チタン系材料の耐摩耗性・高温耐食性表面改質技術

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作成： 2003/09/30 日比野　豊データ番号　　　：010261 チタン系材料の耐摩耗性・高温耐食性表面改質技術目的　　　　　　：B⁺イオン注入によるチタン合金の高温耐摩耗性の向上放射線の種別　　：軽イオン,重イオン,電子放射線源　　　　：200keVイオン注入装置フルエンス（率）：10¹⁶～10¹⁷ ions/cm² 利用施設名　　　：㈱イオン工学センター　200keVイオン注入装置照射条件　　　　：真空中、室温及び高温応用分野　　　　：自動車用ターボチャージャーロータ、ピストン、リテーナ、エンジンバルブ、航空機用タービンブレード概要　　　　　　：　窒化チタン（TiN）は耐摩耗性皮膜として広く用いられているが、高温蒸気中等の過酷な環境下で使用するためには、さらなる耐摩耗性の向上が必要である。TiN膜にB⁺を注入した表面の耐摩耗性を評価した結果、TiN膜の体積減少量はB⁺の注入量とともに低下することがわかった。これはB⁺の注入によりTiNより硬いTiB_２と、潤滑性を有する六方晶系のＢＮが形成されることに起因していると考えられ、イオン注入法がチタン系材料の耐摩耗性向上に有用な技術であることが確認できた。詳細説明　　　　：　工業部材の耐熱性向上によるエネルギー利用の効率化と環境負荷の低減は重要な課題であり、耐環境性材料の開発とその信頼性向上が求められている。これらを実現するための手法として、基材に各種の合金元素を添加する方法が検討されてきたが、制約も多く、場合によっては機械的特性を低下させたり、重量増に繋がるといった問題があった。これに対してイオン注入を利用した手法は、基材表面の機能性の向上を目指すもので、注入元素と基材の組み合わせは全く自由であり、基材に対して固溶限度以上の濃度で元素を導入できるなどの特徴があり、従来の改質法では得られない改善効果が期待できる。　　窒化チタン（TiN）は耐摩耗性皮膜として広く用いられているが、高温蒸気中等の過酷な環境下で使用するためには、耐摩耗性のさらなる向上が必要である。本研究では、延性に富むSUS420J2（マルテンサイト系13Crステンレス鋼）上にイオンプレーティングでTiNをコーティングした後、さらにボロン（B）をイオン注入する方法で耐摩耗性の向上を検討した。　　TiN膜のコーティングには、㈱イオン工学センターのイオンプレーティング(N)装置を用いた。約３ミクロンのTiN膜を成膜後、B⁺をイオン注入した。注入エネルギーは75keV、注入量は1.0～8.0×10¹⁷ion/cm²とし、イオン注入層における組成および構造の変化はＸＰＳと低入射角度Ｘ線回折分析により調べた。摩擦および摩耗試験にはボールオンディスク試験機を用い、２Ｎの荷重を印加した直径５mmのアルミニウムを対向材料とした。　図1　 Influence of born ion implantaton on the mechanical properties of TiN coatings deposited by cathodic arc evaporation.（原論文2より引用）　B⁺を注入したTiN膜中の各元素の深さ方向の濃度プロファイルを調べた結果を図１に示す。この結果からBは約350nmの深さに渡ってガウス分布を取り、175nmで濃度のピークが見られた。このピーク濃度は注入量に比例して増加し、逆にＴｉおよびＮの強度は減少した。さらに、図１(b)のサンプルについてＸＰＳ測定およびＸ線回折を行った結果、B⁺を打ち込んだ領域にBNとTiB_２が形成されていることが分かった。　　図2　 Influence of born ion implantaton on the mechanical properties of TiN coatings deposited by cathodic arc evaporation.（原論文2より引用）　B⁺を注入したTiN膜の耐摩耗性を評価した結果、図２のように、15000サイクル後の摩擦係数はイオン注入量の増加とともに減少する傾向が見られた。　図3　 Influence of born ion implantaton on the mechanical properties of TiN coatings deposited by cathodic arc evaporation.（原論文2より引用）　　摩耗試験でのTiN膜の体積減少量を試料表面の断面形状の観察を行う方法で見積もり、体積減少量とB⁺注入量の関係を調べた結果を図３に示す。この図のように、TiN膜の体積減少量はイオン注入量が増加するほど低下していることが分かる。この結果はB注入によりTiNより硬いTiB₂と、潤滑性を有する六方晶系のＢＮが形成されることに起因していると考えられる。　　γ-TiAl 合金のNbおよびAlのイオン注入による高温での耐酸化性の改善に関する報告²⁾では、バルク材料の表層部を改質するだけでγ-TiAl合金の高温での耐食性が向上するとの結果が報告されており、イオン注入技術はチタン系材料の機能性を付与に有用な技術であり、耐摩耗性や高温での耐食性の向上が期待できる。コメント　　　　：　　これまで主として半導体分野で用いられてきたイオン注入技術が、他の材料分野でも用いられるようになってきた。本報告のように、チタン系材料の耐摩耗、耐酸化性といった分野においてもイオン注入によって、従来の合金添加という方法では限界があった表面層への固溶限度以上の濃度での元素導入が可能となり、これまでにない新しい機能性材料創製の可能性が出てきたといえる。本技術は、金属材料以外にも繊維、プラスチック、生体材料といった材料においても種々展開され、プラズマベースでの高速イオン注入方法などを適用することにより、量産可能なプロセスに発展することを期待する。原論文１ Data source 1： Influence of born ion implantaton on the mechanical properties of TiN coatings deposited by cathodic arc evaporation. Yao-Can Zhu, Y.Matsumoto, K. Fujita, N.Iwamoto,N.Nagasaka, and T.Kataoka. Ion Engineering Research Institute Corporation, Ebara Research CO.LTD The Minerals,Metals & Materials Society,2000 原論文２ Data source 2： Improvement of Oxidation-Resistance of γ-TiAl Alloy by High Temperature Nb and Al Ion Implantation. Xiangyang Li, Yao-Can Zhu, Kazuhisa.Fujita^*^１, Nobuya.Iwamoto, Yasuo.Matsunaga,Kiyokazu.Nakagawa^*² and Shigeji.Taniguchi^*³. Ion Engineering Research Institute Corporation^*¹, Ishikawajima-Harima Heavy Indastry Co.Ltd^*² ,Osaka University^*³ Materials Transactions,JIM, Vol.41,1157-1160 (2000) キーワード：イオン注入、複合注入、表面改質、窒化チタン、チタンアルミ合金、Al2O3、耐高温酸化性、自動車部品、飛行機エンジン部品 Ion implantation, Combined implantation, Surface modification, TiN, TiAl intermetallic compounds, Aluminum oxide, Oxidation resistance, Automobile component, Aircraft engine component, 分類コード：010304, 010305, 010103
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