電子線を利用したフッ素ポリマーの表面改質と銅メタライジング

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作成： 2004/08/11 早味　宏データ番号　　　：010269 電子線を利用したフッ素ポリマーの表面改質と銅メタライジング目的　　　　　　：電子線照射を利用したフッ素ポリマーの表面改質とその応用放射線の種別　　：電子,ガンマ線,ベータ線放射線源　　　　：電子加速器　日新ハイボルテージ製（800kV）、岩崎電気製（110～240kV）照射条件　　　　：室温、窒素中応用分野　　　　：高周波用プリント配線板、衛星放送受信アンテナ概要　　　　　　：　ポリテトラフロロエチレン等のフッ素樹脂は耐薬品性、耐熱性、電気的特性に優れ、特に誘電特性についてはGHz帯においても優れた特性を有することから、表面をメタライズして回路形成できれば、高周波用プリント基板や衛星放送の受信アンテナ等への応用が期待される。そこで、フッ素樹脂フィルムに電子線を照射した後70℃の純水に浸漬処理する方法で表面改質を検討した結果、水接触角は未処理品の110゜から88゜まで低下し、元素分析の結果、表面に酸素原子を含む官能基が生成していることが確認できた。この表面改質したフッ素樹脂フィルムへの無電解銅めっきを検討したところ、めっき面の膨れが発生する問題はあったが、最大で167mN/5mmの密着強度が得られることがわかった。詳細説明　　　　：　ポリテトラフロロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂は耐薬品性、耐熱性、電気的特性に優れ、特に誘電特性についてはGHz帯においても優れた特性を有することから高周波用プリント基板、衛星放送の受信アンテナ等への応用が期待される。　　フッ素樹脂をこのような用途に応用するには、表面に無電解めっき等により導体回路を形成する必要がある。そこで、フッ素樹脂の電子線照射による表面改質とその表面への無電解銅めっき、表面改質に伴う誘電特性の変化を調べた。　　フッ素樹脂基材にはPTFEおよびFEP（テトラフロロエチレン－ヘキサフロロプロピレン共重合体）のフィルムを用い、これらをチャック付きポリエチレン袋に入れ、窒素置換した後、加速電圧800kVの電子線を照射し、そのまま空気中で保存した試料（試料①）、照射後70℃の純水に15分浸漬した試料（試料②）について評価を行った。　　各試料の水接触角、XPS分析（X線光電子分光分析法）による表面の元素分析の結果をそれぞれ図1、図2に示す。水接触角の低下は試料②の方が大きく、未処理の試料の接触角が110゜であるのに対し、180kGy照射した試料では88゜に低下する。一方、元素分析では試料①、試料②ともに照射線量の増加とともにフッ素原子と炭素原子の1s軌道からみた信号強度比F1s／C1sが低下することから、照射線量の増加とともに脱フッ素化が進行していることがわかる。また、O1s／C1s比は試料①においても照射線量とともに増加していることから、照射のみでも酸素原子を含む官能基が生成していることが示唆されるが、O1s／C1s比の増加の度合いは試料②の方が試料①より大きく、浸水処理により官能基の生成が促進されていることがわかる。　図1　Contact angle of water on the EB irradiated FEP films and the films (□) immersed in water at 70℃ after irradiation (○)vs. EB irradiation dose. （原論文1より引用）図2　Atomic composition analyzed by XPS on the EB irradiated FEP films (□) immersed in water at 70℃ after irradiation (○) vs. EB irradiation dose. Open symbols are F1s/C1s and closed are O1s/C1s. （原論文1より引用）　　そこで、試料②への無電解銅めっき（設定めっき厚0.2～0.3μm）を検討した結果、膨れが発生して均一なめっき面は得られなかったが、膨れが発生していない部分について5mm幅にカットし、銅めっき面に酸素プラズマで表面処理したPETフィルムをエポキシ系接着剤で接着した試料を作製し、剥離強度を測定した結果、図3のように照射線量とともに剥離強度が増加し、180kGy照射した試料で167mN/5mmの密着強度が得られることがわかった。　図3　Peal strength for the copper deposited films. Electroless plating was performed on the films that immersed in water at 70℃ after EB irradiation. （原論文1より引用）　　次に、表面改質による誘電特性の変化を調べた。試料にはPTFEフィルム（厚み0.2mm）、FEPフィルム（厚み0.1mm）を用い、室温、窒素中にて加速電圧110～130kVの電子線を50kGy照射した後、アクリル酸で処理して、アクリル酸をグラフトしたフィルムを得た。図4に試料表面のXPSによる元素分析の結果を示す。　図4　Atomic composition analyzed by XPS of AA-grafted FEP film (□) and PTFE film (○). Open symboles are for F1s/C1s and closed symbols are for O1s/C1s. EB-grafting condition: 130kV or 110kV, 50kGy; post-polymerization:50℃×3min.（原論文2より引用）　　FEPフィルムはアクリル酸モノマーの濃度とともにF1s/C1s比は未処理の2.0から0.4にまで大きく低下し、逆にO1s/C1s比は未処理の0.01から0.38に増加した。PTFEフィルムはFEPフィルムに比べて変化は小さいが改質されていることがわかる。これらのフィルムの1GHzでの誘電損失(tanδ)、比誘電率(ε)の温度特性を測定した結果が図5である。グラフト後のフィルムの比誘電率は未処理のフィルムに比べてやや高い値を示すが、ガラスエポキシ複合材やポリイミドフィルムより低く、温度依存性もほとんど見られない。しかし、誘電損失はガラスエポキシ複合材とポリイミドフィルムの中間の値を示し、何れの試料も温度の上昇とともに増加する傾向が認められた。　図5　Temperature dependence of dielectric loss (a) and dielectric constant(b) of AA-grafted fluoride polymers and various polymers.(Frequency 1GHz). □:Original PTFE (t=0.2mm) ; ■:AA-grafted PTFE (t=0.2mm) ; ○:Original FEP (t=0.1 mm); ●:AA-grafted FEP (t=0.1mm) ; ◇:Polyimide (t=0.125mm); △:Glass-epoxy-composite (t=3mm)（原論文2より引用）コメント　　　　：　　めっき層に膨れが発生していることや、密着強度が最大でも167mN/5mmであることから、高周波用プリント基板等に実用化するにはさらなる特性向上が必要であると考えられるが、フッ素樹脂に電子線照射や、その後の浸水処理によって含酸素官能基を導入することにより、無電解めっきが可能な素材に改質している点は興味深く今後の改良と実用化が期待される。原論文１ Data source 1： (( 宮崎(*)、雲竜、末定、近藤、佐治、堀(*) ( 福井県工業技術センター、(*)福井大工学部 ( 福井県工業技術センター研究報告、No.16, p90-93 (2000) 原論文２ Data source 2：電子線グラフト重合によるフッ素ポリマーの表面改質宮崎、雲竜、近藤、佐治、末定、堀福井大工学部福井県工業技術センター研究報告, NO. 17, p121-124 (2001) キーワード：放射線グラフト、電子線照射、フッ素樹脂、フィルム、表面改質、めっき、プリント配線板、誘電特性分類コード：010101, 0.0107, 010205, 010304
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