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作成: 1996/11/16 熊倉 稔

データ番号   :020013
放射線を利用したセルロ-スのアルコ-ル醗酵
目的      :セルロ-スのアルコ-ル醗酵
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :コバルト-60
線量(率)   :0-100Mrad, 2000rad/min
応用分野    :バイオマス変換

概要      :
 キシロ-ス醗酵酵母であるピチャスチピチスの変異菌は紫外線照射によって得られた。グルコ-スにより増殖減少を示す変異菌で、これはキシロ-スに対して醗酵活性を持った。フザリュウム菌に紫外線照射して得た変異菌はセルロ-ス分解活性を示した。トウモロコシは放射線前処理をすることにより酵素加水分解を促進した。酵母菌を紫外線硬化樹脂により固定化し、固定化酵母菌を連続醗酵に応用した。

詳細説明    :
 
1.紫外線照射による菌体の変異
 
 菌株Pichia stipitis に紫外線(254nm)を照射して変異を生じさせた。 変異菌株(M1ーM10)は野性菌株よりもグルコ-スからのエタノ-ル生成は70%ほど減少し、キシロ-スからのエタノ-ル生 成は30%ほど減少した。M4,M7,M8,M10などの変異菌株のエタノ-ル生成は野性株に比較し て60ー70%減少した。培養 が25時間後、野性菌株では基質が完全に消費されたが、変異菌株は残存糖濃度が初期糖濃度の14ー22%であった。変異菌株のM2'とM5'のグルコ-スの取込因子は野性菌株に比べ て、それぞれ15%, 14%低下し、興味ある結果となった。変異菌株の比エタノ-ル生産性は約0.16g/g・hとなり、これは野性菌株よりも33%低くくなった。また、M2'変異菌株の比生 産性は野性菌株よりも42%低下した。変異菌株のM 2',M3',M5'はほとんどの基質を消費し 、変異菌株M3',M5'のキシロ-ス取込は野性菌株よりも30%増大した。変異菌株のエタノ-ル生産性は約0.08g/g・hであり、これは野性菌株の値よりも若干高かった。
 
 フザリュウム菌の紫外線変異については、0.1%の生存率になるように紫外線を照射(254nm)した。フザリュウム菌株は1%キシロ-スでは48時間培養で4.2mg/mlのエタノ-ル生成となり、2%キシロ-スでは48時間培養で8mg/mlのエタノ-ル生成となった。キシロ-ス濃度の増大での醗酵はエタノ-ル醗酵速度を低下させた。醗酵は500ml容器を使用し、1%キシロ-スにおいて48時間で4.2mg/mlのエタノ-ル生成を得た 。この醗酵で、菌体をリサイクルした場合、1%キシロ-スの連続醗酵を行なうことにより48時間で4.3mg/mlのエタノ-ルを得た。4.5%キシロ-スに2%グルコ-スを加えての菌株 ANL22-760を使用した醗酵実験では72時間後に21mg/mlのエタノ-ル生成となり、また2%キ シロ-スにすると同じ時間で8.1mg/mlのエタノ-ル生成となった。7%キシロ-スに2%グルコ-スを添加した醗酵では116時間後に25.5mg/mlエタノ-ルと0.85mg/ml酢酸の生成で 72時間後には14.5mg/mlエタノ-ル生成という結果を得た。
 
 
2.トウモロコシの放射線照射前処理
 
 トウモロコシは放射線照射によって酵素加水分解への感受性を高め、50Mrad照射したトウモロコシの酵素加水分解は12%の還元糖を生成した。この還元糖量は未照射で熱処理したトウモロコシからの還元糖量よりも多かった。照射処理は熱処理トウモロコシの酵素分解性を増大させ、その値は熱処理物(1.86倍)より未処理物(3.1倍)の方が大きかった。5 0および100Mradの照射処理によって得られる還元糖は3.7および6.1%であった。照射した試料の発酵はアルコ-ル収率を増大させ、そして照射することによって糖化にあたってのデンプンの糊化のための熱処理を削除することが可能になった。1Mradを照射した非熱処理試料と非照射で熱処理した試料のアル コ-ル生成は同じであった。放射線の照射は発酵にあたっての滅菌処理を不要にすることができた。
 
 
3.紫外線照射による酵母菌固定化
  
 光硬化性樹脂液と所定濃度の酵母液を充分に混合し、これに300ー400nm の波長光を出す低圧水銀灯で照射した。使用した菌株 は従来の糖蜜培地でのアルコ-ル回分醗酵において高成績を得ているサッカロミセス属酵母の中から選別された、Y-501菌株で、光硬化性樹脂はENT-04であった。反応温度26ー40℃の範囲でアルコ-ル醗酵活性に対する温度の影響を 検討した結果、温度35℃で最大の活性を示した。
 
 しかし、温度が30℃以上になると酵母の増殖は低下する傾向になるため、長時間の安定活性を示す最適温度として低めの30℃を選定した。糖蜜を原料とし、糖濃度40-370 g/lの間で醗酵特性に対する基質温度の影響を調べた結果、糖濃度が250 g/lまでは一定割合でアルコ -ルを生成するが、それ以上になると最終アルコ-ル濃度は低下し、さらに高濃度になると醗酵が停止することがわかった。醗酵特性に対するアルコ-ル濃度の影響では、アルコ-ル濃度が増えれば酵母の醗酵活性が低下してくることがわかった。

コメント    :
 野性酵母菌株からの紫外線変異菌はグルコ-スよりもキシロ-スの醗酵活性が高くなり、リグノセルロ-ス廃資源のバイオマス変換において効果的である。糖化醗酵の前処理に放射線を利用する場合、適度な照射線量の選択が重要となる。光硬化樹脂を使用して、高い活性の固定化増殖酵母を得ており、長期間の連続醗酵が可能となるが、雑菌汚染の防止と対策の確立が重要である。

原論文1 Data source 1:
Fermentation of Lignocellulosic Sugars to Ethanol: Selection of Mutants of Pichia stipitis Affected for D-Glucose Utilization
Laplace J. M., Delgenes J. P., Moletta R.*, Navarro J. M.**
*Institut National de la Recherche Agronomique, Laboratoire de Biotechnologie de l'Environnement des IAA, Station d'Oenologie et de Technologie des Produits Vegetaux, Narbonne, France, **Universite de Montpellier II C.G.T.A., Microbiologie et Procedes Biologiques, Montpellier, France
Enzyme Microb. Technol., Vol. 14, 644 (1992).

原論文2 Data source 2:
Biomass Fermentation to Ethanol by Selected Fusarium Strains
Antonopoulos A. A., Wene E. G.
Argonne National Laboratory, Argonne, Illinois 60439, U.S.A.


原論文3 Data source 3:
Effect of Gamma-Ray Irradiation on Alcohol Production from Corn
Han Y. W.*, Cho Y. K.**, Ciegler A.***
* United States Department of Agriculture, Southern Regional Research Center, New Orleans, Louisiana 70179, U.S.A., ** Louisiana State University, Baton Rouge, Louisiana 70803, U.S.A.,*** United State Department of Agriculture, Southern Regional Research Center, New Orleans, Louisiana 70179, U.S.A.
Biotech. Bioeng., Vol. 15, p. 2631 (1983).

原論文4 Data source 4:
固定化酵母によるアルコ-ル生産技術の開発
飯田 高三


キーワード:放射線前処理、紫外線、キシロ-ス醗酵、アルコ-ル醗酵
Radiation pretreatment, Ultraviolet rays, Xylose fermentation, Alcohol fermentation
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分類コード:020302, 020301

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