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作成: 2006/8/13 早味 宏

データ番号   :010303
生分解性コンポジットの開発
目的      :生分解性ポリマーのポリマーアロイ化、ナノコンポジット化による改質と電子線架橋による機械的特性の向上
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器
線量(率)   :20-100kGy
応用分野    :生分解性プラスチック、汎用プラスチックの代替材料

概要      :
 プラスチック廃棄物による環境負荷の低減のため、生分解性ポリマーの利用拡大が望まれているが、高価で機械的物性に劣ることが利用拡大の妨げとなっている。生分解性ポリマーの代表例であるポリカプロラクトン(PCL)を無水マレイン酸変性することによって、低価格の生分解性ポリマーであるデンプンを高比率でブレンドできるようにし、かつクレーを分散することによってナノコンポジット化し、さらに電子線架橋を行ってPCL単体以上の機械的物性を有する生分解性コンポジットの合成に成功した。

詳細説明    :
 化石燃料を原料とするプラスチックの国内の生産量は1500万トン/年であり、役割を終えて焼却や埋め立てにより廃棄されるプラスチックの量も550万トン/年に達する。このことから廃棄による環境への負荷が少ない生分解性プラスチックやそのコンポジットへの関心が高まっている。
 
 ポリカプロラクトン(PCL)は脂肪族ポリエステルに分類される代表的な生分解性プラスチックであるが、高価で機械的物性にも劣ることから、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABS樹脂などの汎用プラスチックの代替材料として広く用いるのは難しい。そこで、PCLに安価なデンプンとのブレンドが検討されているが、デンプンの比率を高めることが難しく、力学特性が低下する問題もある。
 
 そこで、ポリマーアロイ技術を適用し、デンプンの配合比率を50%に向上し、クレーの分散によるナノコンポジット化、電子線架橋による機械的物性の向上を検討した。本研究のコンセプトを図1(原論文の図1)に示す。


図1 The concept of this study(本研究のコンセプト)(原論文の図1)(原論文1より引用)

  
まず、デンプンを熱可塑性とするためデンプンにグリセリンと温水を混ぜ、押出機で90〜130℃混練することにより熱可塑化デンプン(TPS)とする。この熱可塑化デンプンにクレーを分散させてナノコンポジット化し、PCLへのTPS添加に伴う物性低下を補う。さらに、PCLとTPSを微分散させるため、PCLを無水マレイン酸変性した。PCLの無水マレイン酸変性はPCL99wt%とマレイン酸1wt%の混合物に重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイトを添加し、押出機(100℃)で混練する方法で合成した。
 
 無水マレイン酸変性PCL/TPS/クレー系材料の引張試験のS-Sカーブ、弾性率、降伏応力を図2(原論文の図4)に示す。


図2 Tensile test results of clay nanocomposite(クレーナノコンポジットの引張試験結果)(原論文の図4)(原論文1より引用)

 
 クレーの添加量が増加するにつれて弾性率、降伏応力が向上し、クレーの添加量が5wt%以上のブレンド系ではPCL単体と同等以上の弾性率、降伏応力が得られ、クレーの添加量が10wt%ではPCL単体の2倍以上の弾性率を示した。
 
 このブレンド材料の相構造をSEM、TEMで観察した結果を図3(原論文の図5)に示す。PCLの無水マレイン酸変性、クレーの添加によりTPSドメインのサイズが小さくなり、層間がかなり開いたクレーが均一に分散したナノコンポジットが得られていることがわかる。


図3 SEM and TEM observation(SEMおよびTEM観察結果)(原論文の図5)・クレーの添加量の増加とともに熱可塑性デンプンのドメインサイズが低下する。 TPS domain size reduces with increasing of Clay content.・PCLとデンプンの界面に層間距離が広がったクレーが存在する。An exfoliated Clay exists in interface between PCL and starch.(原論文1より引用)

 
 このPCL/TPS/クレー系のナノコンポジットに電子線を20-100kGy照射し、弾性率と降伏応力を調べた結果を図4(原論文の図6)に示す。電子線の照射により伸びが低下せずに弾性率、降伏応力が約50%向上し、線量の最適値は40kGyであった。


図4 The change of tensile properties after electron irradiation 電子線照射による引張物性の変化(原論文1より引用)

 
 以上のように、PCLを無水マレイン酸変性し、熱可塑化デンプンのブレンド、クレーの分散、電子線照射の組み合わせにより、PCLにデンプンを50%ブレンドした材料においてもPCL同等以上の機械的物性を有する生分解性コンポジットが得られることがわかった。

コメント    :
 ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステルは、かつては「生分解性ポリマー」と呼ばれていたが、最近は「カーボンニュートラル」の視点で「植物由来ポリマー」として環境に対する負荷の少ない材料として注目されるようになった。本文献は植物由来ポリマーにナノコンポジット技術や照射架橋技術を適用して実用可能なレベルの物性を有する材料に改質することを試みた例である。
 
カーボンニュートラル
バイオマスは有機物であるため、燃焼させると二酸化炭素が排出される。
しかしこれに含まれる炭素は、そのバイオマスが成長過程で光合成により
大気中から吸収した二酸化炭素に由来する。そのため、バイオマスを使用
しても全体として見れば大気中の二酸化炭素量を増加させていないと考
えてよいとされる。この性質をカーボンニュートラルと呼ぶ。
 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%9E%E3%82%B9

原論文1 Data source 1:
%1)生分解性コンポジットの開発
山崎 宏次、松田 聡、岸 肇、村上 惇
兵庫県立大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 環境エネルギー工学部門
ECO INDUSTRY vol.10, No.7 p53-56 (2005)

キーワード:生分解ポリマー、ナノコンポジット、ポリカプロラクトン、デンプン、ポリマーアロイ、相溶化剤、クレー、電子線架橋
Biodegradable polymer, Nano-composite, Polycaprolactone, Starch, Polymer alloy, compatibilizer, Clay, Electron beam cross-linking
分類コード:010101

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