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作成: 1996/10/12 熊倉 稔

データ番号   :020014
放射線照射を利用したウレア-ゼの固定化
目的      :放射線による酵素固定化
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :コバルト-60、電子線加速器
線量(率)   :3 - 10kGy/h
照射条件    :窒素気体中
応用分野    :臨床診断測定   

概要      :
 アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレ-トなどをデンプン、ポリアミド粒子に放射線グラフトし、それにウレア-ゼを固定化する方法、また電子線照射による放射線重合によって薄膜小円盤状にウレア-ゼを固定化する方法について研究し、得られた固定化酵素の酵素活性率は60-90%であった。

詳細説明    :
 
1.放射線グラフトしたデンプンへのウレア-ゼ固定化
 
 窒素気体中で放射線グラフトしたデンプン(1g)はリン酸緩衝液で洗浄し、10mlのリン酸緩衝液にウレア-ゼ(100mg)を含む水溶液に浸漬して、室温で4hr放置することにより固定化を行なった。 5 - 7.5kGyの照射線量がグラフトには最適であった。
 
 酵素の固定化には、15%モノマ-濃度において5kGyの線量で、15%モノマ-濃度において15kGyの線量で、5%モノマ-濃度において2.5kGyの線量で、それぞれグラフトしたデンプンを用いた。グラフトしたデンプンの酵素タンパクの吸着容量はグラフト条件によって変化し、5%モノマ-濃度において2.5kGyの線量でグラフトしたデンプンは18.4%の吸着容量を示し、線量が5kGyおよび15kGyの場合の吸着容量は、それぞれ60.2%と 63.0%であった。
 
 15%モノマ-濃度において5kGyの線量でグラフトしたデンプンを用いて得られた固定化酵素は繰返し酵素反応に使用することができ、その残存酵素活性率は70%であった。15%モノマ-濃度において5kGyの線量でグラフトした場合と15%モノマ-濃度において15kGyの線量でグラフトした場合のグラフト率は同じ値であるが、両者の酵素固定化容量は異った。
 
 
2.放射線グラフトしたポリアミド粒子へのウレア-ゼ固定化
 
 ポリアミド微粒子はヒドロキシエチルメタクリレ-ト、ビニルピロリドン、アクリルアミドなどのビニルモノマ-を用いて、放射線によってグラフトした。グラフトしたポリアミド粒子はヤドリギから抽出したβ-ガラクシド特異性レクチン(ML-1)のアフィニティクロマトグラフィによる分離に用いた。
 
 グラフトしたポリアミド担体(HiGRFT)のレクチン収率は40 - 50% で、ラクト-ス - セファロ-ス(Pharmacia-LKB)担体よりも高くなった。ヘキサメチレンジイソシアネ-トによってカップリングしたラクト-スを用いた場合のレクチン収率はジビニルスルホン(DVS)によるカップリングに比べて高く、その値は28%であった。
 
 HiGRFTを用いた場合のレクチン収率は従来のセファロ-スに比べて高く、その値は8 - 28mg/ 100gヤドリギであった。固定化ウレア-ゼによって尿素を加水分解して生ずるアンモニアは電気伝導によって連続的に測定した。
 
 最適条件下における加水分解は基質溶液の流速が0.35ml/min以下で5 - 50mM/l の濃度範囲で行なわれた。流速の低下によって、尿素の加水分解にともなうアンモニウムイオンの生成に比例して出力電圧の増加が認められた。この流速と出力電圧との関係定数は0.9845(0.7ml/ min)、0.9876(0.5ml/min)、0.9906(0.35ml/min)、0.9951(0.18ml/min)であり、尿素の完全な加水分解でないが、この測定法が尿素濃度に対して直線性のあることを示した。ウレア-ゼの固定化が28 - 75%の担体当たりの結合は2.8 - 7.5mg/100mgに相当した。
 
