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作成: 2006/12/24 日比野 豊

データ番号   :010298
超硬合金切削工具等のイオンビームによる長寿命化に関する研究開発
目的      :微細なマイクロドリルのイオンビーム注入法による長寿命化
放射線の種別  :電子,軽イオン,重イオン
放射線源    :プラズマベースパルスイオン加速器(20keV、30A)
フルエンス(率):1015/cm2〜1019/cm2
利用施設名   :ハイパワープラズマイオン注入装置(Hughes Research Laboratories, Malibu.CA)
照射条件    :窒素ガス 0.1〜1.0Pa
応用分野    :超硬合金切削工具切削性の改善、超硬合金の長寿命化、WCの硬度アップ

概要      :
 超硬合金(WC/Co焼結体)からなる切削工具のうち、プリント基板を穴開けするマイクロドリルは直径0.1mm以下が要求され、現在0.05mm 径のドリルが開発されている。しかしながらWCの粒径制御やWC/Co配合の改良にも限界が見られ、超微細ドリルの長寿命化が望まれている。そこで寿命改良手法としてドリル成型後に窒素やチタン等の他元素をイオンビーム法で注入して長寿命化を図る試みを紹介する。

詳細説明    :
 近年、電子機器の小型・軽量化に伴い、使用されるプリント配線板はますます微細化している。従来多層プリント配線板のスルーホール径は0.1mm径前後であったが、微細化に伴い0.05mm径以下への要求が高まっている。しかしその穴開けに用いるマイクロドリルは、数十万回転/分で先端は数百度の温度に曝される過酷な条件で使用されるため数時間の寿命しか持たないのが現状である。超硬合金メーカー各社ではWCの粒径制御やWC/Co系配合改良、ドリル形状改良に取り組み長寿命化を図っているが大幅な改善に至っていない。そこでマイクロドリル成型後に窒素やチタン等の他元素をイオンビーム法で注入して長寿命化を図る研究が進められている。
 
 本方法はWC/Co系配合の機械的強度の最適化を図った後に、ドリル表面を高硬度・高靭性化、耐滑り性の改良を図ることにより長寿命化を狙うものである。
 
 WC/Co系の表面改質方法として加速電圧100〜200kVで窒素イオン注入する方法、窒素雰囲気でチタンやクロムを飛ばしてイオンミキシングする方法などが試みられた。図1はPII(Plasma ion implantation)法で100kV 200Hzで窒素イオン注入したときのSIMSによるWC/Co中への窒素注入分布を示したものである。


図1 PII法によるN注入プロファイル Reused with permission from Jesse N. Matossian, Journal of Vacuum Science & Technology B, 12, 850 (1994). Copyright 1994, AVS The Science & Technology Society.(原論文1より引用)

 
 従来の質量分離型イオン注入装置100kV Nイオン注入法と比較して高濃度で400nm付近まで窒素注入されていることが判る。これは1価の窒素イオンでなく2価のイオンが多く注入されるためと考えられる。さらに注入電圧を上げることによりその効果は高く、これにより図2に示すようにイオン注入電圧と共に耐摩耗寿命改良倍率は2〜3倍に伸びると述べている。


図2 Nイオン注入エネルギーと耐摩耗寿命改良係数 Reused with permission from Jesse N. Matossian, Journal of Vacuum Science & Technology B, 12, 850 (1994). Copyright 1994, AVS The Science & Technology Society.(原論文1より引用)

 
 さらに、窒素イオン注入のみでなくイオンビームミキシングで得られた膜厚5μm程度のTiN薄膜形成により耐摩耗寿命改良係数は3〜4倍に伸びることが報告されている(原論文2)。
  
 一方、WC78%/Ti14%/Co8%超硬合金に、窒素およびモリブデンイオン注入したときの表面の硬度アップを評価した結果、窒素未注入Hv:1250に比べて、N注入Hv:1900、Mo注入Hv:2300の結果が得られている(原論文3)。
  
 以上の結果から、WC/Co合金にNやTi、Mo等の他元素をイオンビーム法で注入することにより、表面の潤滑性アップと硬度アップによりマイクロドリルの寿命が伸びるものと予測されている。しかしながら超硬合金に対するイオン注入の基礎的データー報告はあるものの、マイクロドリルとしての耐久性評価や改良メカニズムに関して関しての報告例は少ない。

コメント    :
 プリント配線板の微細化によりスルホール穴開け用マイクロドリルの細径化は強く要求され、そのドリルの長寿命化は不可欠となっている。新たな表面改質手法の導入により長寿命化の糸口がつかめることが期待される。

原論文1 Data source 1:
Plasma ion implantation technology at Hughes Research Laboratories
Jesse N. Matossian
Plasma Physics Laboratory, Hughes Research Laboratories, Malibu, California 90265
American Vacuum Society. J.Vac.Scl.Technol.B 12(2),850-853 (1994).

原論文2 Data source 2:
Plasma ion implantation(PII)to improve the wear life of tungsten carbide drill bits used in printed wiring board(PWB)fabrication.
J.N.Matossian, J.J.Vajo and J.A.Wysocki
Hughes Research Laboratories, Malibu, California 90265
Surface and Coatings Technology. 62,595-599(1993)

原論文3 Data source 3:
Surface modification of cemented carbide using plasma nitriding and metal ion implantation.
R.K.Y.Fu, S.C.H.Kwok, P.Chen, P.Yang, R.H.C.Ngai, X.B.Tian, P.K.Chu
Department of Physics and Materials Science, City University of Hong Kong, Tat Chee Avenue, Kowloon,Hong Kong
Surface and Coatings Technology. 196,150-154(2005)

参考資料1 Reference 1:
Mechanical and tribological properties of tungsten carbide sputtered coatings.
J.Esteve, E.Martinez,
Department de Fisica Aplicada I Optica, Universitat de Barcelona,Catalunya,Spain
Superficies Vacio 9,276-279(1999)

キーワード:超硬合金、イオンビーム、イオン注入、耐摩耗性、寿命向上、ドリル、プリント配線基板、マイクロドリル
tungsten carbide alloy,ion beam, ion implantation, abrasion resistance, wear life, drill, printed wiring board
分類コード:040101、040206、040306

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