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作成: 2004/09/19 中山 明

データ番号   :010275
イオンビームを用いたCNx薄膜の合成
目的      :イオンビーム技術を用いた高品質な窒化炭素膜の作製
放射線の種別  :電子
放射線源    :Kaufman型イオン源
利用施設名   :産業総合技術研究所四国センター
照射条件    :真空中
応用分野    :機械部品、金型、半導体

概要      :
 
 CNx薄膜はダイヤモンドより高硬度を有することが理論的に示され、優れたトライボロジー特性や半導体材料としても今後、期待される材料である。これまで、CVD法やスパッタリング法での合成が試みられ、本報告では、炭素源を電子ビームおよびエキシマレーザーで蒸着し、窒素イオンビームをアシスト照射することによりCNx薄膜合成に関する最近の研究例を示す。

詳細説明    :
 
 CNx薄膜はLiuとCohenによりC3N4がダイヤモンドよりも高硬度で優れたトライボロジー特性を有することが理論的に示され、半導体材料としても将来的に期待されている材料である。
 
 CNx薄膜の合成には種々の手法が提案されて、その中でも多くの報告はCNx薄膜中の窒素含有量が30%以下でアモルファス構造を有するというというものである。以下、CNx薄膜の合成に関しての研究例を紹介する。
 
 はじめに紹介する研究は、電子ビームにより炭素を蒸発させながら、N2+イオンを照射し、その照射条件などを成膜中に変化させ、CNx膜のモフォロジーや膜の組成や構造などについて検討したものである。本研究に用いたIBAD(Ion Beam Assisted Deosition:イオンビーム支援蒸着)装置は原論文1のFig.1 (p.1553)に示されている。
 
 基板はSiを用い、炭素源に対して45°の角度で設置され、ヒータにより室温から700℃の範囲で温度制御可能である。カーボンの蒸着速度は0.1-0.3nm/sで、N2+イオンの照射エネルギーは200-1200eV(最大電流密度:200μA/cm2)である。N2+イオンの照射エネルギーを200eV(電流密度:40μA/cm2)で炭素の蒸着速度を0.1nm/sの場合にはCNx膜中の窒素含有率が20-22%程度であった。炭素の蒸着速度が0.2nm/sでは窒素含有率が5%程度になることがAES(オージェ電子分光)分析で明らかになった。この結果から、基板に到達する窒素と炭素の比率から膜中の窒素含有量が単純に推定できるものではない。基板に到達する窒素と炭素の比率(N/C)が0.3以下(膜組成で20-26at.%N)ではアモルファスカーボンの構造を示すことがEELS(電子エネルギー損失分光)等の分析からも明らかとなった。
 
 次に、KrFエキシマレーザーによりグラファイトターゲットをアブレーションし、窒素イオンビームを基板に照射し、CNx薄膜を形成する研究を紹介する。基板に到達する窒素と炭素の比率(N/C)による結合状態、微細構造や表面形態をXPS(X線光電子分光)、FT-IR(フーリエ変換赤外分光)、micro-Raman(ラマン分光)およびAFM(原子間力顕微鏡)により評価を行った。
 
 図1にCNx薄膜合成のためのイオンビームアシストパルスレーザー蒸着装置を示す。KrF(波長:248nm)のエキシマレーザー(パルス幅:20ns)を用い、HOPG(高配向熱分解性黒鉛)を炭素源としてアブレーションを行った。アブレーションのエネルギー密度は10J/cm2以下で、パルス周波数5Hzで行った。基板にはSiウェハとCaF2結晶とTiNコーティングしたステンレス鋼を用いている。アシストイオンの照射条件は1イオン源の場合は200eVでイオン電流10mAおよび20mAで、2イオン源の場合は各イオン源では60eV、15mAの条件で行った。膜厚は200-300nmである。


図1 Schematic of the experimental setup.(原論文2より引用)

 
 アシストイオン源の単位時間当たりの窒素イオン電流値を10mAから30mAにすることにより若干、膜中の窒素含有量は上昇する。図3にアシストイオン源の窒素イオン電流値におけるCNx膜中のC-N結合におよぼす影響を示す。図2中のCN1,CN2およびCN3はアシストイオン源の窒素イオン電流値を10mA,20mAおよび30mAで作製したCNx膜を示している。


図2 (a)XPS N 1s core-level spectra of the carbon nitride films prepared under different nitrogen ion currents. Typical Gaussian deconvolution of N1s spectra was also shown. (b)The dependence of the contents of N. sp3C and N. sp2C bonds on nitrogen ion current.(原論文2より引用)

 
 この図から、窒素イオン電流値が大きくなるにつれて、N-sp3C結合(ダイヤモンドより高硬度が期待されるC3N4構造)が増加することがわかる。FT-IRの測定結果からも1400cm-1付近のsp3C-Nの吸収スペクトルが窒素イオン電流値の増大により大きくなることがわかる。つまり、アシストの窒素イオン量を増加することによって、高硬度なCNx膜が形成されることになる。ラマン分光においても窒素イオン電流値の増加に伴い、Dバンドの割合が大きくなることが示され、高硬度のC3N4構造の形成にはアシストイオン源の窒素イオン電流値を大きくする(基板に到達する窒素の比率を大きくする)ことが重要である。また、窒素イオン電流値が大となる条件で成膜したCNx膜ではボールオンディスク試験において、ドライおよびウエットな条件において、最も低い摩擦係数を示し、優れたトライボロジー特性を有することを確認している。

コメント    :
 
 CNx薄膜の合成手法としてはカーボンを蒸発させながら窒素イオンを照射するN+アシスト成膜法は有望な手法と考えられる。この手法の薄膜は高硬度が期待できるが、実用化を考えた場合、大面積への均一成膜技術などが大きな課題である。

原論文1 Data source 1:
Modulated CN films prepared by IBAD
G.Safran*1, A.Kolitsch*2 , S.Malhuitre*2 , S.T rasobares*3 , I.Kovacs*1 , O.Geszti*1 , M.Menyhard*1 , C.Colliex*3 , G.Radnoczi*1

原論文2 Data source 2:
Structure and properties of carbon nitride thin films synthesized by nitrogen-ion-beam-assisted pulsed laser ablation
Z. Y. Chen, J. P. Zhao, T. Yano, T. Shinozaki, and T. Ooie
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
J. Vac. Sci. Technol. A 20(5), Sep/Oct (2002) 1639-1643

キーワード:電子ビーム、イオンビームアシスト、パルスレーザー蒸着、光電子分光、熱処理、窒素、炭素、薄膜、摩擦係数、イオンビーム支援蒸着、電子エネルギー損失分光、X線光電子分光、原子間力顕微鏡、フーリエ変換赤外分光、ラマン分光、オージェ電子分光、高配向熱分解性黒鉛
electron beam,ion beam assist,pulse laser deposition,ion beam mixing,x-ray photoelectron spectroscopy,thermal treatment,carbon,nitrogen,thin film,friction coefficient, IBAD, XPS, FT-IR, micro-Raman, AFM, AES, HOPG
分類コード:040101,040102,040106

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