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作成: 1996/08/18 林 徹

データ番号   :020004
生薬およびハーブの放射線殺菌
目的      :生薬に対する殺菌効果と薬効成分に対する放射線の影響についての研究
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :コバルト60
線量(率)   :0.1-25kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :食品照射、製薬、食品工業

概要      :
 漢方薬の原料となる生薬は多いもので1g当たり100万個以上の微生物で汚染されているが、5kGy(500krad)のガンマ線を照射すると1g当たり100個以下にまで微生物数を減少させることができる。また、生薬中の薬効成分は10kGy照射してもほんど分解しない。

詳細説明    :
 
1.生薬に対する殺菌効果
 
 センナ、チンピ、オーバク、ゲンチアナ末、カンゾウ、ショウキョウ、シャクヤク、ブクリョウ、ケイヒ、サンシュシュ、ソウキュウ、ジオウに種々の線量のガンマ線を照射した時の生菌数を表1に示す。

表1 漢薬系原料植物に対する放射線(γ線)の殺菌効果(細菌)(原論文1より引用)
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              照射前       種々線量照射後の生菌数の推移
品目          生菌数   -----------------------------------------------
               10krad    50krad    100krad  500krad    1Mrad   
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センナ       4.7×104 <1.0×102 <1.0×102 <1.0×102 <1.0×102 <1.0×102
チンピ       4.5×106  8.3×105  6.9×105  7.3×105 <1.0×102 <1.0×102
オーバク     3.7×106  1.9×105  5.9×104  6.7×104 <1.0×102 <1.0×102
ゲンチアナ末 2.4×106  1.6×105  8.9×104  1.2×105 <1.0×102 <1.0×102
カンゾウ     2.4×104  6.8×103  8.2×102 <1.0×102 <1.0×102 <1.0×102
ショウキョウ 1.3×105  6.8×103  8.2×103  9.2×103 <1.0×102 <1.0×102
シャクヤク   9.9×102  8.7×102  6.1×102  3.2×102 <1.0×102 <1.0×102
ブクリョウ   1.1×103  1.4×103  8.1×102  3.9×102 <1.0×102 <1.0×102
カンゾウ     1.4×105  9.1×104  8.6×104  8.8×102 <1.0×102 <1.0×102
ケイヒ       4.6×104  9.8×103  6.9×102  2.9×102 <1.0×102 <1.0×102
サンシュシュ 2.3×102  3.7×102  4.1×102  1.6×102 <1.0×102 <1.0×102
ソウキュウ   6.4×102  7.2×102  2.7×102 <1.0×102 <1.0×102 <1.0×102
ジオウ       7.6×102  6.9×102  7.0×102  4.2×102 <1.0×102 <1.0×102
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表中数値は試料1g当たりの生菌数(10krad=100Gy)
 チンピ、オーバク、ゲンチアナ末の生菌数は多くて1g当たり100万個以上であり、シャクヤク、サンシュシュ、ソウキョウ、ジオウの生菌数は少なくて1g当たり1000個以下である。生菌数にかかわらず、いずれの生薬も、5kGyのガンマ線を照射することにより、微生物数を1g当たり100個以下にまで減少させることができる。さらに、10kGy照射すると、すべての生薬において、一般生菌測定方法では微生物が検出できなくなり、25kGy照射すると無菌試験結果が陰性となる。

2.薬効成分に対する影響
 
 生薬の薬効成分に対する放射線の影響は小さい。表2に示すように、ケイヒを10kGy(1Mrad)照射しても、シンナミンアルデヒドの減少量はわずか8%であり、ケイヒ中のシンナミンアルデヒドは放射線照射に対して安定なことがわかる。

表2 ケイヒ中の成分含量に対する放射線(γ線)の影響(原論文1より引用)
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            シンナミンアルデヒド      精油含量
          --------------------------
         含量実測値(%)  含量平均値(%)   (ml)
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照射前   0.6291V/v      0.6135         0.74
          0.5978
照射後    0.5738         0.5643         0.76
(1Mrad)   0.5548
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(1Mrad=10kGy)
 オーレン中のベルベリン、オーバク中のベルベリンは放射線に対して安定であり、10kGy照射してもこれらの成分含量はまったく変化しない。また、カンゾウ中のグリチルリチンも放射線照射に対して安定であり、ガンマ線を10kGy照射した時の減少量はわずか7%である(表3)。

表3 ロットを異にする生薬原料に対する放射線(γ線)の影響(主要活性成分含量の変化)(原論文1より引用)
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          オーレン    オーバク    カンゾウ
照射線量       (ベルベリン)(ベルベリン)(グリチルリチン)
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照射前       6.0       3.2       2.9
照射   50krad    6.0       3.1       2.9
      100krad    5.9       3.2       2.9
      500krad    6.0       3.2       2.7
        1Mrad    6.0       3.2       2.7
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表中数値は含量成分%を示す(10krad=100Gy)
 なお、カンゾウ中のグリチルリチンを10kGy照射してもほとんど分解しないという報告もある。
中国では多くの漢方薬原料となる生薬(ハーブ)の薬効成分に及ぼす放射線の影響について検討されている。中国の研究によれば、124種類の生薬のうち、10kGy照射すると薬効成分の分解が観察されたものが16種類、5kGy照射により薬効成分の分解が観察されたものが6種類であった。
 
 なお、中国における研究においても、2kGy照射では薬効成分が分解する生薬はなかった。薬効成分の放射線分解は水分含量や共存物質の影響を受ける。水分含量が高いほど、薬効成分は照射により分解されやすくなる。一方、グルコースやフラクトース等の糖が共存すると、薬効成分は照射により分解されにくくなる。
以上の結果より、放射線照射は薬効成分の分解をほとんど起こすことなく、生薬を殺菌することができるものと期待される。

コメント    :
 生薬を5-10kGy照射すればほぼ滅菌できることはすでに明らかである。また、今までに得られたデータから薬効成分は放射線に対して安定であることが予想される。しかし、数多くの生薬の薬効成分に対する放射線の影響に関するわが国独自のデータが必要であろう。

原論文1 Data source 1:
医薬品・化粧品ならびに医療用具等の微生物汚染対策としての放射線の利用と現状
石関 忠一
国立衛生試験所、〒158 東京都世田谷区上用賀1-18-1
RADIOISOTOPES, Vol.34. p282 (1985)

原論文2 Data source 2:
Radiolysis of Herbs.
Wu J, Zhang X, Yuan R, He Y,
Department of Technical Physics, Beijing University, Beijing 1 00871, P.R. of China
Radiat.Phys.Chem., Vol.46, No.2.p275 (1995)

参考資料1 Reference 1:
生薬原料の品質保証への放射線利用
木村 捷二郎
大阪薬科大学 〒580 大阪府松原市河合2-10-65
放射線と産業, No.67.p27 (1995)

キーワード:生薬、ハーブ、殺菌、滅菌、薬効成分
crude drug, herb, disinfection, sterilization, effective component
漢方薬、微生物、センナ、チンピ、オーバク、ゲンチアナ末、カンゾウ、ショウキョウ、シャクヤク、ブクリョウ、ケイヒ、サンシュシュ、ソウキュウ、ジオウ、菌、シンナミンアルデヒド、ベルベリン、グリチルリチン、グルコース、フラクトース、糖、
分類コード:020402,020403,

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