 
3.電子線照射によるウレア-ゼ固定化薄膜
 
 ウレア-ゼの固定化に用いたモノマ-はジエチレングリコ-ルジアクリレ-ト、テトラエチレングリコ-ルジアクリレ-ト、ノナエチレングリコ-ルジアクリレ-ト、テトラデカエチレングリコ-ルジアクリレ-トで、錠剤の成型にはマイクロプレ-トを使用した。錠剤の素材は濾紙で大きさは5mmφであった。室温におけるウレア-ゼの照射では、大豆粉の存在で照射すると、酵素活性の低下は阻止された。電子線照射において照射線量が1Mradにおいても大豆粉を添加することによって、酵素を失活させることなく固定化することが可能となった。固定化酵素の活性はモノマ-濃度によって増大し、90%モノマ-濃度において約50%の酵素活性率が得られた。
 
 これより、この方法で固定化された酵素は、錠剤の表面近傍に固定化されていることが推定された。固定化酵素の活性率は紙素材の厚さとともに増大し、固定化物の表面積は紙素材の厚さによって大きくなることを示した。固定化物の表面積の増大は酵素の担体表面への局在となり、酵素の基質との接触が容易となることが考えられる。250mμの錠剤の厚さにおける固定化酵素の活性率は約90%に達することがわかった。この固定化法によって固定化酵素錠剤は、繰り返し使用によって酵素活性率は低下しないことがわかった。

コメント    :
 放射線グラフトしたデンプンによる固定化は、ユニ-クな方法であるがゲル状担体であるため、長期的使用における安定性の評価が必要である。ポリアミド粒子にヒドロキシメタクリレ-トなどをグラフトして固定化する方法では、レクチンの分離に応用して従来のセフアロ-スに比べて良い結果を得ており有望である。電子線照射による固定化で、残存酵素活性が90%の高い値を得ており、表面固定化の特徴が出ている。    

原論文1 Data source 1:
Immobilization of Urease on Grafted Starch by Radiation Method
Dung N. A., Huyen N. D., Hang N. D.*, Canh T. T.*
Biological Faculity, Ho Chi Minh University, Vietnam, *Nuclear Research
Institute, Dalat, Vietnam
Radiat. Phys. Chem., Vol. 46, No. 4-6, p. 1037 (1995).

原論文2 Data source 2:
Application of Radiation Grafted Media for Lectin Affinity Separation and
Urease Immobilization: A Novel Approach to Tumor Therapy and Renal Disease
Diagnosis
Muller-Schulte D., Daschek W.*,
Institute fur Anorganische Chemie, RWTH Aachen, Professor-Pirlet-Strasse 1,
D-52074 Aachen, F.R.G., *Kuratorium fur Heimdialyse, D-52074 Aachen, F.R.G.
Radiat. Phys. Chem., Vol. 46, No. 4-6, p. 1043 (1995).

原論文3 Data source 3:
Appearance of High Enzyme Activity in Immobilized Urease Disc by Electron Beam Irradiation Technique
Kumakura M.
Department of Bioscience, The Nischi-Tokyo University, 2525 Uenohara,
Kitatsuru, Yamanashi 409-01, Japan
Biochem. Biophys. Res. Comm., Vol. 205, No. 1, p. 962 (1994).

キーワード:放射線重合、紙、デンプン、レクチン、固定化酵素
Radiation polymerization, Paper, Starch, Lectin, Immobilized enzyme
アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレ-ト、デンプン、ポリアミド、グラフト、ウレア-ゼ、薄膜、固定化、酵素活性、モノマ-、酵素タンパク、吸着容量、線量、酵素反応、ヒドロキシエチルメタクリレ-ト、ビニルピロリドン、ヤドリギ、β-ガラクシド特異性レクチン(ML-1)、担体(HiGRFT)、ラクト-ス、セファロ-ス、(Pharmacia-LKB)担体、ヘキサメチレンジイソシアネ-ト、カップリング、ジビニルスルホン(DVS)、尿素、電気伝導、基質、加水分解、担体、錠剤、ゲル
分類コード:020302

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