データ番号   :020011
セルロースの飼料化


目的      :セルロース質廃棄物の飼料化
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :60Co-γ線、電子加速器
線量(率)   :10kGy-2MGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所食品Co棟照射施設
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :資源のリサイクル、環境汚染防止、キノコ生産

概要      :
 セルロース廃棄物は世界各地で大量に発生し、煙公害などの環境汚染の原因となっている。資源のリサイクル及び公害防止を目的に、放射線殺菌と発酵の組合せ処理によりセルロース質廃棄物を飼料などの資源として有効利用する。放射線殺菌と発酵の組み合わせ処理により、リグニン含量の少ない消化率の高い良質の飼料に変換することができる。

詳細説明    :
 
 世界各地で大量に廃棄されている農林産業及びその加工業からの廃棄物は、地球環境を著しく悪化させている。これら未利用農林産物及び農林産廃棄物の有効利用は、資源のリサイクルのみならず公害防止の面からも重要である。環境汚染源として問題となっている廃棄物の中で、動物の飼料や食糧に変換できる潜在的可能性を有するものとして、1. 畜肉、鶏肉、魚肉などの食品加工工場からの廃棄物、2. セルロース含有植物の収穫及び加工の際に出る木材や野菜の残さ、稲ワラ、サトウキビバガスなどの農林産廃棄物、等が挙げられる。
 
 食品加工工場からの廃棄物は一般にタンパク質含量が高く、回収してそのまま飼料として利用できるものが多い。一方、セルロース質の農林産廃棄物は直接飼料として用いることはできないが、微生物などを用いて飼料に転換して利用することができる。
 
 
1.放射線処理による消化率の向上と経済性
 
 地球上のセルロース廃棄物としては、ワラ類が20億トン、豆類から600万トン、サトウキビ搾り粕バガス200万トンなど莫大な量が排出されている。これらのセルロース廃棄物はγ線や電子線を照射することにより、消化性を向上させ飼料として利用することができる。麦わら等は、0.1〜2MGyの高線量の放射線処理によってセルロースやヘミセルロースを分解し消化性を増大できる。
 
 消化性を向上させた飼料を乾燥重量30トン/日生産するためのコストが試算されている。必要線量0.1MGyで3000トンの原料を処理するためには、16,000kWの出力の放射線処理装置が必要となる。電子線の場合には、160kWの電子加速器が100台必要であり、γ線の場合10MCiの照射施設が130台必要となる。処理コストとしては、電子線が4.2セント/kgに対して、γ線では192セント/kgかかり、γ線処理は実用上不可能と考えられる。必要線量が高くなればコストも高くなり、電子線でも0.1MGyで4.2セントが、0.5MGyで12セント、1MGyで20セントとなる。実用照射のためには必要線量を下げることが必要であり、50kGy以下の殺菌線量を用いた発酵との組み合わせ処理などは経済性の面から有望である。
 
 
2.照射とアルカリ処理の組み合わせ効果
 
 セルロースの酵素消化性は、照射とアルカリ処理を組み合わせることにより増大する。0.1〜1.7MGyの照射と1〜15%のNaOHの組み合わせ処理を行ったトウモロコシ残さをPleurotus sajor-cajuを用いて発酵させた場合、著しいタンパク質含量の増大が認められる。最終産物の最高タンパク質含量は45%に達し、90%以上のセルロースがタンパク質に転換された。0.1%のNaOHで1時間処理した後、50kGy照射したセルロース廃棄物の酵素消化物中にはキシロースが増加しており、照射とアルカリ処理による消化性の向上はヘミセルロース部分の分解性の増大によると考えられた。
 
 
3.バガス及び稲ワラの飼料化
 
 バガス及び稲ワラはセルロース資源飼料化のために取り上げられている代表的なものである。30kGyの照射で滅菌処理した発酵培地に、各種糸状菌を接種して1カ月間培養した。用いた菌の中では、Polyporus arcularius, Hericium erinacium, Ganoderma lucidum, Coprinus cinereus等による分解が著しく、セルロース廃棄物の飼料化で妨げとなるリグニン含量が著しく低減した。
 
 
4.オイルパーム廃棄物の飼料化
 世界最大のパーム油生産国であるマレイシアでは、空果房や果肉繊維などのセルロース廃棄物が各々年間300万トン以上排出されているが、繊維が堅く反芻動物でも消化できないため、飼料として利用するためには発酵処理が必要である。オイルパーム飼料化処理工程の概略を図1に示す。


図1 オイルパーム飼料化工程の概略図(原論文1より引用)

