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作成: 2011/1/22 長澤 尚胤

データ番号   :010316
TAICを用いたプラスチックの架橋技術とその応用
目的      :生分解性プラスチック・バイオプラスチックの改質とその応用
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :電子加速器(2MeV,30mA)、60Co線源(11.966TBq)
線量(率)   :10-100kGy、10kGy/h
利用施設名   :日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所1号加速器、日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所コバルト第2棟
照射条件    :脱気中、真空中、窒素気流中、空気中、室温
応用分野    :メガネ展示用デモレンズ、弾性材料、農業資材、建築資材、工業用材料等

概要      :
生分解性プラスチックやバイオプラスチックを、石油由来の汎用プラスチック代替材料とすることを目指して、放射線架橋による改質を検討した。多官能性モノマーであるトリアリルイソシアヌレート(Triallyl Isocyanurate,TAIC)を添加して電子線やγ線を照射する架橋技術と、ナノコンポジット、ポリマーブレンドや熱処理などの技術を組み合わせることにより、耐熱性の向上、透明性保持、可塑剤保持による弾性の付与などの特性改善が得られる。

詳細説明    :
 プラスチック廃棄物処理問題を解決するために、通常のプラスチック製品と同様に使用でき、しかも使用後、自然界の微生物や分解酵素によって水と炭酸ガスに分解される生分解性プラスチック(グリーンプラR)の利用が注目されてきた。その中でも、トウモロコシやイモなどのデンプンを発酵させて得られる乳酸を重合したポリ乳酸[Poly(L-lactic acid),PLLA]は、地球温暖化防止の期待を担った資源循環型のカーボンニュートラルなバイオプラスチック材料であるが、その物性は一般の石油合成系の汎用プラスチックと比較して耐熱性、耐衝撃性等が劣っている。
 それらの物性を改善するため、放射線による橋かけ反応を助ける多官能性モノマーを橋かけ剤として用いた放射線橋かけ技術によってポリ乳酸の耐熱性を改善することに成功した(参考資料1)。この技術を利用してポリ乳酸製の熱収縮材の試作品ができている(参考資料2)。さらに用途の拡大を目的として、無機物とのナノコンポジット化と熱処理、他の生分解性プラスチック・バイオプラスチックとのブレンド化や、ポリ乳酸用可塑剤添加量の制御技術を組み合わせて様々な物性を有する材料を開発した(原論文1、2、3、4)。
 20nmサイズのシリカとのナノコンポジット化を組み合わせた技術では、三井化学のポリ乳酸(LACEAR H100J)にTAICを 1,3,5%(重量%)添加して180℃で混練りした材料を作製し、180℃で熱プレスして厚み1mmの板状に成形し、ナイロン/PEバック中で脱気後、電子線で10,20,50,100kGy照射し、クロロホルムに浸漬してゲル分率を測定した。また、熱的性質は示差熱分析(DSC)と動的粘弾性測定(DMS)により評価した。図1の(1)に示すように、TAIC無添加のポリ乳酸単体に照射すると、ゲル分率は得られないが、(2)の5%TAIC添加したポリ乳酸では、50kGyの照射で80%のゲル分率が得られる。さらに、(3)のようにシリカ添加を組み合わせることによりTAIC添加系(2)と比較して、ポリ乳酸のゲル分率が低線量で増加することが分かった。ゲル分率が90%以上に高くなると、55℃付近のガラス転移温度(Tg)及び100℃付近の結晶化温度(Tc)が不明瞭になり、170℃付近の結晶融解ピークの面積が減少した。


図1 Gel fraction of crosslinked PLLA and PLLA/SiO2 composite films with 5wt% of TAIC for EB-irradiation at various doses.(1)PLLA without TAIC(0%),(2)PLLA with 5%TAIC,(3)PLLA with 5% TAIC and 10% SiO2.

