作成: 1996/09/01 等々力 節子
データ番号 :020005
化粧品製造における放射線利用
目的 :化粧品原料および製品の殺菌、滅菌
放射線の種別 :ガンマ線
放射線源 :コバルト60
線量(率) :5-35kGy
利用施設名 :ガンマセル220(Nordion)
照射条件 :常温、大気中
応用分野 :化粧品製造
概要 :
化粧品原料及び製品についてγ線による殺菌効果と品質について検討した。化粧品原料として4種類、タルク、ゼラチン、デンプン、ベントナイトを選び、25kGyでγ線照射を行い、殺菌効果と品質への影響のないことを確認し、この分野への応用の可能性が示された。また、最終製品としてコールドクリームについても5ー35kGyのγ線照射が殺菌に有効であることが示されている。
詳細説明 :
1、化粧品原料のγ線照射
化粧品やその原料は微生物の温床となり易く、近年、保存料等の使用が敬遠される動きもあることから有効な殺菌方法が求められている。γ線照射は医療器具の滅菌などと同様に化粧品に対しての殺菌、滅菌に有効な方法であると考えられるが、その導入にあたっては、品質に対する影響を検討し、データを蓄積する必要がある。その一環として、カナダ化粧品香料協会の微生物部会では4種の化粧品原料とそれらを含む製品について、γ線照射の試験を計画した。
試験の計画は2段階に分けられ、まず最初の段階では、原料としてベントナイト、ゼラチン、デンプン、タルクの4種を選び、ガンマセル220を用いて25kGyの線量(線量率4kGy/h)で照射し微生物に対する効果と製品の品質変化を検査した。微生物については汚染していた菌について殺菌効果が認められ、また、B.pumilus を接種した場合でも充分な効果が認められた。これらの効果は照射後12ヶ月までの期間にわたり有効であった。製品の品質もUSP基準に適合していた。次の段階としてこれらの照射原料を使いシャンプー、ローションなどを製造し、外観、比重、粘度、固形物量、微生物について製造後36ヶ月に渡って試験する事を計画している。現段階では、最終結論は得られていないが有望な見通しが得られている。
2、最終製品(コールドクリーム)のγ線照射
中国ではコールドクリームのγ線照射試験が行われ、品質と滅菌効果について検討された。照射条件としては、室温(25℃)線量率0.2-0.6kGyで5-35kGyの線量が用いられた。 照射後の品質変化について検討し、以下のような結果がえられた。
(1)外観:2-15kGyまでの線量では外観には変化は認められず、15kGy以上では若干の退色が認められた。クリームの均質性については、用いられた線量の範囲で変化がなく、芳香については20kGyまで変化がなかった。また、40℃-18℃の範囲の加熱、冷却の繰り返しを行っても品質変化は認められなかった。20kGyまでの照射線量を変えたときのクリームの粒子サイズ,pH,クロロホルム、水抽出物の乾燥重量を表1に示す。
表1 pH, size,dry weight in water and chloroform. (原論文2より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem. Vol.42, No.4-6, p651-653(1993), Tab.1(p.652), Qu L.B., Zhou Z.M., Liu J.X. and Chen X.L., Effect of γ-Radiation on Ointment Cold Cream; Copyright(1993), with permission from Elsevier Science.)
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dose size of pH value CCl4 dry H2O dry
(kGy) granula(μm) weight(g) weight(g)
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0 3-4 7.15 8.71 1.20
3 3-4 7.16 8.70 1.21
5 3-4 7.15 8.80 1.22
7 3-4 7.18 8.60 1.20
10 3-4.5 7.18 8.70 1.20
15 4-5 7.16 8.60 1.23
20 5-6 7.17 8.65 1.24
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粒子サイズについては、線量の増加にともなってコロイド間の凝縮が起り粒径の増大がみとめられた。
(2)化学変化:FTIRおよびUVスペクトルには照射の影響は認められなかった。また、ガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーによっても新しい化合物の生成を示すようなピークは認められなかった。酸化還元電位について検討した結果、15kGy以上の照射で酸化電位の増加が認められた。元素分析の結果有意な変化はなく誘導放射能も認められなかった。(3)殺菌効果:表2に照射線量と微生物数の関係を示した。
表2 Effect of radiation sterilization. (原論文2より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem. Vol.42, No.4-6, p651-653(1993), Tab.5(p.653), with permission from Elsevier Science.)
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dose(kGy) 0 2 4 6 8 10 12 15 20 preservative
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bacteria 62,000 5,700 3,200 1,100 800 600 500 500 480 4,800
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4-15kGyの照射で95%以上の微生物の死滅が認められ、製品の衛生管理上充分な殺菌効果が得られた。以上のことからγ線照射が製品の物理化学的な性状に変化を与えることなく有用な殺菌技術として使えることが示された。
コメント :
化粧品製造の工程に数10kGyのレベルのγ線殺菌の技術が有効であることが示されている。但し具体的な製品に応用する為には、文献数が限られており、より多くのデータの蓄積が必要になると思われる。
原論文1 Data source 1:
%1)Radiation Processing Technology for Cosmetics: A Report on a Canadian study
Reid, B. D.
Seifen-Ole-Fette-Wachse Vol.117 No.4 p155 (1991)
原論文2 Data source 2:
Effect of γ-Radiation on Ointment Cold Cream
Qu L.B., Zhou Z.M., Liu J.X. and Chen X.L.*
Chem.Dept. of Zhengzhou University, Henan 450052, China, Henan Medical University*, Henan
450052, China
Radiat. Phys. Chem. Vol.42, No.4-6, p651(1993)
キーワード:化粧品 、γ線、滅菌、cosmetics, gamma-ray, sterilization
殺菌、タルク、ゼラチン、デンプン、ベントナイト、コールドクリーム、微生物、保存料、カナダ化粧品香料協会、ガンマセル220、汚染、菌、B.pumilus、USP基準、シャンプー、ローション、中国、退色、粒子サイズ, pH,クロロホルム、水抽出物、コロイド、衛生管理上
分類コード:020403,010403