　高分子材料のイオン照射による耐放射線性

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作成： 2003/09/30 瀬口忠男データ番号　　　： 010259 　高分子材料のイオン照射による耐放射線性目的　　　　　　：高分子のイオン照射効果放射線の種別　　：陽子,軽イオン,重イオン,ガンマ線放射線源　　　　：イオン加速器（サイクロトロン：10MeV - 350MeV）フルエンス（率）： 10⁸ - 10¹⁴/cm², 10⁷ - 10¹¹/(cm².s) 利用施設名　　　：日本原子力研究所高崎研究所　イオン加速器（サイクロトロン）照射条件　　　　：　高真空中、水冷、イオンビームをスキャンして均一に照射応用分野　　　　：　宇宙用材料、核融合炉用材料、高分子材料の高機能化概要　　　　　　：　ポリエチレンなどの各種高分子材料(シート状試料）に高エネルギーのイオンビームを照射し、引張試験により力学特性の変化を測定して耐放射線性を評価し、ガンマ線や電子線照射と比較した。その結果、吸収線量で比較するとイオンビーム照射による耐放射線性はイオンの種類やエネルギーに依存せず同一であること、また、ガンマ線（電子線）と比較しても相違がないことが実証された。　詳細説明　　　　：　宇宙環境で使用される高分子材料は宇宙線(プロトンや重イオン）や紫外線、原子状酸素の暴露により劣化するので、高エネルギーイオン照射による耐放射線性の評価が重要である。また、高分子材料の放射線改質の観点からは線質効果の知見が必要である。ガンマ線、中性子、軽イオン、重イオンと放射線の線質が変ると、高分子等の物質に照射したときに、放射線エネルギー損失の度合いLET: linear energy transfer)が極端に増大する。このLETの違いが高分子の放射線化学反応にどのように反映するか、がイオン照射効果の課題である。　　高分子のイオン照射効果を明確にするためには、線量計測、均一な照射、試料の温度制御などの照射技術の確立が重要であるが、この論文では、これらの課題を次の方法で克服した。①イオンビームを走査し、真空中で広い面積に均一に照射する、②イオンが高分子の試料を十分に貫通する条件を選択する、③試料冷却装置とビーム電流の調整で、試料の温度上昇を抑制する、④線量計を用いて照射条件の吸収線量を計測する。図1　イオン照射によるポリエチレンの破断伸びの変化. 日本原子力研究所発行「たゆまざる探求の軌跡」2000年　5-2 p.37、”LET効果？高分子材料の機械的強度では見つかりません」（著者：大野新一）の図5-3より転載. 　各種の高分子材料について、引張試験が可能な厚さのシート状試料を用いて、プロトンから鉄イオンまでの各種イオンビームを高分子の力学特性の変化が十分に観察できる線量を照射した。ポリエチレン(PE)について、H、 C、Neイオン及び電子線を照射したとき、破断時の伸びの変化を図１に示す。　　それぞれのLETは図の中に記載してあるように、イオン種により大きく異なるが、線量に対する伸びの変化は同一である。また、強度の変化についても同様であった。ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド（ナイロン）、ポリメチルメタクリレート（PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン（PTFE)など、多くの高分子について、引張試験による力学特性の変化は吸収線量にのみ依存し、放射線の線質の効果は顕れていない。しかし、ポリサルホン(PSF)とポリエーテルサルホン(PES)についてはイオン照射の方が電子線照射より、伸びと強度の低下が小さいという相違が観察されている。但し、この２つの高分子は電子線照射の場合にも、照射温度の効果が大きく顕れるので、イオン照射のときの照射温度の効果が寄与しているものと考えられる。　　放射線で分子鎖切断型のPMMAについて、イオン照射と電子線照射による分子量分布の解析において、切断の挙動は同一であり、低線量からランダム切断が起こっていると結論づけられている。　　以上の実験から、放射線化学反応の確率は同一であり、また、その空間的な分布に対するLETの効果は極めて小さいと言える。従って、放射線の高分子に対するエネルギー付与の密度は高くても、高分子がそのエネルギーを受け取り、化学反応を起こす段階では拡散して、比較的広い範囲に分散していると考えられる。LETの大きなイオンほど、その空間的な広がりが大きくなり、高分子の架橋や切断が起こる分子サイズで見ると、線量が同じであれば同程度になるものと推定される。コメント　　　　：　　LETの大きなイオン照射は、イオンの透過距離が小さいので、吸収線量の求め方、線量分布や線量率の調整など照射条件の適切な選定が必要不可欠である。当該技術では、ビーム走査による面方向の均一性の確保、試料厚さを十分に配慮したエネルギーの選択、吸収線量の評価がよくなされており、信頼性の高いデータが得られている。原論文１ Data source 1： High energy irradiation efgects on polymer material: 4. Heavier ion irradiation effects on mechanical properties of PE and PTFE　 H. Kudoh, T. Sasuga, T. Seguchi JAERI Takasaki Polymer 37, (1996) 3737-3739 原論文２ Data source 2： Effects of ion irradiation on the mechanical properties of several polymers T. Sasuga, S. Kawanishi, M. Nishii, T. Seguchi, I. Kohno Radiat.Phys.Chem., 37 (1991) 135-140 JAERI Takasaki and RIKEN 原論文３ Data source 3： High energy ion irradiation effects on polymer materials - Changes in mechanical properties of PE, PSF and PES T. Sasuga, H. Kudoh, T. Seguchi Polymer 40 (1999) 5095-5102 JAERI Takasaki 参考資料１ Reference 1：　Ion beam irradiation effect on polymers. LET dependence on the chemical reactions and change of mechanical properties T. Seguchi, H. Kudoh, M. Sugimoto, Y. Hama JAERI Takasaki and Waseda University Nuclear Instruments and Methods in Physis Research B 151 (1999) 154-160 参考資料２ Reference 2：有機材料の耐放射線性評価　「放射線高度利用研究成果集」編集委員会　日本原子力研究所、放射線高度利用研究の展開　１０年の成果(1991-2000)　第１部　27-30 　日本原子力研究所高崎研究所キーワード：　高分子材料、イオン照射、耐放射線性、力学特性、線質効果、分子量、架橋、切断　Polymer material, Ion irradiation, Radiation resistance, Mechanical property, LET, Molecular weight, Cross-linking, Chain scssion 分類コード： 010101
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