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作成: 1996/09/16 古田 雅一

データ番号   :020001
カビによる汚染食品の放射線照射によるマイコトキシン産生の変動
目的      :カビによって汚染された食品に放射線照射を行った際にカビのマイコトキシン生産量がどのように変化するか調べ、照射食品の毒性学的安全性に与える影響を明らかにする。
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :60Coガンマ線源、電子加速器(10 MeV, 4.5 kGy/s)
線量(率)   :0.5-20 kGy, 1.01-12 kGy/h
照射条件    :空中照射
応用分野    :食品衛生、

概要      :
 食品照射、とりわけ穀類やピーナッツの照射後のマイコトキシンのレベルの変化については増加、減少ともにいくつかの研究報告が存在するが、照射条件や照射後の培養条件がそれぞれ違うため、一律に結論づけることはむずかしい。実際の照射量や保存状態により近い条件、すなわち乾燥状態での低線量照射を行った場合には、アフラトキシンの産生率は放射線照射により増加しないことが示された。

詳細説明    :
 
 食品照射、とりわけ穀類やピーナッツの照射によりアフラトキシンのレベルが上昇することが示唆されてきた。このことは照射後様々な培養条件のもとで検討されたいくつかの研究結果に基づくものである。一方照射後アフラトキシンのレベルが減少するという報告や増減について特定できないという報告もある。
 
 このような研究はカビの生育に最適な湿度の下で行われ、主として実際の商品に用いられる線量よりもはるかに高い線量で照射された場合であった。結局、実際の照射量や保存状態により近い条件、すなわち乾燥状態での低線量照射を行った研究により、アフラトキシンの産生率は放射線照射により増加しないことが示された。
 
 インドネシア産のナツメグから単離されたAspergillus flavusの胞子をナツメグ及びピーナッツに接種して検討したところ、ガンマ線を3 kGy照射した場合、湿度85%では生育は見られず、91-97%では1 kGyまでの照射で菌糸の生育、アフラトキシンの産生が少し抑制される程度であったが、3 kGy以上の照射では完全に抑制された。しかし、湿度97%でナツメグの場合25日、ピーナツの場合3日、湿度95%でそれぞれ45日、6日でアフラトキシンの産生が再び検出された。またAspergillus flavusの生育速度は接種量とは無関係であるという報告がある。
 
 maize meal brothへの接種量を1,000分の1から10,000分の1まで希釈するとアフラトキシンの産生量は3〜12倍に上昇した。60Coガンマ線3.5 kGyの照射により1,000分の1から10,0000分の1まで菌数を減らすとアフラトキシンの量は上昇したが、希釈により接種量を減らした場合と大差なかった。湿度85%で60℃、30分処理と4 kGy照射を併用した場合にはアフラトキシンの産生は完全に抑えられた。
 
 一方、黄色トウモロコシとピーナッツにAspergillus flavusを接種し、ガンマ線を照射した場合、アフラトキシンB1は最も感受性で、B2は他の異性体に比べて最も抵抗性が高かった。アフラトキシンB1とG1はそれぞれ10 kGy, 20 kGyで完全に分解されたが、その類縁体のB2とG2は最も放射線抵抗性が高いことが見いだされた。これらの分解率は線量の増加とともに高まったが、20 kGy照射の場合でも83%の分解率にしか達しなかった。また低酸素条件下や高二酸化炭素、窒素条件下では穀類でのカビの生育やアフラトキシン、オクラトキシン、パツリン、ペニシリン酸、T-2等のマイコトキシンの産生が効果的に抑制されることが見いだされている。
 
 しかし、カビの生育を抑制するのに必要な二酸化炭素濃度はマイコトキシンの抑制に必要な値よりもはるかに小さくてよい。高二酸化炭素雰囲気におけるこれらの抑制は湿度や温度などの環境要因により左右される。しかしながらマイコトキシンの産生については生合成経路がブロックされるだけであり、化合物の分解が生じる訳ではない。カビを接種する前に照射処理を行った場合には、コムギではアフラトキシンの産生量が増加し、オオムギやトウモロコシでは逆に減少した。接種する胞子の量、穀粒の状態、相対湿度やその他の環境条件が影響するものと考えられる。
 
