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作成: 1998/11/13 山田 仁

データ番号   :018003
実用化例:熱収縮チューブ・フィルム
目的      :実用化例としての紹介
利用原理    :放射線橋かけ(架橋)

概要      :
筒状、又はフィルム状のプラスチック成型品に電子線照射により架橋反応を起こさせ形状記憶性を持たせる。架橋後の成型品を膨張させて使用時には加熱し収縮させる。

詳細説明    :
熱収縮チューブ、フィルムに用いる素材としては結晶性を有するポリマーが適している。架橋したポリマーは網状の分子結合を有する為、これを引き延ばし急冷、固定したものには強い歪みが入っている。歪みは熱により緩和され再び元の形状に収縮する。いわゆる形状記憶効果を利用するものである。


図1 熱収縮チューブの製造工程ブロック図

両者の製造方法としては、形状が異なるだけで基本的には成形、架橋、引き延ばしの3工程である。まず材料としては、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などの単独ポリマーや、ブレンドしたポリマーが使用される。次いで種々の目的に応じて、酸化防止剤・着色剤・加工助剤・難燃剤などが添加される。これらの添加は、ポリマーの溶融混練によってなされるが、添加剤の分散が不均一だとチューブの寸法不安定、フィルムのピンホールなどの製品不良の原因となるので添加剤の分散には十分な注意が必要である。
つぎに押出機を用いて、前述の材料をチューブの場合は筒状に、フィルムの場合は帯状に成形する。チューブは肉厚を一定にし内部を空洞にするためダイス背面より圧縮空気を挿入する方法が広く用いられている。成形の工程について図1に示す。こうして成形されたチューブ・フィルムは容量の大きい電子加速器で発生した電子線で行われる。耐熱性を持たせるように、十分に架橋するには10Mrad以上のかなり大きな吸収線量を要するためである。ただし、ポリマーにメタクリル酸などの多官能のモノマーを数%添加するすることで数Mradまで線量を落とすことが可能である。また均一で十分な架橋体を得るには、加速器下端の電子線窓の下を数回はしらせる方法が有効である。チューブの場合にはターンシーブで折り返し窓の下を水平方向に数回くぐらせ、フィルムの場合はロールにより垂直方向に何層にもくぐらせる方法がある。これらの方法を図2に示す。この照射後の形状が熱収縮後の形状となる。ポリマー材料の架橋は化学的な方法によっても行えるが、化学的な架橋の場合は高温を用いる為、肉の薄いチューブやフィルムに行うことは困難であるばかりか、生産性も劣る。この場合は放射線による架橋処理が他の方法と比較して有利に行い得る例である。


図2 チューブおよびフィルムの押出成形



図3 照射架橋



図4 チューブの拡径工程

更に引き延ばしの工程を行うが、チューブもフィルムも一定の引き延ばし率を得る為様々な工夫が施される。例えば熱収縮チューブの場合には内部に圧縮空気を注入し加温されたオイルをくぐらせ可塑化させ所定の径のダイスを通す拡径法が生産も良く一定の拡径率が得られる。この拡径工程を図3に示す。いずれにしてもフィルムでは面積、チューブでは径をいかに一定の率で効率的に拡大できるかが技術的ポイントとなっている。
こうして得られた熱収縮チューブは例えば電線の接続部にかぶせた後加熱収縮させ絶縁処理をしたり、フィルムの場合にはパッケージング後に加熱収縮させ被包装物に密着させるなどが可能となる。

表1 放射線法と従来法の比較
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            熱収縮チューブ     テープ
        ----------------------------
        電子線架橋     化学架橋  
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プロセスの特徴 設備費が高い    安い    安い
        製造速度が速い   遅い    速い
        サイズは小型のみ  大型のみ  自由
製品の特徴   価格は高い     高い    安い
        作業時間が短い   短い    長い
        熟練作業不要    不要    必要
        半田コテでとけない とけない  とける
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用途(応用分野) :
1)電線接続部の絶縁
2)パイプ継ぎ手部のシール
3)パッケージング

コメント    :
熱収縮チューブとフィルムは架橋ポリマーの形状記憶性を有効に利用した一例であり、放射線利用工業としては、耐熱電線に次いで広く知られる一般的な製品である。チューブのほとんどは電子線放射による架橋耐熱電線の被覆材料のノウハウが生かされており製造メーカーも電線メーカーとほぼ一致する。より収縮率の大きくて均一な製品を効率よく製造することが材料的にも製造法的にも今後の課題であるが、昨今の環境問題から燃焼時に有毒な物質がでない材質(特に難燃特性を有するもの)やリサイクルが可能な材質(架橋体の為リサイクルはほとんど不可能)の検討も必要であると考えられる。

参考資料1 Reference 1:
放射線化学における工業的諸問題
萩原 健一
早稲田大学理工学研究所
放射線高分子化学

キーワード:熱収縮、チューブ、フィルム、架橋、ポリエチレン、押出、歪み、電子線
Heatshrinkable, Tube, Film, Crosslinking, Polyethylene, Extrusion, Strain, Electron beam
分類コード:010107、010108

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