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作成: 1998/11/15 瀬口 忠男

データ番号   :018004
実用化例:耐熱性炭化珪素繊維
目的      :実用化例としての紹介
利用原理    :橋かけ反応

概要      :
ケイ素系高分子のポリカルボシランの繊維にヘリウムガス中で電子線照射し、繊維が融解温度以上の高温になっても繊維形状を保持できる処理(不融化処理)を行い、その後、窒素などの不活性ガス中で1500℃程度まで、加熱処理してセラミック化すると炭化ケイ素繊維が得られる。

詳細説明    :
 シリコンカーバイド(SiC)繊維は、ケイ素系高分子のポリカルボシラン(PCS)繊維を前駆体として製造される。その方法は、矢島らによって発明されたもので、PCSを320℃前後で紡糸して直径20 マイクロmの前後の繊維に成形し、これを熱酸化で不融化処理(高温で繊維形状を保持させる処理)した後、不活性ガス中で焼成して、SiC長繊維に転換する。


図1 耐熱炭化珪素繊維の製造工程

 この繊維径は10〜15 マイクロmの柔軟性のある連続繊維である。ところが、当初期待された耐熱性セラミックとの複合化には、強化繊維としての耐熱性が不十分であった。その理由は、これらの繊維は1200℃を越えると、分解が著しくなり、繊維の強度が急激に低下するためである。この原因は、これら繊維に多量に含まれている酸素が高温で炭素と反応して、COガスを発生し分解するためである。繊維に含まれる酸素量は約10 wt% で、この大部分は原料の高分子繊維を熱酸化で不融化する際に導入される酸素である。

放射線不融化による耐熱性の向上
 SiC繊維の酸素濃度を減少させる方法として、不融化処理を放射線照射で行う方法が開発された。この結果、酸素濃度が0.5 wt% 以下となり、耐熱性は大幅に向上し、SiCの本来の特性が発揮され、短時間の熱処理では1700℃まで、強度の低下がない繊維が製造できるようになった。この放射線不融化は、紡糸した高分子繊維をヘリウムガス中で、繊維の温度を融解点以下に保って、放射線(電子加速器を利用した電子線)を照射する方法である。放射線化学反応により繊維の中で高分子鎖間に架橋が形成され、酸素を介在させることなく不融化処理ができる。この放射線不融化処理は高分子の形状に関わりなく、また、架橋の密度は放射線の線量で任意に制御できるので、不融化の度合を容易に調整することが可能である。この方法で製造したSiC繊維に含まれる酸素濃度は0.3〜 0.4 wt% であるが、これは原料のPCSに含まれていた酸素量に相当するものである。この繊維は1700℃を越えても分解は起こらないが、結晶化が徐々に進行するために、繊維強度は低下する。しかし、2000℃ でも1 GPa程度の強度を保持する。このSiC繊維は弾性率が270 GPa、密度が2.74、熱伝導度 7.8 W/m.Kと高いこと、一方、電気抵抗は 1.4 ohm-cmとなり熱酸化不融化の繊維(ニカロン)の値より4桁も小さいことである。この新技術は実用化されハイニカロンの商品名で市場に提供された。

高分子からSiC繊維への反応機構
 不融化したPCS繊維を不活性ガス中で加熱していくと、有機高分子が熱分解してセラミックに転換していく。この反応過程を分解ガスの分析と反応中間体であるフリーラジカルを測定することにより、反応機構が解明された。 500℃ を越えた温度から、Si-H及びSi-CH3 の分子結合が切れてH2とCH4が発生し、次いで、800℃ を過ぎるとC-Hが切断してH2が発生する。Si-H とC-Hの切断に伴い、フリーラジカルが生成し1400℃ を越えて、H2の発生が終結するとラジカルは消滅した。これらの反応は不融化処理に導入される酸素の有無によって大きく異なることなど、高温での反応機構が解明できた。この解明により、SiC繊維製造におけるセラミック化過程の温度管理等に有用な指針が得られることになった。

用途(応用分野) :
1) 宇宙開発用耐熱構造材料
2) 次世代飛行機(スペースプレーン)用構造材料
3) 核融合炉の第一壁材料
4) ガスタービン翼材料
5) 塵焼却炉材料

展開の可能性  :
放射線照射利用がセラミック繊維のプレカーサーの不融化技術として、新たに確立されたことは、放射線の特徴とその応用範囲を広げることになった。この繊維を利用してセラミック複合材料の製造が可能となり、耐熱・高強度材料へ貢献できる。

実施している企業:
日本カーボン(株)


生産量、処理量等:
製造規模 1 ton/月、セラミック複合材料の製造技術が進展すれば、全世界で数千億ton /年に発展する可能性あり。

参考資料1 Reference 1:
放射線を利用した超耐熱炭化ケイ素繊維の開発
瀬口 忠男、岡村 清人
日本原子力研究所、大阪府立大学 
原子力工業、第38巻、第8号(1992) pp.64-69

参考資料2 Reference 2:
Heat Resistant SiC Fiber Synthesis and Reaction Mechanisms from Radiation-Cured Polycarbosilane Fiber
Tadao Seguchi, Masaki Sugimoto, and Kiyohito Okamura
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, JAERI University of Osaka Prefecture
High-Temperature Ceramic Matrix Composites - 1, (1993) pp.51-57, Bordeaux

キーワード:炭化ケイ素繊維(Silicon-Carbide Fiber),耐熱性(Thermal Resistance),放射線不融化(Radiation Curing), 電子線照射(Electron beam Irradiation),ポリカルボシラン(Polycarbosilane),不活性ガス雰囲気(Inert-gas Atmosphere),焼成(Pyrolysis),微結晶(Semi-cystallite)
分類コード:010103

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