熱融着型ＡＢＳセンサーケーブルの開発

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作成： 2004/08/11 早味　宏データ番号　　　：010270 熱融着型ＡＢＳセンサーケーブルの開発目的　　　　　　：ケーブル被覆材料の開発放射線の種別　　：電子,ガンマ線,ベータ線放射線源　　　　：電子加速器（2.0MeV）利用施設名　　　：住友電気工業㈱関東製作所照射条件　　　　：空気中、室温応用分野　　　　：電線、ケーブル概要　　　　　　：　自動車のＡＢＳ（アンチロックブレーキシステム）に使用されるＡＢＳセンサーケーブルは車輪の回転数を検出する車輪速センサーと電子制御ユニット間の信号伝送を担うケーブルで、ケーブルの外皮には電子線照射で架橋したポリウレタンが使用されている。車輪速センサーは車輪の近傍に配置され、着水、着氷等の厳しい環境に晒されるため、センサーとケーブルの接続部には高度な防水性が要求される。そこで従来はケーブルの外周に防水用のシール部材を装着してから全体をＰＢＴ樹脂（ポリブチレンテレフタレート）等でモールドする方法が採られてきた。掲題の熱融着型ＡＢSセンサーケーブルは、外皮にモールド樹脂との熱融着性に優れるポリウレタンとポリエステルのポリマーアロイを適用したもので、シール部材を必要とせず、モールドするだけで防水性を発揮し、ユーザーでの工程短縮に貢献できる機能を持った新しいタイプのＡＢＳセンサーケーブルとして実用化が進んでいる。詳細説明　　　　：　自動車のＡＢＳ（アンチロックブレーキシステム）に使用されるＡＢＳセンサーケーブルは車輪の回転数を検出する車輪速センサーと電子制御ユニット間の信号伝送を担うケーブルで、図１のように、２本の絶縁電線の外周を電子線照射により架橋した熱可塑性ポリウレタンエラストマーで被覆した構造のケーブルである。シース材（外皮）にポリウレタンを採用している理由は、ポリウレタンが柔軟性、機械的強度、耐摩耗性を併せ持った材料であるからであり、電子線照射による架橋は耐加水分解性の向上が目的である。　図1　従来のＡＢＳセンサーケーブルの構造. （原論文1より引用）　　車輪速センサーは車輪の近傍に配置され、着水、着氷といった厳しい環境に晒されるので、センサーとケーブルの接続部には高度な防水性が要求される。そこで接続部は、図２(a)のように、センサー本体に取り付けられたケーブルの外周に防水用のシール部材を装着してから、全体を射出成形で樹脂モールドする方法が採用されてきた。　図2　熱融着型ケーブルによる接続工程の簡略化. （原論文1より引用）　　これに対し、熱融着型のＡＢＳセンサーケーブルは防水性シール部材を使用せず、モールド時にモールド材とケーブルが熱融着（熱接着）することによって防水性を発揮する機能を持ったケーブルである。モールド材にはＰＢＴ樹脂（ポリブチレンテレフタレート）やポリアミド樹脂が使用されるが、電子線照射で架橋したポリウレタンはこれらのモールド樹脂に対する熱融着性が劣る。そこで、ポリウレタンエラストマーと同等の柔軟性、機械的強度を併せ持つ材料としてポリエステル系、ポリアミド系の熱可塑性エラストマーに着目し、これらを電子線照射により架橋した材料について、ＰＢＴ樹脂やポリアミド樹脂との熱融着性を評価した。その結果、図３のようにポリエステル系エラストマーがＰＢＴ樹脂、ポリアミド樹脂の何れに対しても凝集破壊モードで熱融着することがわかった。　図3　ポリエステル、ポリアミド系の熱融着性. （原論文1より引用）　　しかしながら、ポリエステル系エラストマーは従来のポリウレタン系エラストマーに比べ耐摩耗性が劣り、また高価であることから、モールド樹脂に対する熱融着性を担うポリエステルをマトリックス、耐摩耗性を担うポリウレタンがドメインとして微分散した構造のポリマーアロイの開発を検討した。　　図４はポリウレタンとポリエステルの比率を振った試料の相構造を観察したものであり、ポリウレタン／ポリエステルの比率が７／３、６／４、４／６（重量比）のものが、ポリエステルのマトリックス中にポリウレタンが2～5μmのサイズのドメインとして微分散ており、狙いの相構造を有するポリマーアロイとなっていることがわかった。　図4　ポリウレタン／ポリエステル系アロイの相構造観察. （原論文1より引用）　　図５はポリウレタン／ポリエステルの比率が６／４の試料について、モールド成形時の加熱条件を模擬して２５０℃で１分間加熱処理を行った後の相構造を観察したものであるが、相構造に大きな変化は見られず、電子線照射による架橋はポリマーアロイの相構造の固定化という点においても効果を発揮していることがわかった。　図5　熱処理後の相構造. （原論文1より引用）　　そこで、このポリマーアロイを用いたケーブルを試作し、代表例としてポリアミド樹脂を選び、図６の形状のモールド模擬サンプルを作製し、－４０℃／１００℃のヒートサイクルを行い、水中浸漬法で絶縁抵抗の変化を測定する方法で防水性の評価を行った。　図6　模擬サンプルと防水性評価方法. （原論文1より引用）　　その結果、図７のように、従来のケーブルやそのケーブルの表面を粗面化したケーブルでは１００サイクルで絶縁抵抗が大幅に低下するのに対し、ポリマーアロイ材を使ったケーブルは１０００サイクル後も初期の絶縁抵抗をほぼ保持しており、防水性に優れることが確認できた。開発したケーブルの機械的物性、耐熱性、難燃性、耐摩耗性等の特性は従来ケーブルと同等以上であり、ユーザーでの工程短縮に貢献できる機能を有する新しいタイプのＡＢＳセンサーケーブルとして実用化が進んでいる。　図7　絶縁抵抗測定による防水性評価結果. （原論文1より引用）コメント　　　　：　　電線被覆への電子線照射の利用は、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性等の向上を目的とするものが多いが、本開発ではポリマーアロイをケーブルの被覆材料として適用し、その相構造の固定化に電子線照射を役立ており、新しい活用法として興味深い。原論文１ Data source 1：熱融着型ＡＢＳセンサーケーブルの開発森内　清、早味　宏、菊地　英司、萩尾　温彦、上野　桂二住友電気工業㈱ SEIテクニカルレビュー第159号, p115-118（2001年）原論文２ Data source 2：ＡＢＳセンサーケーブルの開発鈴木　静夫、高萩　正敏、宇田　郁ニ郎、上野　桂二住友電気工業㈱住友電気、第136号, p174（1990年）キーワード：電線、ケーブル、電子線、架橋、熱可塑性エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリマーアロイ wire, cable, electron beam, cross-link, thermoplastic elastomer, polyurethane, polyester, polymer alloy 分類コード：010101, 010105, 010108
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