 パーム果実を分離した後に残る空果房を2〜3 cmに細断し、無機窒素源や米ぬかなどを加えて袋詰めする(発酵培地の調製)。オイルパーム廃棄物は微生物汚染が著しいので、γ線や電子線で10kGy〜30kGy照射して発酵の妨げとなる微生物を殺菌する。殺菌を行った後、オイスターマシュルームというヒラタケ菌の1種を接種して1ヶ月間発酵処理を行う。できた発酵産物は飼料として利用でき、同時にキノコを収穫することも可能である。発酵処理することにより、消化の妨げとなるリグニン含量を効率よく低下させて消化性を向上させるとともに、タンパク質含量を増大させることができた(表1)。

表1 L.sajor-cajuによるキノコ及び飼料の生産(発酵産物の成分組成)(原論文1より引用)
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      粗繊維 NDF*1 ADF*2 ヘミセルロース リグニン 粗タンパク質
      (%) (%) (%)   (%)    (%)      (%)
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未処理      46.7    82.7   64.2       18.5         17.5         2.6
発酵産物*3   33.8    55.5   45.2       10.3         11.4        10.6
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*1,中性溶媒不溶繊維 *2,酸性溶媒不溶繊維 *3,L.sajor-caju 1ヶ月培養


コメント    :
 地球上には莫大な量のセルロース廃棄物が排出されているが、これらを有効利用するためには、その経済性が問題となる。ワラなどのセルロース資源は畑地から回収集荷するためにコストがかかり、付加価値の高い資源への変換利用以外は経済的に実用化は難しい。飼料の付加価値はそれほど高くないため、処理費用の高い照射は、線量をできるだけ低く抑える必要があり、放射線処理による直接の分解性の向上を目的とすることは現実的でない。10-30kGy程度の殺菌線量の照射と、発酵処理との組み合わせによる飼料化が有望であろう。特に、オイルパーム廃棄物は、工場でまとまって排出されるため、集荷の手間や費用が省け、セルロース廃棄物としては最も有望なものであろう。

原論文1 Data source 1:
放射線による農林産廃棄物の有効利用
久米 民和
日本原子力研究所高崎研究所、〒370-12 高崎市綿貫町1233
放射線と産業、No.67, p17 (1995)

原論文2 Data source 2:
Effect of γ-Irradiation on Enzymatic Digestion of Oil Palm Empty Fruit Bunch
Matsuhashi S, Kume T, Hashimoto S, Mat R Awang*
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki, Gunma 370-12, Japan, *Malaysian Institute for Nuclear Technology Research, Ministry of Science, Technology and Environment, Kompleks PUSPATI, Bangi, 43000 Kajang, Selangor, Malaysia
J. Sci. Food Agric., 69, 265 (1995)

原論文3 Data source 3:
Radiation and Fermentation Treatment of Cellulosic Wastes
Malek M A, Chowdhury N A, Matsuhashi S*, Kume T*
Institute of Food and Radiation Biology, Atomic Energy Research Institute, P.O.Box 3787, Dhaka, Bangladesh, *Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki, Gunma 370-12, Japan,
Mycoscience, 35, 95 (1994)

原論文4 Data source 4:
Effect of Irradiation, as a Pretreatment, on Bioconversion of Corn Stover into Protein-rich Mycelial Biomass of Pleurotus sajor-caju
Awafo V A, Chahal D S, Charbonneau R
Applied Microbiology Research Center, Institute Armand Frappier, Universite, Du Quebec, 531 Boulevard Des Prairies, Laval, Quebec, Canada
Radiat. Phys. Chem., 46, 1299 (1995)

原論文5 Data source 5:
Economic Feasibility of Converting Cellulosic Materials into Animal Feed by Ionizing Energy Pretreatment
Trump J G,
High Voltage Engineering Corporation, Burlington, Massachusetts, USA
K840246(92-0-111183-5) Nucl. Techniques Assessing Improv. Ruminant Feeds, pp203-211 (1983)

原論文6 Data source 6:
Gamma and Electron Radiation Effects on Agricultural By-products with High Fibre Content
Leonhardt J W, Hennig A*, Nehring K**, Baer M, Flachowsky G*, Wolf I*
Central Institute of Isotope and Radiation Research, Leipzig, *Sektion Tierproduktion Veterinarmedizin-WB Tierernahrungschemie, Karl-Marx-Universitat, Jena, **Wilhelm-Piech-Universitat, Rostock, German Democratic Republic
K840246(92-0-111183-5) Nucl. Techniques Assessing Improv. Ruminant Feeds, pp195-202 (1983)

作成: 久米 民和
1996/11/29

キーワード:セルロース、飼料、農林産廃棄物、キノコ生産、放射線分解、殺菌、オイルパーム、廃棄物、バガス
cellulose, animal feeds, agro-wastes, mushroom production, radiolysis, radio-pasteurization, oil palm wastes, bagasse
分類コード:020301,020302