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作成: 1998/11/13 中村 知

データ番号   :018008
実用化例:電池用隔膜
目的      :実用化例としての紹介
利用原理    :グラフト重合

概要      :
ポリエチレンフィルム又はポリエチレン不織布に電子線照射した後、アクリル酸を含む水溶液に浸漬し、グラフト重合を行うことによりイオン透過性(親水性)を付与した電池用隔膜。


製造(処理)技術 :
<製造工程の説明>


図1 製造工程の模式図

ポリエチレン素材(フィルムまたは不織布)を、窒素気流中、冷却しながら電子線照射器で電子線を照射し、ポリエチレンにラジカル活性点を生成させる。これをアクリル酸を含む水溶液中に浸漬し、グラフト反応を行う。グラフトしたポリエチレン素材は、洗浄を経た後、用途により後処理がなされる。グラフトポリエチレンのアクリル酸残基のカルボキシル基のイオン解離性を増大させるためにアルカリ性の水溶液で処理し、アルカリ金属塩の形にしたり、逆にイオン解離性を低下させるために、亜鉛イオンを含む水溶液で処理し、亜鉛塩とするなど。さらにこうして出来たグラフトポリエチレンをセロハンや不織布と張り合わせ加工する。

処理効果の特徴 :
<酸化銀電池用>
酸化銀電池用セパレーターには、従来セロハンが用いられてきた。しかしセロハンはアルカリ性の電解液によって容易に酸化・分解を引き起こし、比較的短期間で隔膜としての役割を果たさなくなる。そのため、ポリエチレンフィルムにアクリル酸系モノマーをグラフト重合したものがセパレーターとして使用されている。現在、グラフト膜とセロハンを張り合わせたセパレーターが一般的であるが、この場合セロハンは、自らが酸化されることによって銀イオンを還元し、セロハン内に銀を封じ込めることによって、短絡を防止するという目的に使用されている。


図2 酸化銀電池における使用例

<開放型ニッケルカドミウム蓄電池用>
開放型ニッケルカドミウム蓄電池ではセパレーターとして一般に不織布や微孔膜が用いられているが、長寿命型の製品にはポリエチレンにアクリル酸系モノマーをグラフト重合したフィルムが用いられる。これは、充放電を繰り返す内に電解液中に溶けだしたカドミウムが陰極表面に針状に析出し、陽極に達する、デンドライトショートと呼ばれる短絡を防止するためである。一般に無孔フィルムをセパレーターに用いることによってデンドライトショートは防げるが、セロハンはアルカリ性の電解液中で酸化・分解を起こしてしまうために長期の使用は不可能であり、ポリエチレングラフトフィルムが適している。

<密閉型ニッケルカドミウム蓄電池・ニッケル水素蓄電池用>
密閉型ニッケルカドミウム蓄電池または密閉型ニッケル水素蓄電池においては、密閉された電槽内において電解液中の水分の電気分解によって発生した酸素ガス・水素ガスを化合させることにより水に戻すことによって、電槽の密閉化を可能にしている。酸素ガス・水素ガスを化合させるためには、陽極で発生した酸素ガスが陰極まで到達する必要があり、ガス透過性の良い不織布をセパレーターに使用しなければならない。と同時に発生したガスが不織布中にたまると電気抵抗が上昇するため、ガスだまりが出来ないように、親水性の高い素材を使用する必要がある。従来、これらの電池のセパレーターとしてはナイロン素材の不織布が用いられてきた。ナイロンは特別な処理なしに親水性を持つが、アルカリ性の電解液の中で加水分解を起こし、硝酸根を生成する。このため、隔膜としての性能の低下、電解液保持性能の低下、さらには生成した硝酸根による自己放電の増大などの不具合が問題になってきた。ポリエチレン不織布にアクリル酸系モノマーをグラフト重合することによって、ポリオレフィンの耐薬品性・耐酸化性を維持したまま親水性を持たせることが出来、ナイロン不織布の欠点が克服される。

用途(応用分野) :

表1 グラフト重合セパレーターの用途
グラフト重合セパレータの用途
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                一次電池・・・ボタン型酸化銀電池
                           水銀電池
グラフト膜      二次電池・・・開放型ニッケルカドミウム電池
                           ニッケル亜鉛電池
                           銀酸亜鉛電池
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                一次電池・・・各種電池の補液材
グラフト不織布  二次電池・・・密閉ニッケルカドミウム電池
                           ニッケル水素電池
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1) 酸化銀電池用セパレーター
2) ニッケルカドミウム蓄電池用セパレーター
3) ニッケル水素蓄電池用セパレーター

展開の可能性  :
1) グラフトモノマーの変更による他の電池系への展開
2) 電池用以外では特定物質の吸着回収など機能膜としての用途

実施している企業:
株式会社ユアサコーポレーション
日東電工株式会社 他

生産量、処理量等:
統計データが存在しないので不明 

参考資料1 Reference 1:
特許:特公照59−53663「電池用セパレーターの製造方法」
   特公照62−29864「電池用セパレーターの製造法」 

キーワード:電子線,electron beam,電池,battery,セパレーター,separator,アクリル酸,acrylic acid,ポリエチレン,polyethylene,酸化銀,silver oxide,ニッケルカドミウム蓄電池,nickel-cadmium battery(Ni-Cd),ニッケル水素蓄電池,nickel-metalhydride battery(Ni-MH),セロハン,cellophane,不織布,non woven fabric,
分類コード:010107

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