 図2はDMSの結果であり、(1)は未照射試料、(2)はTAIC添加量5.0wt%で50kGy電子線照射した試料、(3)はTAIC添加量5.0wt%とシリカ添加量10wt%で50kGy電子線照射した試料、(4)は(3)にTc付近の100℃で1時間熱処理した試料である。55℃付近はガラス転移であり、(1)の試料では、急激に貯蔵弾性率(E')が低下し、70℃で応力を加えると形状が変形してしまうが、架橋した(2)及び(3)の試料では、Tg温度でE'が若干低下するが、70℃での荷重形状変形は抑制される傾向にあり、熱処理を加えた(4)の試料は、約60℃でもE'を保持し、さらに70℃における急激な弾性率の低下が約1/10程度に抑制できることが分かった。この耐熱性が改善できたポリ乳酸は透明性も保持することから、70℃での耐熱変形性が必要とされるメガネ用デモレンズの実用化に見通しが得られた(原論文1、2)。


図2 Temperature dependence of the shear storage modulus(E')of crosslinked PLLA and PLLA/SiO2 composite films with 5% TAIC for EB-irradiation at 50 kGy and post processed sample. (1) Unirradiated PLLA,(2)Crosslinked PLLA,(3) Crosslinked PLLA/10% SiO2,(4)Crosslinked PLLA/10% SiO2 post-heated at 100℃ for 1h.

 また、放射線架橋により耐熱性が改善できたポリ乳酸を大八化学工業(株)社製ポリ乳酸用可塑剤DAIFATTY-101に120℃で数時間浸漬することにより35%以上の可塑剤を保持することで弾性が発現した材料になることが分かった(原論文4)。
 以上のように、ポリ乳酸の欠点である耐熱性、耐衝撃性を改善するため、TAIC添加した電子線照射による架橋技術に、他の生分解性プラスチックとのブレンド化、またはシリカ微粒子の分散、熱処理や可塑剤侵漬を組み合わせた技術を開発した。これらの技術を応用することにより、様々なニーズに対応可能なポリ乳酸が得られることがわかった。

コメント    :
 カーボンニュートラルなバイオプラスチックに、TAICを添加した架橋技術と、ナノコンポジット、ポリマーブレンドや熱処理技術等を組み合わせることにより様々な物性を有する材料を製作でき、広範囲での応用が期待される。

原論文1 Data source 1:
Radiation-induced crosslinking and post-processing of poly(L-lactic acid) composite
N.Nagasawa, N.Kasai, T.Yagi, F.Yoshii and M.Tamada
Japan Atomic Energy Agency
Radiation Physics and Chemistry,80,145(2011)

原論文2 Data source 2:
バイオプラスチックによる眼鏡用デモレンズの開発
長澤尚胤
日本原子力研究開発機構
放射線と産業、123,19(2009)

原論文3 Data source 3:
Radiation-induced crosslinking and mechanical properties of blends of poly(lactic acid) and poly(butylene terephthalate-co-adipate)
S.Kumara, N.Nagasawa*, T.Yagi* and M.Tamada*
Rubber Research Institute of Sri Lanka,*Japan Atomic Energy Agency
Journal of Applied Polymer Science,109,3321-3328(2008)

原論文4 Data source 4:
室温下で柔軟性を示す透明なポリ乳酸材料の開発
長澤尚胤、金澤進一*、玉田正男
日本原子力研究開発機構、*住友電工ファインポリマー
バイオプラスチックの高機能化・再資源化技術、第3編、第7章、NTS出版、162-169(2008)

参考資料1 Reference 1:
Improvement of heat stability of poly(L-lactic acid) by radiation-induced crosslinking
H.Mitomo, A.Kaneda, T.M.Quynh, N.Nagasawa* and F.Yoshii*
Gunma University,*Japan Atomic Energy Agency
Polymer,46(3),4695-4703(2005)

参考資料2 Reference 2:
Application of poly(lactic acid) modified by radiation crosslinking
N.Nagasawa, A.Kaneda*, S.Kanazawa**, T.Yagi, H.Mitomo*, F.Yoshii and M.Tamada
Japan Atomic Energy Agency,*Gunma University,**Sumitomo Electric Fine Polymer,Inc
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B,236(1-4),611-616(2005)

キーワード:放射線架橋(放射線橋かけ)、多官能性モノマー、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、架橋剤、生分解性プラスチック(グリーンプラ(r))、バイオプラスチック、ナノコンポジット、ポリマーブレンド、電子線照射、γ線照射、熱処理、耐熱性、透明性、可塑剤、弾性材料、力学物性改善
radiation-induced crosslinking,polyfunctional monomer,triallylisocyanulate(TAIC),crosslinker,biodegradable plastic,bioplastic,nanocomposite, polymer blend, electron beams irradiation, gamma-rays irradiation,heat treatment,heat-resistance,transparency,plasticizer,elastic material,improvement of mechanical property
分類コード:010101,010102,010106,010107,010108,010204,010206,010207,

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