電子線架橋を利用したハイドロゲル創傷被覆材の開発

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作成： 2006/10/21 磯部　一樹データ番号　　　：010302 電子線架橋を利用したハイドロゲル創傷被覆材の開発目的　　　　　　：水溶性高分子の電子線架橋により、ハイドロゲルを生成し、創傷治癒促進の材料に使用する放射線の種別　　：電子放射線源　　　　：電子加速器(300keV) 線量（率）　　　：10-60kGy 利用施設名　　　：(独)日本原子力研究開発機構　高崎量子応用研究所（旧日本原子力研究所高崎研究所）照射条件　　　　：窒素気流中応用分野　　　　：医学、形成外科、ハイドロゲル、コンバーティング概要　　　　　　：　創傷治癒には創面の湿潤環境を保つことが良いとされ、その素材として適しているものとして電子線架橋によるハイドロゲルが選定された。必要な機能としてゲル強度と滲出液の吸収性があり、素材をPVA+PVPとし、電子線線量10-60kGyの間で最適線量が選定された。その結果得られたハイドロゲルではガーゼの2倍の早さでキズが治ることが確認された。詳細説明　　　　：　傷は乾燥させ痂皮（かさぶた）をつくることで速く治ると長い間考えられてきたが、最近では「モイストヒーリング＝傷は湿潤環境で速く治る」という理論に従った創傷の処置が主流となりつつある。そこで、水溶性高分子水溶液の電子線照射によれば架橋剤法等の他の方法と比較して短時間にシート状ハイドロゲルを製造することができること、かつこのハイドロゲルが溶解することなく創傷面の湿潤環境を維持できることに着目して、ハイドロゲル創傷被覆材【ビューゲル】Rが開発され、2004年7月より発売された。以下に本技術の概要を述べる。　　電子線架橋法では架橋剤を使用しないため未反応の架橋剤が残留する心配がなく、短い反応時間でピュアなゲルを調製することが可能である。よって医療用として使用可能な安全性の高い水溶性高分子を用いて水溶液を調製後、電子線を照射することで創傷被覆材に適したハイドロゲルが得られると考えられた。　　表１に示す医療用に使用実績のある素材の粘稠溶液を調製し、柔軟なプラスチックフィルム上に1.2mm厚に塗工、ゲル化に適した線量の電子線を照射して様々なゲルシートを作製した。これらハイドロゲルが創傷被覆材に必要な機能を有するかを判断するため、滲出液吸収性については生理食塩水浸漬時の吸水率、強度についてはゲル内部強度を物性評価の指標とし評価を行った。ゲル内部強度については、インクジェット紙にゲルを貼り、そのゲルを剥がそうとするとき、ゲルの中間部で割れながら剥がれるときの力を測定し、ゲル内部強度とした。　　ハイドロゲルの物性評価結果を表1に示す。表1　ハイドロゲルの物性（特性値はn=3の平均値）　　この結果、ポリビニルアルコール（PVA）の電子線照射ゲルが他のハイドロゲルと比較して高い強度を示し、一方ポリビニルピロリドン（PVP）のハイドロゲルが高い吸水率を示すことが明かとなった。このことから、臨床使用上必要な強度と滲出液吸収性を兼ねそろえたハイドロゲルとするためPVAとPVPのブレンドを行い、治癒に適した創傷面の湿潤環境が保持できる透明な創傷被覆材とするために、透明で柔軟なプラスチックフィルムとハイドロゲルを一体化させた図1の構造を考案した。図1　ハイドロゲル創傷被覆材の構成　　電子線架橋法では瞬時に架橋反応が終了し、熟成工程不要でシート状のハイドロゲルを製造することができるため、連続して次工程に進むことができる。そのため生産性の面でもメリットの大きい方法である。図2にビューゲルR製造工程の概略を示す。図2　ビューゲル製造工程　　ビューゲルは臨床で擦過傷や採皮創の治療に用いられるため、まずはこれに対応したラット皮膚分層欠損モデルを作製し、前臨床段階での創傷治癒効果の確認を行った。ラット背部に面積25×25mm、深さ0.5mmの真皮に至る分層欠損創を作製し（図3）、ハイドロゲルまたは滅菌ガーゼで14日間被覆し1、2、3、5、7、10日目に被験物質の交換、創傷面積測定を行い推移を比較した。（図4）図3　分層欠損モデルの作成図4　創傷面積の推移　　その結果、治癒に要した平均日数はハイドロゲル7日間に対し、滅菌ガーゼ14日間であり、ハイドロゲルによって作り出される湿潤環境が治癒を促進していることが分かった。　　さらにハイドロゲル創傷被覆材の臨床効果を確認するため、Ⅱ度熱傷創、採皮創、外傷性皮膚欠損創の患者の処置に使用し、評価を行った結果、「明らかな疼痛緩和効果」と「速やかな表皮形成」が認められ、創傷治癒に有効な製剤であることが確認された。ビューゲルの実用例を下記に示す。（図5）図5　バイク転倒による左肩擦過傷の治療例（原論文1より引用）　　水溶性高分子であるポリビニルアルコールを主原料とした水溶液を電子線照射によりゲル化させることで、安全性が高く、創傷の治癒に適した湿潤環境を整えることができるハイドロゲル創傷被覆材「ビューゲルR」が完成された。（図6）図6　ビューゲル外観　　今後、ビューゲルを使ったモイストヒーリングがさらに広がりを見せることが期待されている。コメント　　　　：　水溶性高分子の水溶液に電子線を照射することで架橋剤法とは比較にならないほど短時間にハイドロゲルを得ることができる。今回は、吸水性と強度のバランスと取ることで創傷被覆材に適したハイドロゲルを創製することが出来た。電子線架橋ではポリマーの種類、水溶液濃度、架橋線量により様々な特性のハイドロゲルを作ることができるのでその用途が広がることを期待したい。原論文１ Data source 1：ＥＢを利用したハイドロゲル創傷被覆材「ビューゲル」磯部一樹ニチバン株式会社コンバーテック, No.381 58-61(2004) 原論文２ Data source 2：電子線によるハイドロゲル創傷被覆材の創製磯部一樹ニチバン株式会社放射線と産業, No.113 9-12(2007) キーワード：電子線、架橋、ハイドロゲル、創傷治癒、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、分層欠損創傷モデル、モイストヒーリング、ビューゲル electron beam, cross linking, hydrogel, wound healing, polyvinyl alcohol, polyvinyl pyrrolidone, partial thickness wound model, moist healing, VIEWGEL 分類コード：010101,010204
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