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作成: 2000/3/16 堀 隆博

データ番号   :018011
実用化例:微量金属イオン除去用多孔性中空糸膜モデル
目的      :超純水製造用イオン吸着膜の紹介
利用原理    :グラフト重合

概要      :
半導体産業における超純水中のppqレベルの金属イオンを除去する能力を持ったイオン吸着膜を、放射線グラフト重合法による多孔膜へのイオン交換基導入によって得る。

詳細説明    :
 
 ポリエチレン製の多孔性中空糸膜に、放射線を照射し、照射後、モノマーと接触させると、放射線照射によって生成したラジカルを開始点としてモノマーがグラフト重合する。グラフト高分子鎖に特定の官能基を導入し、特定のイオンに対する吸着性能を持ったイオン吸着膜を得ることができる。カチオン交換基としてはスルホン酸基、アニオン交換基としては4級アミン、キレート形成基としてはイミノジ酢酸基が典型例である。

特徴


図1 イオン吸着膜概要

 放射線グラフト重合法の特徴の一つ目は、任意の構造を持った基材に均一にイオン交換基を導入できることである。精密濾過膜に属する多孔膜を基材として選択することによって、新しいコンセプトを持った吸着体を合成することができる。図1に示したように、ビーズ状のイオン交換樹脂の場合、樹脂表面にたどり着いたイオンは樹脂内部を拡散して、イオン交換基のある場所に到達し、イオン交換を行う。多孔膜の細孔内に均一にイオン交換基が導入されていると、多孔膜内を強制流によって移動するイオンが直接イオン交換基と接触するため、拡散過程が律速になることはない(参考資料1)。
 
 イオンとイオン交換基との接触効率が極めて高くなり、極低濃度までイオンを吸着除去することが可能となる。放射線グラフト重合法の特徴の2つ目は、グラフト重合によって導入された高分子鎖は、基材と一体化した複合体を形成することである(参考資料2)。ポリエチレン製の基材にスチレンをグラフト重合しスチレングラフト鎖にスルホン酸基を導入する場合、基材と等量以上、すなわち基材1gに対して1g以上のスチレングラフト鎖を、多孔構造を維持したまま導入することができる(参考資料3)。これは、通常の表面コーティング法の10倍以上の導入量であり、大きなイオン吸着容量を得ることができる。
  
用途
 
 半導体産業における超純水製造工程において、半導体の最終的な洗浄が行われる場所がユースポイントである。超純水に求められる純度を示す例として、たとえば、現状の超純水製造ラインでCuイオン濃度は10ppq程度である。CuのようにSiより電気陰性度の大きい元素はSi表面から直接電子を奪ってSiと化学的に結合すること、特に、CuはSi表面にOH終端などが存在することなどにより粒状に付着する現象が確認されており、将来の高集積度のシリコンウエハに致命的な欠陥を与える可能性が指摘されている(参考資料4)。10ppqとは、1gの水に10-14gのCuイオンが溶けている状態である。10-14とは、仮に東京ドームを超純水で満たしたとすると、その中に溶けることが許されるCuイオンの量は12mg、砂1粒程度である。集積度が1Gbitレベルまで上昇すると、この濃度をさらに減少させなければならない。
 
 図2、3は、官能基としてキレート形成基を導入したイオン吸着膜を超純水製造ラインに設置し、金属イオンの除去能力を測定した実験の装置及び結果である。図2のMo-1、MO-2は、それぞれイオン吸着膜を充填したモジュールである。2本直列に連結している。図3は、970時間、超純水を通水した後、吸着した金属イオンを酸によって脱着し、脱着液中のCuイオン濃度をプラズマ発光分析装置により測定した結果である。グラフの左から4つ目ののカラム(No.4)は1本目のモジュール(MO-1)から脱着した液中のCuイオン濃度を示す。2本目のモジュールからの脱着液中の濃度は、カラムNo.8で示されている。No.4以外はすべてブランクと同等であり、ほとんどのCuイオンが1本目のモジュールで除去されていることが分かる。この結果より、イオン吸着膜処理前の超純水中のCuイオン濃度は10ppqという結果が得られ、イオン吸着膜はこの濃度に対しても有効な除去能力を持っていることがわかる(参考資料5)。


図2 微量金属イオン吸着能力評価用の超純水製造ライン. (原論文1より引用。 Reproduced from Journal of Membrane Science, 132, pp203-211(1997), Fig.6(p.206), T.Hori, M.Hashino, A.Omori, T.Matsuda, K.Takasa and K.Watanabe, Synthesis of novel microfilters with ion-exchange capacity and its application to ultrapure water production systems; Copyright(1997), with permission from Elsevier Science.)



図3 イオン吸着膜によるCuイオン吸着実験結果. (原論文1より引用。 Reproduced from Journal of Membrane Science, 132, pp203-211(1997), Fig.13(p.210), with permission from Elsevier Science.)


展開の可能性
あらゆる超純水製造用途に展開可能。たとえば、医薬用途、原子力発電所など。

製造企業

生産量

原論文1 Data source 1:
Synthesis of novel microfilters with ion-exchange capacity and its application to ultrapure water production systems
T.Hori, M.Hashino, A.Omori, T.Matsuda, K.Takasa and K.Watanabe
Industrial Membranes Development Department, Asahi Chemical Industry Co., Ltd.,
Journal of Membrane Science, 132, pp203-211(1997)

参考資料1 Reference 1:
Sorption Kinetics of Cobalt in Chelating Porous Membrane
Satoshi Konishi, Kyoichi Saito, Shintaro Furusaki and Takanobu Sugo
Department of Chemical Engineering, University of Tokyo, Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment
Ind. Eng. Chem. Research,Vol.31, No.12, pp2722-2727(1992)

参考資料2 Reference 2:
Preparation of ionogenic membranes by radiation-induced grafting
Jaromir Lukas, Alzbeta Zouharova, Ivan Cadersky and Jiri Vacik
Institute of Macromolecular Chemistry, Czechoslovak Academy of Science
Collection Czechoslovak Chem. Commun.,Vol.52, pp2667-2672 (1987)

参考資料3 Reference 3:
Adsorption of Co2+ by Stylene-g-Polyethylene Membrane Bearing Sulfonic Acid Groups Modified by Radiation-Induced Graft Copolymerization
Seong-Ho Choi, Young Chang Nho
Isotope Radiation Application Team, Korea Atomic Energy Research Institute
Journal of Applied Polymer Science, Vol.71, pp2227-2235 (1999)

参考資料4 Reference 4:
半導体表面の電子化学
大見 忠弘
東北大学 工学部 電子工学科
第25回超LSIウルトラクリーンテクノロジーシンポジウム Proceeding pp3-18

キーワード:超純水、半導体、イオン交換、放射線グラフト重合法、金属イオン、銅イオン、多孔性中空糸膜、スルホン酸、カチオン交換基、キレート形成基、イミノジ酢酸、
ultra pure water, semiconductor, ion-exchange, radiation induced graft polymerization, metal ion, copper ion, porous hollow fiber, sulfonic acid, cation-exchange group, chelate-forming group, iminodiacetate

分類コード:010201

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