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作成: 2006/10/18 杉山 僚

データ番号   :010297
プラズマ照射による表面活性化接合
目的      :イオンビームを用いた接合技術の開発とその応用
放射線の種別  :重イオン
放射線源    :高速原子ビーム(数keV, 数100mA)
フルエンス(率):1015/(cm2・s)
利用施設名   :日本原子力研究開発機構関西光科学研究所実験棟C204 表面活性化接合装置
照射条件    :高真空排気後のアルゴンガス雰囲気中(1 mtorr (0.1333 Pa))
応用分野    :ICデバイス、MEMS素子、レーザー光学素子、μTAS素子

概要      :
 表面活性化接合法(SAB; Surface activated bonding)は、現在新しい接合法として各方面で注目されている現在開発中の技術である。研磨加工によって平滑化された2つの表面にイオンビーム等を同時照射して、表面エネルギーを増加させる。これによって活性化された表面を接触後加圧して接合する方法である。場合によっては、室温常温での接合が可能なことから適用範囲が広い。

詳細説明    :
 従来の接合技術における問題点の多くは、接合プロセスに加熱を伴うことに起因している。すなわち、結合強度の増加に必要な熱処理が、異種物質の熱膨張差に基づく熱歪みや熱応力の発生、熱化学反応による脆い反応層の形成、接合可能な材料の制限といった問題を引起す。これに対して表面活性化法は、従来の接合における原子拡散の促進に必要な加熱の役割をイオン衝撃などの物理的手法に置き換え、清浄な表面間の密着のみによって界面を形成させることで接合時温度が低温化できる。ここでは、当方法の原理及び特長と現在行われている研究例の一部について紹介する。
 
 図1は表面活性化法の概念図である。高真空容器内においてイオンビーム等を接合サンプルに照射することで、接合表面をエッチングすると共にダングリングボンドを形成させる。この際に導入された格子欠陥が、常温での原子拡散を誘発する。活性化した表面同士を加重機構によって接触させた後に、圧力を加えて接合する。


図1 表面活性化法の概念図(Conceptual diagram of a surface activated bonding)(原論文1より引用)

 
 図2に、原子間力顕微鏡を用いて観察したビーム照射前後におけるサンプル表面の状態変化を示す。加速電圧2 keVの中性アルゴンビームを単結晶サファイアに10分間照射した結果である。加速電圧が数keVと低いものの、照射により形態変化が生じ、0.43から4.27 nmと表面粗さが1桁増加している。このことから表面の極表層では照射によって表面エネルギーが増加しているものと推測される。


図2 ビーム照射による単結晶サファイア表面の形態変化Morphological change appeared on the surface of beam-irradiated sapphire crystal)(原論文3より引用)

 
 LSI製造技術を利用して製作される微細構造を有するマイクロマシン(MEMS; Micro electro mechanical system)では、微小なストレスによる歪みで素子特性が大幅に変化してしまう。このため、MEMSを実装する際には、極力ストレスを与えない方法が望まれる。従来、300℃までの加熱処理が必要なフリップチップ実装法が用いられてきたが熱応力の発生が否めないため、熱応力の低減を目指して現在SABによる実装法が研究されている。接合対象は、Si、セラミクス、レジン等の基板と金のバンプ(チップ)である。およそ100℃までの接合温度におけるこれまでの試験結果から、1バンプあたり1 Nの加重圧力を印加することで、MEMS素子に要求される結合強度が得られている(原論文2)。
 
 高強度の光が入射するレーザー結晶では、接合界面に空隙(ボイド)あると光散乱が生じるために、レーザー発振性能が大幅に低下してしまう。レーザー結晶の接合には従来、水素結合を利用した固相接合法が用いられてきた。この方法では、熱処理時に界面の水素結合部から水分子が発生する。接合面が大きいと、界面に取り残された水分子によりボイドが形成されやすくなるため、その利用は小型結晶の接合に限定されるという問題があった。水分子を含むこのボイドは熱処理温度を上げても改善できない。これに対して表面活性化法では、接合界面に水分子を含まない。接合面の研磨加工状態によっては、接合時に一部ボイドが形成されるが、接合後の熱処理によってこれを消失できる特長をもつ。
 
 図3(a)は、加速電圧1 keVの中性アルゴンビームを2つの直径2インチの単結晶サファイアに15分間同時照射させて接合した結果である。常温接合時にサンプル中央部には未接合のボイドが生じたが、接合後におよそ50時間の高温熱処理を行うことで、界面近傍の原子が熱拡散しボイドが消失した(図3(b))。熱処理後のサンプルについて、接合面に起因した光学的な歪みを測定した結果、0.3波長程度と比較的小さな歪であることがわかった。接合前の研磨加工状態の改善により、更に歪を小さく抑えることができる。


図3 熱処理によって消失した中央部のボイド(Vanished void at the center part of the bonded interface by the heat treatment)(a):熱処理前(before heat treatment)、(b):熱処理後(after heat treatment)(原論文4より引用)



コメント    :
 イオンビーム等の照射を利用した表面活性化接合法は、現在研究段階にある。近い将来、MEMS実装法やレーザー結晶の接合法だけではなく、LSIの実装法やマイクロTAS等の分野においても幅広い利用展開が進むものと期待される。
 

原論文1 Data source 1:
表面活性化による低エネルギー接合
須賀唯知
東京大学先端科学技術研究センター
日本金属学会誌まてりあ、vol. 35, pp.496-500 (1996)

原論文2 Data source 2:
佐名川佳治、植田充彦、吉岡伸宏、高見茂成
表面活性化常温接合を用いたMEMS低応力実装法
松下電工株式会社
松下電工技報 Vol.53、pp.12-17 (2005)

原論文3 Data source 3:
杉山僚、小田知弘、阿部智之、楠勲
表面活性化手法による光学素子接合技術の開発
松下電工株式会社
第7回光量子科学研究シンポジウム、17−共02(2006)

原論文4 Data source 4:
杉山僚、小田知弘、阿部智之、楠勲
表面活性化手法による光学素子接合技術の開発
松下電工株式会社
第6回光量子科学研究シンポジウム、16−共03(2005)

キーワード:表面 活性化 接合 アルゴン SAB MEMS レーザー結晶 サファイア
surface, activation, bonding, argon, SAB, MEMS, laser crystal, sapphire
分類コード:010103, 010205, 010206, 010303

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