ポリ乳酸の放射線照射による改質

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作成： 2003/08/01 早味　宏データ番号　　　：010262 ポリ乳酸の放射線照射による改質目的　　　　　　：ポリ乳酸の放射線照射による改質放射線の種別　　：電子,ガンマ線,ベータ線放射線源　　　　：⁶⁰Coガンマ線線量（率）　　　：10kGy/h 照射条件　　　　：真空中応用分野　　　　：医療器具、工業用材料概要　　　　　　：　ポリ乳酸（ポリ-L-ラクチド）の放射線架橋を検討した。ポリ乳酸に多官能性モノマーのトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を1.0wt%添加した材料を真空中でガンマ線照射すると架橋し、ゲル分率はTAIC濃度、照射線量とともに増加した。示差熱分析や動的粘弾性の測定結果から、架橋度が高くなるにつれて結晶量が低下して融点が低くなるとともに結晶化温度も不明確になることがわかった。詳細説明　　　　：　医療器具の滅菌にガンマ線照射が利用されている。しかし、高エネルギーの放射線照射は滅菌で実施されている25kGy程度の線量でも材料にダメージを与える。ポリ乳酸のような生分解性ポリマーは特にダメージを受けやすいが、架橋できれば機械的強度の向上や加水分解速度の遅延が期待でき、医療分野だけでなく工業分野でも利用価値があると考えられる。そこで、ポリ乳酸に多官能性モノマーであるトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を添加した材料の放射線架橋を検討した。　　ポリ乳酸はL-ラクチドモノマーをスズオクタノエート触媒の存在下で開環重合する方法で合成した。乾燥したモノマーとスズオクタノエート触媒のジエチルエーテル溶液をガラス管に入れ、10-3mmHgに減圧して封管後、160℃のオイルバスに24時間浸漬する方法で重合し、得られたポリ乳酸を酢酸エチルで精製した。重量平均分子量Mwは260,000、密度1.249g/cm³, mp182℃であった。　　このポリ乳酸にTAICを0.5, 1.0, 3.0, 5.0wt%添加した材料を作製し、200℃で熱プレスして厚み3mmの板状に成形し、真空中で⁶⁰Co線源のγ線を線量率10kGy/hで2.5, 5, 10, 25, 50kGy照射し、ゲル分率と膨潤度を測定した。ゲル分率と膨潤度の測定溶媒にはクロロホルムを用い、引張試験はASTM D638に準拠して行い、熱的性質は示差熱分析(DSC)と動的粘弾性測定(DMS)で調べた。　　図１はゲル分率と膨潤度の測定結果であり、TAIC添加量、照射線量とともにゲル分率が増加し、膨潤度が低下した。TAIC添加量が1.0wt%の試料は滅菌条件の25kGy照射で高度に架橋している。引張特性はポリ乳酸単味では25kGyの照射で引張強さ、伸びともに大幅に低下したが、TAICを添加した試料では照射後も引張強さの大きな変化はなかった。但し、伸びの低下は大きく、これは架橋構造の導入によるものと考えられる。　　一方、図2はDSCの測定結果である。①は未照射試料であり、半結晶性ポリマーとしての熱的挙動を示しており、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)、融点（Tm）が明瞭に見られる。これに対し、②③④の照射試料ではTAIC添加量の増加とともに結晶融解ピークの面積が減少し、Tcも不明瞭になる。　　図3はDMSの測定結果であり、１は未照射試料、2-4はTAIC添加量がそれぞれ1.0, 3.0, 5.0wt%で25kGy照射した試料である。領域aはガラス状態、bはガラス転移、領域cは結晶化、領域dはゴム状、領域eは流動状態であり、2のTAIC添加量が1.0wt%の試料では結晶化温度の上昇と融点が僅かな低下が見られるが、3-4のTAIC添加量が多い試料ではガラス状、ガラス転移、ゴム状の３領域しか認められず、架橋の進行が結晶化を阻害し、結晶を消失させることがわかった。図1　(a)Gel fraction and (b)degree of swelling of crosslinked PLLA as a function of γ-ray dose.（原論文1より引用。　Reproduced, with permission of the copyrighter, from Macromol. Rapid Commun., 2002, vol.23, 909-912 (2002), F.Jin, S.H.Hyon, H. Iwata, S. Tsutsumi, Figure 1 (Data Source 1, p.910), Copyright(2002) by WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA.）　図2　DSC traces of PLLA and γ-ray-crosslinked PLLA.（原論文1より引用。　Reproduced, with permission of the copyrighter, from Macromol. Rapid Commun., 2002, vol.23, 909-912 (2002), F.Jin, S.H.Hyon, H. Iwata, S. Tsutsumi, Figure 2 (Data Source 1, p.911), Copyright(2002) by WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA.）　図3　Dynamic mechanical analysis data for PLLA and γ-ray-crosslinked PLLA:(a)glassy state,(b)glass transition state,(c)crystalline state,(d)rubbery state,(e)liquid-flow state.Curve 1shows the dynamic tensile behavior of PLLA,curves 2-4 show the dynamic tensile behavior of γ-ray-crosslinked PLLA with 1.0 wt.-%,3.0 wt.-%,and 5.0 wt.-% TAIC,respectively.（原論文1より引用。　Reproduced, with permission of the copyrighter, from Macromol. Rapid Commun., 2002, vol.23, 909-912 (2002), F.Jin, S.H.Hyon, H. Iwata, S. Tsutsumi, Figure 3 (Data Source 1, p.911), Copyright(2002) by WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA.）　コメント　　　　：　　ポリ乳酸は一次構造では崩壊型ポリマーとして分類できるが、多官能性モノマーを添加し、真空中で照射すれば架橋することが示されており、医療器具だけでなく工業材料としての応用も期待される。原論文１ Data source 1： Cross-linking of poly(L-lactide) by γ-irradiation F.Jin, S.H.Hyon, H. Iwata, S. Tsutsumi Institute of frontier Medical Sciences Kyoto University Macromol. Rapid Commun. 2002, vol.23, 909-912 (2002) キーワード：ポリ乳酸、ポリ（L-ラクチド）、生分解性ポリマー、多官能性モノマー、トリアリルイソシアヌレート、ガンマ線、架橋、結晶性 Polylactide, Poly(L-lactide), Biodegradable polymer, Polyfunctionalized monomer, Triallylisocyanurate, Gamma-ray, Cross-linking, Crystallinity 分類コード：010101, 010107, 010108
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