イオン照射による電力半導体の特性改善

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作成： 2003/09/22 西原善明データ番号　　　：010257 イオン照射による電力半導体の特性改善目的　　　　　　：パワーデバイスの特性改善放射線の種別　　：陽子,軽イオン放射線源　　　　：サイクロトロンフルエンス（率）：1×10⁹～10¹² ions cm^-² 線量（率）　　　：利用施設名　　　：住重試験検査（株）サイクロトロン（ＣＹＰＲＩＳ－３７０）照射条件　　　　：真空中応用分野　　　　：ダイオード、ＩＧＢＴ、ＧＴＯサイリスタ概要　　　　　　：　電力半導体ウェハにイオン照射を行い、素子の応答特性の改善を行うものである。主な対象は、サイリスター、ダイオード、ＩＧＢＴなどである。この方法では、荷電粒子が物質内を通過する際のBraggの特性を用いて、高速イオンをＳｉ結晶体に打ち込み格子形成元素をはじき飛ばす。この時に生成された局所欠陥領域がキャリア（電子、正孔）の再結合を促すことになるが、これにより、特に回路閉時の応答時間を短縮させることができる。詳細説明　　　　：　パワートランジスターやダイオード等の電力半導体は、多数キャリアと小数キャリアの２種類のキャリアを有する。これらの電力半導体の応答特性を向上させるには、特に回路閉時の速度を短縮することが重要であるが、これを実現させるための手段としてこれらキャリアの再結合を促す(すなわちキャリアの平均寿命（ライフタイム）を短くする）方法がある。　　　この技術は、このキャリア再結合中心をイオン照射により誘起するものである。つまり、サイクロトロンを用いて電力半導体ウェーハにイオン照射を行い、素子の応答特性を改善することが出来る。主な対象として、サイリスタ、ダイオード、ＩＧＢＴなどを挙げることができる。この方法では、荷電粒子が物質内で停止するときに示すBraggの特性を用いて、高速イオンをＳｉ結晶体に打ち込み、格子形成元素をはじき飛ばす。この時に出来た局所欠陥領域がキャリア（電子、正孔）の再結合を促すことになる。　　　このようなキャリア寿命制御には、陽子やヘリウム－３、ヘリウム－４といった軽元素が用いられる。図１には、ヘリウムイオン（２４MeV)をAlとSiに入射したときに生成される欠陥の分布を示している。図1　（原論文1より引用）　このように、Braggの特性により、粒子がその飛程を終える直前に集中して結晶構造（この場合はSi結晶）の破壊が起こる。この欠陥層がキャリア再結合中心となり電流切断時の応答特性を改善できることになる。　　図２にはｐｎ接合ダイオードの特性および導通状態と阻止状態動作のモデルが示されている。導通状態では蓄積電荷量が多いほど電流が流れやすくなり、損失が少なくなる。ところが、印加電圧が逆方向に変化し、阻止状態にする際には、蓄積電荷量に相当する逆回復時間が現れ、高速の動作を妨げるように働く。このため、素子の特性を決めるためにはライフタイムを高精度に制御することが極めて重要となっている。シリコン結晶におけるのライフタイムは、高純度であればあるほど長く、数ミリ秒に達するものもある。一方ライフタイムキラー（格子欠陥）が多い場合には、ナノ秒程度まで短くすることが可能である。図３には、トラップの数とライフタイムの関係を示す。トラップ密度が10¹⁴個/cm³程度では、ライフタイムが100ナノ秒程度になっていることが分かる。図2　ダイオードの特性および結晶中のキャリアの動き（原論文3より引用）図3　シリコン中のトラップ密度とライフタイム（原論文3より引用）　イオン照射による半導体の特性制御技術は、これまで繰り返し改良が重ねられてきており、実用的にほぼ満足できる段階に到達している。したがって、産業界においても多く採用されており、イオン照射では自動化された照射装置が既に稼働している。同じく電力半導体のキャリア寿命制御に使用される電子線照射とは異なり、イオン照射の場合にはウェーハを個々に１枚ずつ照射していく必要がある。このため、照射装置、搬送装置、真空容器を一体化させたシステムが必要となる。この技術は、デバイスの応答特性を向上させるのみでなく、電力損失を低減させることも特徴として有している。このため、環境問題が重要視される今日、ますます普及していくものと考える。コメント　　　　：　　ここではイオン照射を紹介したが、電力半導体のキャリア寿命制御の方法としては、以前より重金属拡散の方法がある。また、電子線照射も広く使われている。全般的印象としては、目的に応じて使い分けされているようである。これらの中で、イオン照射の特徴は、限られた領域にのみ有効な欠陥を生成するということであり、改質効果が最も高いと考えられる。原論文１ Data source 1：サイクロトロンによる半導体ウェーハへの軽イオン照射日朝俊一、柿平将次、片岡昌次、西原善明、田沢修一住重試験検査（株）住友重機械技報　Vol,41 No.121 April 1993 原論文２ Data source 2：小型サイクロトロンの工業利用西原善明住重試験検査（株）化学工学　第６９巻　第９号　（１９９９）原論文３ Data source 3：放射線・粒子線照射による半導体素子の特性制御望月康弘㈱日立製作所放射線と産業　第６４号、p.14-18（１９９４）キーワード：サイクロトロン、イオン照射、キャリア寿命制御、電力半導体、陽子、ヘリウムー３、格子欠陥 cyclotron, ion irradiation, carrier life-time control, power device, proton, helium-3, lattice defect 分類コード：040101,040102,040106
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