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作成: 2005/9/6 放射線利用技術データベース工業分野専門部会事務局

データ番号   :010291
電子線照射技術を用いた複合機能繊維の開発
目的      :撥水と吸放湿機能を同時に有するポリプロピレン不織布の開発
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器 (800kV)
線量(率)   :100kGy/s、180kGy
利用施設名   :三和化工株式会社電子加速器
照射条件    :窒素気流中、常温
応用分野    :新機能性材料

概要      :
 疎水性繊維のポリプロピレン不織布に電子線グラフト重合でアクリル酸のような親水性モノマーをグラフトした後、第4級アルキルアンモニウム塩で処理し、さらに加工表面へフッ素プラズマ処理をすることにより、一般には相いれない撥水性と吸放湿性の両機能を同時に発現させる繊維の加工法を検討した。

詳細説明    :
 吸放湿性は居住環境や被服内の湿気を放出したりして、快適環境を保つための繊維製品の重要な機能であり、撥水性は雨などの水滴から繊維製品を濡れないようにする機能である。この全く相反する両機能を同時に付与する加工は非常に難しく、従来の方法では十分な機能は得られていない。また、撥水性を付与する方法として低温プラズマが試みられているが、酸素などの親水基を有する表面への撥水化は難しい。
 
 宮崎らは、疎水性繊維(ポリプロピレン)に電子線照射によるグラフト重合により吸放湿性を付与し、その表面を疎水性のアルキル基に変えたのち低温プラズマによる表面処理により、吸放湿性と撥水性を同時に付与する加工法を検討した。
 
 照射とグラフト重合: 日新ハイボルテージ製、加速電圧800kVで常温、窒素雰囲気中でポリプロピレン不織布(基材)の電子線照射を行った。線量率と線量は、100kGy/s、180kGyに設定した。予め窒素ガスで脱酸素したアクリル酸モンマーに照射した基材を40℃で所定時間浸漬し、グラフト重合させた。グラフトした基材は、0.2 mol/dm3の水酸化ナトリウム水溶液に60℃で30分浸漬することにより、ナトリウム塩に変え、吸湿性を付与した。
 
 表面へのアルキル基導入:ナトリウム塩としたグラフトした基材をジオクタデシルジメチルアンモニウムブロマイド(MW=550)の0.5%水溶液に70℃で15分間浸漬することにより、表面にアルキル基を導入した。
 
 低温プラズマ処理:プラズマ発生源に周波数13.56MHzの内部電極型のサムコインターナショナル社製PM-600型プラズマ処理装置を用いた。上述の表面にアルキル基を導入した基材をプラズマ処理装置内に置き、1Pa以下に減圧した後、CF4ガスを33Paの圧力になるように導入し、所定時間、所定放電出力(最適条件は、出力100Wで15分間)にて処理することにより、撥水性を付与した。
 
 電子線照射によりアクリル酸は容易にポリプロピレン不織布にグラフトし、グラフト率は重合時間により容易に制御できた(18%〜105%)。グラフトした不織布を水酸化ナトリウム水溶液で処理すると容易に親水化した。また、さらに表面にアルキル基を導入することにより、疎水性が付与され、表面のXPS(X線光電子分光分析装置)分析から、最表面はオクタデシル基で覆われた構造となっていることが推測された。
 
 フッ素プラズマ処理後では、上記の表面をナトリウム塩としただけの不織布は水を滴下後数分で濡れるようになったが、オクタデシル化したグラフト不織布では時間経過しても撥水性が保持された。
 
 以上のグラフト重合→Na処理→アルキル基導入処理→プラズマ処理したポリプロピレン不織布を予め真空乾燥後、高湿環境で吸湿させ、次いで低湿環境で放湿させる操作を繰り返し行った時の試料の含水率の経時変化を図1に示す。吸湿時の含水率はグラフト率の増加に伴い、高い値となった。


図1  Sorption-desorption behavior of moisture on it’s content for modified polypropylene (PP) non-woven fabrics. The amount of acrylic acid (AA) grafted on PP fabrics were 0%(original; △), 18%(□),52%(◇), and 105%(○). Moisture-sorption condition: 30℃-R.H.95% Moisture-desorption condition: 23℃-R.H.38% 加工処理したポリプロピレン(PP)不織布の吸放湿特性. アクリル酸グラフト率:0%(未処理; △), 18%(□), 52%(◇), and 105%(○). 吸湿条件: 30℃-R.H.95%、放湿条件: 23℃-R.H.38%(原論文1より引用)

 また、吸湿時の含水率と放湿時の含水率の差である吸放湿率を表1に示す。この差は吸放湿を繰り返す時に利用可能な吸放湿量を示す。グラフト率105%の試料では試料重量の60%以上の水分を吸放湿量する能力を示す。綿布と比較すると、6倍以上の高い吸放湿性を示すことがわかった。このように、吸放湿性は、グラフト率により制御でき、概ね任意の性能を得ることができる。

表1 Difference of Moisture Contents between Moisture-sorption and Moisture-desorption for Modified PP Non-woven Fabrics. 加工処理したポリプロピレン(PP)不織布の吸湿時の含水率と放湿時の含水率の差(吸放湿率)(原論文1より引用)
Sample
No.
Degree of
Grafting(%)
Moisture contents
After
sorption(%)a)
After
desorption(%)b)
Difference
1 18 8.3 0.3 8.0
2 52 29.8 1.6 28.3
3 105 67.8 5.5 62.3
4 36 13.3 2.9 10.5
Original
PP-n.w.f
- 0.0 0.0 0.0
Cotton
fabric
- 13.0 3.5 9.5
a)Moisture content by sorption was measured with 30℃-R.H.95% for 2h.
b)Moisture content by desorption was measured with 23-R.H.38% for 2h.
 
 また、表面張力の明らかな液体の濡れ性で評価した撥水性は、ポリプリピレン不織布素材より高い撥水性を示したが、グラフト率が高くなると低下し、フッ素系撥水加工繊維と比較すると、十分な性能ではなかった。さらに高い撥水性の付与が今後の課題と考えられる。

コメント    :
 
 撥水と吸放湿機能を同時に有する繊維は、各種運動着用被服材として高い付加価値を有している。今後、本技術は、撥水性をさらに高め、製造プロセスの確立や経済性の評価を進めることにより実用化へ近づくと期待される。

原論文1 Data source 1:
撥水と吸放湿性を同時に有するポリプロピレン不織布の改質
宮崎孝司、久田研次、堀 照夫、渡辺暢子*
*福井大学工学部、福井県工業技術センター
SEN’I GAKKAISHI, 55, 408-415 (1999).

原論文2 Data source 2:
撥水吸放湿性加工布の製造法
宮崎孝司、堀 照夫
福井県工業技術センター
公開特許公報(A) 特開2000-160480 (2000.6.13)..

参考資料1 Reference 1:
撥水と吸放湿性を同時に有する複合機能繊維
宮崎孝司
福井県工業技術センター
工業材料、48, 98-102 (2000).

キーワード:電子線、グラフト、ポリプロピレン、吸放湿性、撥水性、アクリル酸、ジオクタデシルジメチルアンモニウムブロマイド、CF4プラズマ加工、
Electron beam, graft, polypropyrene, hygroscopic property, water repellent, acrylic acid, dioctadecyldimethylammoniumbromide, CF4-plasma treatment  
分類コード:010106, 010101,010304

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