重合によって修飾した担体の大きさは2X4cmで、これは菌体を含む培養液 に添加した。濾紙分解活性はモノマー濃度が増すとともに増大し、それは9X10-3ml/cm2の場合に最大になった。固定化菌体の濾紙分解活性は担体の表面積の関数であった。菌体の吸着は培養時間ととに進行して、培養を開始して1-2日目には、菌体は担体の表面に完 全に吸着され、固定化増殖菌体となった。
 
 固定化増殖菌体となった時点においては、培養液中のセルロース粉末などの固形物は菌体によって一緒に担体に包括吸着された。本実験では、二次元状構造の担体が菌体の固定化に効果的であった。非固定菌体と固定化菌体の培養時間による変化についての実験において、培養の初期では、両者の濾紙分解活性は同じ程度の値であるが、その後、8日頃から培養時間とともに固定化 菌体の濾紙分解活性が高くなり、非固定化菌体の濾紙分解活性の値を越えた。培養期間が13日目においては、固定化菌体の濾紙分解活性は非固定化菌体の約2倍の値に達した。濾紙 分解活性は、担体の編目構造のメッシュサイズを小さくすることにより増大した。この研究において、菌体が担体に吸着するためには、放射線重合によって修飾された繊維質からなる担体の繊維状高分子の太さ、表面の分子構造、編目構造におけるメッシュサイズなどが深く関与した。

コメント    :
 低温放射線重合を利用して得られた多孔高分子への酵母菌固定化では、高分子を親水性にする必要があるので機械的強度を保って菌体の脱離を防ぐことが重要であり、架橋性モノマーの添加による調節がポイントである。トリコデルマ菌体の固定化で、非固定化菌体よりも固定化菌体の方が酵素産生が高いというのは大変興味がある結果である。

原論文1 Data source 1:
Study on Immobilized Yeast Cells with Hydrophilic Polymer Carrier by Radiation-Induced Copolymerization
Zhengkui L., Bosen Z.*, Jingjing, Y.**
*Institute of Application of Atomic Energy, Jiangsu Academy of Agricultural
Science, Nanjing 210014, China, **Jiangsu Food and Fermentation Instutute, Nanjing 210008, China
Nucl. Sci. Tech., Vol. 4, p. 235 (1993).

原論文2 Data source 2:
食品関連有用微生物の固定 -Saccharomyces cerevisiaeの固定-
林 徹、杉本 敏男、青木 章平
農林水産省食品総合研究所食品流通部


原論文3 Data source 3:
Immobilization of Trichodema reesei by Radiation Polymerization
Ruimin Z., Zueteh M., Kaetsu I.*, Kumakura M.* 
Shanghai Applied Radiation Institute, Shanghai University of Science and Technology, Shanghai 201800, Chaina, *Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, JAERI, Japan
Radiat. Phys. Chem., Vol. 42, Nos. 4-6, p. 943 (1993).

キーワード:放射線重合、固定化、担体、酵母菌、セルラーゼ産生菌、Radiation Polymerization, Immobilization, Carrier, Yeast Cells, Cellulase Producing Cells
低温放射線共重合、重合体、酵母菌、固定化、エタノール、モノマー、共重合体、含水率、架橋モノマー、粒子、繊維状高分子、トリコデルマ菌、酵素、生産性、HEMA、HEA、HPMA、M-23G、4Gモノマー、ポリマー担体、振盪培養、担体、空孔、親水性担体、含水率、架橋剤、粒子
ポリエチレングリコ-ルジメタクリレート(PDM)、ADH活性、テトラエチレングリコ-ルジメタクリレート、培養液、分解活性、表面積、編目構造、多孔高分子
分類コード:020302

放射線利用技術データベースのメインページへ