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作成: 2003/09/20 瀬口忠男

データ番号   :010258
ポリエチレンの放射線分解ガスを利用する線量計
目的      :放射線(ガンマ線)の線量計測
放射線の種別  :ガンマ線,エックス線,電子
放射線源    :ガンマ線、電子加速器(3MeV以上)
線量(率)   :1kGy-10MGy
利用施設名   :すべてのガンマ線照射施設、高エネルギー電子加速器
照射条件    :低温(-78℃)から200℃程度の高温まで
応用分野    :食品照射、滅菌、放射線照射試験

概要      :
 真空容器に密封した超高分子量ポリエチレンにガンマ線などの放射線を照射した時に生成する分解ガスは99.9%以上が水素ガスであり、その生成量は線量に依存して増大し、30kGy以下では0.466μmol/g/kGyである。この発生ガス量を圧力計で比較的容易に且つ精度よく計測することにより、1kGyから10MGy程度までの吸収線量の絶対値を1%以下の精度で測定できる。また、照射時の温度依存性が小さく0℃から50℃までは1%程度の変動である。

詳細説明    :
 ポリエチレンなどのポリオレフィンの放射線分解生成ガスは水素がス成分であり、メタン、エタンなどの炭化水素ガスと炭酸ガス(CO2)、一酸化炭素(CO)が数%生成すること、また、放射線の線量が増大すると生成ガス量が徐々に飽和してくることが経験的に知られていた。各種のポリオレフィンについて、これら分解ガスの生成機構を詳細に調べた結果、水素ガスは分子鎖の -C-H の切断に由来し、メタンやエタンは分子鎖の末端部で -C-C- の切断が起こること、また、COとCO2はポリマー中に溶存していた酸素による酸化生成物であることが以下の実験データから結論付けられた。表1に各種ポリオレフィンからの分解ガス量を示す。

表1 各種のポリオレフィンからの放射線分解ガス量
ポリオレフィン 水素
(H2)
メタン
(CH4)
エタン
(C2H6)
炭酸ガス
(CO2, CO)
その他
エチレンプロピレンゴム
(EPR)
98.83% 0.96% 0.07% 0.09% 0.05%
低密度ポリエチレン
(LDPE)
99.14 0.21 0.22 0.04 0.39
超高分子量ポリエチレン
(UHMPE)
99.92 0.01 0.02 0.06 0
 EPRは側鎖にメチル基が結合しているので、メタンの量が多く、LDPEは側鎖に炭素数が数個のオレフィンが結合しているので、メタン、エタンの他にプロパンやプロピレンなどが相対的に多くなっている。これに対して、UHMPEは分子量が百万以上であり、EPRやLDPEの分子量の10倍以上であり、また、分岐が極めて少ないためにメタンやエタンの生成量が極端に少なくなっている。COとCO2は放射線照射前にポリオレフィンからの脱気を十分に行うことにより低減できることと、線量を増加していくと相対的に少なくなる。
 
 次に、分解ガス量の線量依存性が検討された。放射線による水素ガスの生成によって、二重結合が徐々に増加してくるがこれが放射線に対する保護効果として作用して、分解ガス量が飽和するという機構で定量的な解析がなされた。このことは二重結合を持つ炭化水素からは水素の生成量が大幅に低下することからも裏付けられている。
 
 超高分子量ポリエチレンを用いると、99.9%以上が水素ガスであり、発生ガスの全量を圧力計で測定することにより、1%以内の精度で再現性よく放射線量が求められる。また、超高分子量ポリエチレンは温度履歴による結晶化度の変化が極めて少ないので、試料の作製条件による変動が小さいこと、これに関連して照射温度の依存性が小さいことが特長である。さらに、安定剤などが添加されておらず、パイプ状の製品が提供されていることは、実用化に好都合である。
 
 発生ガス量と線量の関係では、1kGyから30kGyまでは、線量に比例しており、その係数は       0.466μmol/g/kGy(G値に換算すると4.50)である。それ以上の線量では、G 値は低減するが線量の関数で規定できる。簡単な換算式として、[H2 (μmol)] /g-PE = k [Dose (kGy)]α で表すことができ、1 kGyから30 KGyでは、α=1、k=0.466、30kGyから1MGyまでは、α=0.9, k=0.655 となる。
 
 線量計としての具体的な利用方法は、外径6mmのパイプ状のUHMPEを長さ30mmに切断して、1個の試料(0.4-0.5g)とし、重量を正確に測定する。これを外径10mm(内径8mm)程度のガラス管に入れて、十分に脱気し長さ約50mmにして封じ切る。ガンマ線照射後のガラス管(UHMPE)は圧力計の接続された真空ライン(容量100cc以内)に入れて脱気した後、ガラス管をマイクロハンマーなどで破壊し、蓄積されたガス量を圧力計(0.01torrまで測定できるもの)で測定する。10kGy程度の照射で、0.5torr前後の圧力が測定できる。より低線量の測定精度を上げるためには、試料(UHMPE)の量を2倍に増やし、より高感度の圧力計を使用する。また、1MGyより高線量の測定では、試料の量を減少させるのが望ましい。

コメント    :
 
 線量計としての応用で、最大の課題はこの試料(0.5g程度)を真空容器に入れて脱気する手間である。ガラス管に密封するのが経済的であるがガラス細工などの技術を要することである。分解ガスの量はバラトロン圧力計などを利用することにより、高精度の線量測定が容易である。10kGy以下の線量測定で、精度を1%程度にするためには、試料に溶存する空気を十分に除去する必要があり、試料温度を上げて10-3torr以下になるまで脱気するのが望ましい。

原論文1 Data source 1:
 Mechanisms and kinetics of hydrogen yield from polymers by irradiation
T. Seguchi
Japan Atomic Energy Reserach Institute
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 185 (2001) 43-49

原論文2 Data source 2:
ポリエチレンの放射線分解ガス生成と線量計ヘの応用
 春山保幸、須永博美、荒川和夫、瀬口忠男
 日本原子力研究所高崎研究所
 JAERI-Tech 2002-084, 2002年11月

キーワード:ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、放射線、ガンマ線、分解ガス、水素ガス、線量計、圧力計、真空装置
Polyethylene, Ultra-high-molecular weight polyethylene, Radiation, Gamma-ray, Decomposition gas, Hydrogen gas,
Dosimeter, Pressure gauge, Vacuum equipment
分類コード:040302

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