作成: 2006/12/24 日比野 豊

データ番号   :010299
プラズマ&イオンビームによるナノダイヤモンド複合DLC成膜技術


目的      :ナノダイヤモンドとDLC薄膜の組み合わせによる工具や金型の耐摩耗性・耐久性の向上
放射線の種別  :電子,軽イオン,重イオン
放射線源    :プラズマベースパルスイオン加速器(20keV、30A)
フルエンス(率):1015/cm2〜1019/cm2
線量(率)   :
利用施設名   :ハイブリッドナノダイヤモンド成膜装置(石川県工業試験場)
照射条件    :炭化水素ガス 0.1〜1.0Pa
応用分野    :金型の耐摩耗性改質、工具の切削性の改善、機械部品の硬度アップ

概要      :
 ダイヤモンドの結晶は800℃以下では形成されにくいと言われ、また結晶の凹凸面は金型や工具の表面改質には不向きであった。そこでダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜と組み合わせて、マイクロ波/RFプラズマとイオン注入法を組み合わせて、ダイヤモンドの硬度・耐摩耗性とDLCの平滑性を組み合わせた多層薄膜で工具や金型の表面改質を行い、部材表面を滑り性と耐摩耗性等を付与して機能を高める試みを紹介する。

詳細説明    :
 近年、各種部品の金型や工具類が微細化してその耐摩耗性や耐久性が問題となっている。一方いままでダイヤモンド薄膜を金型や工具表面に形成する試みが行われたが、成膜温度が500℃以下にすることは困難で、基材のひずみ、変形、酸化などにより実用的な成膜プロセスが困難であった。マイクロ波とRFプラズマを組み合わせ、それにパルスイオン注入法を利用して、低温でダイヤモンドの微細結晶薄膜を形成する試みが行われた。
 
 図1はハイブリッドナノダイヤ薄膜形成装置の概略図で、導入ガスに対して2.45GHzと13.56MHzの高周波を印加することが出来、さらに負パルス電圧を同時に基材にイオン注入出来る装置である。本装置を用いて、まず−0.5kVでArボンバードを行い表面をクリーニングする。その後密着力を高めるため−5〜10kVでイオン注入してCイオンミキシングを行う。さらにマイクロ波またはRFプラズマ生成下で−2〜2.5kVでパルスイオン注入しながらカーボン薄膜を形成した。


図1 ハイブリッドナノダイヤ薄膜形成装置(原論文1より引用)

 基材としてシリコンウエハーと超硬合金サンプルを用い、プラズマとパルスイオン注入条件を制御することにより、ナノダイヤモンド(ND)を形成したり、DLCを形成することが出来る。
 
 図2はND薄膜の成膜温度とND粒径の関係を示したもので、350℃で40nm、200℃で5nmのナノ粒子のダイヤモンド結晶をシリコン基材表面に形成することが出来た。


図2 ナノダイヤモンド薄膜の成膜温度とナノダイヤモンド粒径の関係(原論文3より引用)

 NDの結晶状態を観察するため、ダイヤモンド[111]面のX線強度とND薄膜の硬度の関係を調査した結果、図3に示すようにピーク強度が強いほど高硬度を示すことが判った。一番硬い薄膜ではナノ硬度計で40GPa(ビッカース硬度4000相当)の硬度が得られた。ND薄膜単層では表面の凹凸が激しく金型や工具の表面改質に不向きである。そこでDLCとの多層化を試みた。実験ではそれぞれの単層との比較のため、A:DLC単層、B:ND単層、C:ND/DLC積層、D:DLC/ND/DLC3層の4種類のサンプルを作製した。膜厚はトータル各300〜400nmである。


図3 ダイヤモンド[111]面のX線強度とナノダイヤモンド薄膜の硬度の 関係 This article was published in Vacuum Vol.80, N.Ikenaga, N.Sakudo, K.Awazu, H.Yasui, Y.Hasegawa, "Study on hybrid nano-diamond films formed by plasms chemical vapor deposition(CVD)" Page 810-813, Copyright Elsevier (2006).(原論文2より引用)

 図4に4種類のサンプルのボール&ディスク耐摩耗性評価試験結果を示す。サンプルBおよびCではNDの硬度と凹凸のため、摩擦係数が高くトルクの変動が激しいことが判る。しかしAおよびDでは摩擦係数が低く特にDのDLC/ND/DLC3層の構造では摩擦係数が0.15で非常に安定した耐摩耗性を示した。またDのサンプルでは表面硬度が40GPaであった。


図4 ナノダイヤモンド薄膜積層構造と摩耗試験における摩擦係数変化 (原論文3より引用)

 以上の結果から、従来ダイヤモンド薄膜は500℃以下では成膜が困難であったが、マイクロ波とRFプラズマを組み合わせ、それにパルスイオン注入法を利用することにより250℃という低温でダイヤモンドの微細結晶薄膜が形成可能となり、金型や工具の耐摩耗性、耐久性向上のための表面改質に役立つものと考えられ、実用化に向けた更なる研究開発が進められるものと思われる。

コメント    :
 近年の低温成膜プロセス開発によって、金属材料の表面改質がより使いやすいプロセスへと進展し、より高機能を求めて研究開発が進められ、早期実用化が期待される。

原論文1 Data source 1:
ハイブリッドナノダイモンド膜の形成とその特性
粟津 薫、安井 治之、池永 訓昭、川畠 丈志、作道 訓之
石川県工業試験場、科学技術振興機構、オンワード技研、金沢工業大学
NEW DIAMOND, 21 (1) 28-29(2005)

原論文2 Data source 2:
Study on hybrid nano-diamond films formed by plasms chemical vapor deposition(CVD).
N.Ikenaga, N.Sakudo, K.Awazu, H.Yasui, Y.Hasegawa,
Advanced Materials Research and Development Center, Kanazawa Institute of Technology,
Vacuum 80,810-813(2006)

原論文3 Data source 3:
ハイブリッドナノダイヤモンド(HND)膜の作製技術とその評価
安井 治之
石川県工業試験場
ニューダイヤモンドフォーラム平成18年度第1回研究会講演   要旨集、p.18-22(2006)

キーワード:プラズマ、イオンビーム、炭素材料、ダイヤモンド、DLC、アモルファスカーボン、摩擦係数、耐摩耗性、機能性
plasma,ion beam,carbon material,diamond,diamond like carbon,amorphous carbon,friction coefficient,abrasion resistance,functional
分類コード:040101、040206、040306