 一方、Aspergillus occhraceusの産生するオクラトキシンの場合は胞子や菌糸の照射により、一貫して産生量の増加が見られた。Aspergillus alutaceus var. alutaceusのD10値は、pH3.6-8.8の範囲で電子線照射(10 MeV)の場合0.21-0.22 kGyであり、ガンマ線照射の場合、0.24-0.27 kGyであった。捻性のあるオオムギ種子にこのカビの分生胞子を接種し、照射したのち、28℃、湿度25%の条件で保存したところ、オクラトキシンの産生量は線量の増加にともない減少した。放射線照射後に接種した場合には毒素産生量は非照射の場合よりも高まった。この場合、接種量を10-5から10-2に増やした方が毒素産生量は高まった。照射前に種子を薬剤殺菌した場合には放射線照射による毒素産生の上昇は見られなかった。以上の結果は、放射線照射による競合する微生物相の減少が毒素産生量増大の原因であるという仮説を支持する。

コメント    :
 放射線照射によるカビ類の毒素産生の増減には種々の要因が複雑にかかわっており、単純に結論を出すのは早計であろう。一つ一つの要因を分離し、それぞれについて丁寧に細かく検討し、得られた結果を統計的に解析することが重要であると考えられる。

原論文1 Data source 1:
THE EFFECT OF HUMIDITY AFTER GAMMA- IRRADIATION ON AFLATOXIN B-1 PRODUCTION OF A. Flavus IN GROUND NUTMEG AND PEANUT
Hilmy, N.*, Chosdu, R.* and Matsuyama, A.**
* Center for The Application of lsotopes and Radiation, Jakarta, Indonesia ** Nodai Research Institute Tokyo University of Agriculture Tokyo. Japan
Radiat. Phys. Chem. Vol. 46. No. 4-6, pp. 705-701

原論文2 Data source 2:
EFFECT OF GAMMA RADIATION ON THE INFECTED YELLOW CORN AND PEANUTS BY ASPERGILLUS FLAVUS.
R. S. Farag*, M. M. Rashed*, A. A. Husseln** and A. Abo-Hagar*,**
*Biochemistry Department, Faculty of Agriculture, Cairo University **National Research Center, Dokki, Cairo *** Agriculture Research Center, Ministry of Agriculture, Cairo
Chem. Mikrobiol. Technol. Lebensm. 17 (3/4)93-98 (1995)

原論文3 Data source 3:
Mould spoilage and mycotoxin formation in grains as controlled by physical means
Nachman Paster1 and Lloyd B. Bullerman 2
1Agricultural Research Organization, The Volcani Center, Bet, Dagan, Israel and 2Dept. of Food Science and Technology, University of Nebraska, Lincoln, NE, USA.
International Journal of Food Microbiology, 7 (1988) 257-265

原論文4 Data source 4:
influence of irradiation of food on aflatoxin production.
G.E. MITCHELL
The Queensland Food Research Laboratories, Queensland Department of Primary Industries. 19 Hercules Street Hamilton, Gld. 4007
324 FOOD TECHNOLOGY IN AUSTRALIA, VOL. 4O(8) AUGUST 1988 324-326

原論文5 Data source 5:
Role of the Competitive Microbial Flora in the Radiation-Induced
Enhancement of Ochratoxin Production by Aspergillus alutaceus
var. alutaceus NRRL 3174
W. S. CHELACK,* J. BORSA,1 R. R. MARQUARDT,2 AND A. A. FROHLICH2
Radiation Applications Research Branch, AECL Research, Whiteshell Laboratories, Pinawa, Manitoba, Canada ROE ILO,1 and Department of Animal Science, University of Manitoba, Winnipeg, Manitoba, Canada R3T 2N22
APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, Sept. 1991, p. 2492 - 2496 Vol. 57, No. 9

原論文6 Data source 6:
Influence of inoculum size of Aspergillus flavus Link on the production of aflatoxin B1 in maize medium before and after exposure to combination treatment of heat and gamma radiation
G. T. Odammten, V. Appiah and D. I. Langerak
International Facility for Food Irradiation Technology, P.O. Box 230, 6700 AE, Wageningen, The Netherlands
International Journal of Food Microbiology, 4 (1987) 119-127

キーワード:放射線照射、湿度、アスぺルギルス、マイコトキシン、増殖、温度、雰囲気、接種量
Irradiation, humidity, Aspergillus, Mycotoxin, growth, temperature, atmosphere, inoculum size
カビ、照射食品、汚染食品、毒性、毒素、穀類、ピーナッツ、培養、線量、アフラトキシン、胞子、感受性、異性体、抵抗性、オクラトキシン、パツリン、ペニシリン酸、T-2、異性体、類縁体、菌
分類コード:020403,010403

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