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作成: 2000/02/21 森田 洋右

データ番号   :017001
有機材料の耐放射線性に関する基本事項(1)-有機材料の照射効果-
目的      :有機材料の耐放射線性の評価のための基礎事項の解説

概要      :
 有機材料は放射線場で使用されると、材料としての力学特性や電気特性を低下させ、材料として使用に耐えなくなる。このような恒久的な変化に加え、照射による材料の一時的変化も生じ、電気的特性には大きな影響を及ぼすことがある。また、材料や環境によっては、放射後も徐々に劣化が進む場合もある。
 ここでは、材料特性の変化から見た有機材料に対する放射線照射の影響を解説する。


詳細説明    :
 有機材料は電気絶縁性が高く、柔軟性、軽量、腐食しないなど優れた特徴があり、バルク状やフィルム状の高分子材料、オイル、グリース、塗料、接着剤などとして放射線照射下で使用されている。有機材料に放射線を照射したとき、初期反応として有機物を構成する分子や原子の電離(イオン生成)と励起が起き、続いて、遊離基(フリーラジカル)*1やイオンなどの反応活性種が生成される。これらの反応活性種が種々の化学反応を引き起こし、有機材料の力学的および電気的特性の変化、熱的および光学的特性の変化など材料としての構造や物性を変化させる。一般に、高分子材料の架橋によって、材料の耐熱性や強度を上げたりする改質が行われる。また、有機材料を放射線下、大気中で使用する場合、高分子材料の酸化劣化による分子鎖の切断が起こり、材料としての特性を低下させることが多く、いわゆる劣化につながる。

(1) 照射効果(恒久的変化):照射によって材料の分子鎖の切断、分子鎖を結合させる架橋、あるいは二重結合や酸化基の生成などが起こり、その結果、有機材料の力学的、電気的特性などが変わる。材料の耐放射線性評価では、二つの劣化要因が材料に同時に与えられる場合、たとえば、放射線と熱が同時に与えられるときの劣化を、放射線照射してから熱劣化する、あるいは熱劣化させてから放射線照射するなどの逐次的に与える場合と異なる結果になることが多い。有機材料の放射線劣化は線量率(図1)、試料の形状、照射中の雰囲気や温度などの環境条件に大きく依存する。


図1 種々の条件下で照射した配合エチレン-プロピレンゴムの引張り特性の変化(照射:室温) ▽:真空中 2.8Gy/s(10kGy/h)、○:空気中 2.8Gy/s、◎:空気中 1.4x10-2Gy/s(50Gy/h)、●:酸素中(0.6MPa) 1.4Gy/s(5kGy/h)、▲:酸素加圧下(0.6MPa) 0.28Gy/s(1kG/h) (原論文1より引用)


(2) 照射効果(一時的変化):恒久的変化に加えて、照射による材料の一時的変化も生じる。この効果は有機絶縁材料の熱や力学的特性に影響を与えることは少ないが、電気的特性には大きな影響を及ぼすことがある(図2)。照射直後など照射で生成した電子やイオンなどの電気伝導キャリヤが残存する場合には、電気絶縁性、導電率や誘電特性が変化し、経過時間とともに一定値に収斂していく。この減衰は材料の分子運動性や結晶性などに影響される。誘起導電性は材料の照射効果の一時的変化を評価する方法として使用される。


図2 高密度ポリエチレンの誘起導電率(照射中及び照射後)の線量率依存性(温度:80℃)(原論文1より引用)

 
(3) 照射後の環境効果:照射で生成した反応活性種や過酸化物が照射後も残る場合や、酸化生成物や二重結合などの不飽和結合が生成される場合には、照射後材料を酸素などの反応性物質の環境に長時間置くと劣化が継続して起こる。たとえば、高分子材料である結晶性のポリエチレンやポリプロピレンでは、遊離基が結晶に捕捉され、照射後も徐々に結晶表面に移動して酸化や架橋を引き起こすことがある。また、ポリプロピレンやポリ塩化ビニルなどでは、照射した後空気中で長期間保存すると劣化が進行することが知られている(図3)。加熱処理によって、反応活性種を消滅させることができる場合もある。また、有機材料には通常、酸化防止剤などの安定剤が添加されているが、これが放射線によりその機能が損なわれると、室温程度の温度においても材料の酸化劣化が進行する。


図3 プロピレン共重合体の照射後の保存中における劣化 (○) 電子線 25kGy照射、(●) ガンマ線 25kGy照射、(△) 電子線50kGy照射、(▲) ガンマ線50kGy照射(原論文2より引用)



*1:遊離基:有機化合物などの共有結合が、放射線(または光や熱)によって切断したときに生ずる不対電子をもつ化学種でフリーラジカルともいう。反応性に富み、分子間の架橋や酸化を誘起する。

コメント    :
 有機高分子材料に放射線を当てたときに起こることは分子鎖の架橋、切断、そして残存ラジカルや二重結合などの活性種の生成である。しかし、これらの反応は高分子材料の種類や構造、照射雰囲気や照射温度によって様々な現象として現れるので注意をする必要がある。

原論文1 Data source 1:
電気絶縁材料の耐放射線性試験方法通則(JEC-6152)
電気学会電気規格調査会
電気学会電気規格調査会標準規格(電気書院)

原論文2 Data source 2:
材料劣化の少ない電子線滅菌
吉井 文男
日本原子力研究所高崎研究所
医科器械学 第62巻、第2号、p78 (1992)

キーワード:有機材料、放射線、遊離基、架橋、放射線酸化、切断、恒久的特性変化、一時的特性変化、照射後効果
organic materials, radiation, radical, crosslinking, radiation oxidation, scission, parmanent change of property, transient change of property, after effects of irradiation
分類コード:010101,010105

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