作成: 2004/9/21 三友宏志、高柳直人
データ番号 :010278
キノコからつくる新タイプの天然ゴム
目的 :皮膚に触れてもアレルギーを起こさない新しいタイプの天然ゴムの開発
放射線の種別 :ベータ線,ガンマ線
放射線源 :電子加速器、Co-60γ線
線量(率) :20-160kGy
利用施設名 :日本原子力研究所高崎研究所
照射条件 :大気中、室温
応用分野 :ゴム手袋、カテーテル、ゴムチューブ
概要 :
ゴム手袋をはめたときに起こる皮膚アレルギーを回避するため、ゴムの木由来の天然ゴム(NR)の代わりにチチタケ子実体から抽出したゴム(IR)を用いた。ゴム分子間の橋かけは硫黄を使わず、放射線で橋かけを導入させ、強度の向上を行った。橋かけ剤をキノコ由来のゴムに混ぜて放射線を照射することによって高いゲル分率が得られた。
詳細説明 :
ゴムの木由来の天然ゴムから製造した手袋などで発症するタンパク質アレルギーが社会問題になっている。植物が自らを保護するために持っている生体防御蛋白質がアレルギーの主因だと考えられている。そこで、Lactarius類のキノコに注目した。このキノコから得られる天然ゴムはタンパク質を全く含まない純粋なシス型ポリイソプレンとして得られると報告されている。
本研究では、主にチチタケ子実体からゴムを抽出し、ゴム分子間の橋かけは硫黄を使わず、橋かけ剤を添加し、放射線で橋かけを導入させ、性能の向上を目的とした。
ゴムは次の手順で抽出した。塩漬けチチタケ子実体を水で塩抜き後、減圧乾燥させた。これをミキサーで粉砕し、ヘキサンで抽出した。これをトルエンに溶かし、可溶成分をメタノールに注ぎ精製し、各実験に用いた。チチタケ子実体から得られたゴムの収率は、3.4〜6.6%、数平均分子量は50000前後となった。元素分析の結果、窒素が含まれていなかった。これは蛋白質を含まないということを示し、アレルギーを回避することができると言える。
また、チチタケは夏の一時期だけしか採取できないキノコであるため、独立行政法人 製品評価技術基盤機構より購入したLactarius chrysorrheus(L.C)菌糸体(NBRC 8334)からゴムを得ることにも取り掛かっている。L.C菌糸体からのゴムは、収率は2%前後、数平均分子量は1500前後となり、チチタケ子実体からのゴムと比べて収率、分子量とも低くなるようである。しかし、今後、ゴムを蓄積する他の菌糸体の培養を行うことや、炭素源や窒素源などの栄養源を変化させたり、温度や培養時間などを変化させることにより高収率、高分子量のゴムを得られることが期待される。
ゴム分子間の橋かけは、橋かけ剤を混合し放射線で橋かけを導入させた。通常の橋かけでは、硫黄と加硫促進剤であるグアニジン類を用いて加硫される。放射線橋かけは、硫黄や加硫促進剤を使わず、橋かけを起こすため、発ガン性のニトロソアミンを副生せず、生体にやさしいという特徴と、生分解性を損なわないという特徴がある。
キノコ産生ゴムの対照試料としてクラレ(株)製の液体合成イソプレンゴム(LIR)[トランス/シス=2:1]にALDRICH�蠕州牡映柔�モノマーである1,6-Hexandiol diacrylate (HDDA)とPolyethyleneglycol dimethacrylate [PEGDMA (1G:n=1, 2G:n=2)]、3官能性モノマーであるTrimethylolpropane triacrylate (TMPTA)とTrimethylolpropane trimethacrylate (TMPTMA)の橋かけ剤を10phr混ぜて所定線量電子線を照射した。
図1にLIRに様々な橋かけ剤を混ぜ、電子線を20、50、100kGy照射したときのゲル分率を示す。TMPTAとHDDAを用い、50kGy照射したとき、高いゲル分率を示し、導入されることが分かった。また、2官能性モノマー、3官能性モノマーにかかわらず、メタクリレートモノマーよりアクリレートモノマーの方が橋かけが導入されやすい。

図1 Gel fraction of LIR mixed with various crosslinking agents and irradiated to 20、50、100kGy with EB. LIRに様々な橋かけ剤を混ぜ、電子線を20、50、100kGy照射したときのゲル分率(作成者自作)
より効率よく橋かけを導入させるために、橋かけ剤の添加方法の検討を行った。溶剤(ヘプタン)に溶かした橋かけ剤入りゴムに所定量γ線を照射した。
溶媒に溶けた状態では、γ線照射によって得られたゴムのゲル分率および膨潤度は増加した。これは、溶媒によりイソプレン鎖が広がり、ルーズゲルの生産が行われたことを意味する。
この条件で、フィルムを作成し、物性を評価した(表1)。表には、160kGy照射したIR/HDDA、LIR/HDDA、NR/HDDAフィルム、未照射のNR-controlフィルムの引張り試験の結果を示す。NRとIRのヤング率を比べると、引張強度が100分の1と小さくなることがわかった。これは、IRはNRに比べて分子量が低く、ゲル分率が低いためであると考えられる。すなわち、NRはIRより有効にイソプレン鎖間に橋かけを導入させやすいということが分かった。
表1 tension test of IR/HDDA, LIR/HDDA, NR/HDDA,NR-control film
IR/HDDA、LIR/HDDA、NR/HDDA、NR-controlフィルムの引張試験(作成者自作)
-------------------+-------------------+-------------------+--------------------
| ヤング率 (MPa) | 破断応力 (MPa) | 破断伸び率 (%)
-------------------+-------------------+-------------------+--------------------
IR | 0.15 | 0.25 | 127.8
LIR | 1.1 | 0.25 | 9.08
NR | 13 | −a) | −
NR-control | 8.5 | − | −
-------------------+-------------------+-------------------+--------------------
a)未測定
コメント :
新しいタイプの天然ゴムの開発技術が書かれている。引張強度の改善により実用化が近づくと考えられる。IRの分子量及びゲル分率の向上がポイントになるであろう。そのためには、培養による分子量の増加、γ線照射による橋かけ方法の改善が考えられる。
原論文1 Data source 1:
キノコによる天然ゴムの生産と性能の向上
三友宏志
群馬大学工学部生物化学工学科
HiKaLo 第12号(2004.3.30)
参考資料1 Reference 1:
Solution-grown crystal of cis-1,4 polyisoprene
Seiichi Kawahara, Yoriko Inomata, Yasuyuki Tanaka and Norimasa Ohya
Faculty of Technology, Tokyo University of Agriculture and Technology, Koganei, Tokyo 184, Japan
Polymer paper, Volume 38, Issue 16, August 1997, Pages 4113-4116
参考資料2 Reference 2:
Radiation Vulcanization Mechanism of Liquid Isoprene with 2-Ethylhexyl Acrylate
CHYAGRIT SIRI-UPATHUM1), K.Makuuchi2)and I.Ishigaki2)
1)Faculty of Engineering, Chulalongkorn University, Bangkok, Thail and 2)Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Takasaki, Japan.
JAERI-M 89-228, Pages 336-349
キーワード:キノコ、チチタケ、タンパク質アレルギー、γ線、電子線、放射線架橋、天然ゴム、ポリイソプレン、液体合成ゴム
mushroom, Lactarius volemus, protein allergy, γ-ray,electron beam, radiation crosslinking,natural rubber,polyisoprene, Liquid synthetic rubber
分類コード:040202, 040204