放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 小林 雅貴 2003/03/25
改定 放射線利用技術データベース工業分野専門部会 2004/03/02

データ番号   :010249
滅菌用電子線照射施設
目的      :電子線による医療器具の滅菌施設
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(1-10 MeV)
フルエンス(率):0.1-2 mA
線量(率)   :10-25 kGy
利用施設名   :高エネルギー電子加速器
照射条件    :室温、空気中
応用分野    :滅菌、食品照射、高分子の改質、その他

概要      :
 医療器具の滅菌などを対象とした高エネルギー電子加速器(5 MeV以上)は、日本国内で2003年までに9台設置され営業運転中である。1990年代後半からは滅菌専用の高エネルギー加速器(10MeVのリニアック型)が普及してきた。

詳細説明    :
 医療器具の放射線滅菌はガンマ線照射で行われていたが、1990年代に入り電子線照射が試みられ、その後電子線滅菌が着実に増大している。電子線照射による滅菌は処理速度が大きく、照射施設の管理が容易であるという利点があるが、ガンマ線に比べて、線量分布の均一性に課題があった。しかし、電子の加速エネルギーが高くなると、物質への透過深度が大きくなり、且つ、線量分布の均一性も向上するので、5MeV以上の高エネルギー電子線では、実用的な滅菌が可能となる。電子加速器の性能向上とともに建設費用が低減し、1990年代後半からは、費用の観点からもガンマ線照射設備に比べて遜色なくなり、放射線滅菌は電子加速器が主流になってきた。2003年までに日本国内に設置されている5MeV以上の電子線照射設備を表1に示す。


表1  日本の5 MeV以上の電子線照射設備一覧
設置者 設置年 設置地区 加速器種類 電圧と出力 業務形態
ラジエ工業 1991 群馬県高崎市 静電型 5MeV ,150kW 受託照射
日本電子照射サービス 1989
1998
茨城県つくば市
大阪府泉大津市
静電型
静電型
5MeV , 200kW
5MeV , 200kW
受託照射
受託照射
ホギメデイカル 1992
1996
茨城県江戸崎町
茨城県つくば市
LINAC
LINAC
10MeV , 20kW
10MeV , 20kW×2
自社照射
自社照射
伸晃化学 1995 石川県松任市 静電型 5MeV , 150kw 自社照射
原子燃料工業 1999 大阪府熊取町 ロードトロン 10MeV , 200kW 受託照射
日本シャーウッド 2002 静岡県袋井市 LINAC 10MeV , 12kW 自社照射
三菱重工 2003 広島市 LINAC 10MeV , 6kW 受託照射
 
 高エネルギー電子線でも物質への透過深度はガンマ線に比べて小さいが、10MeVの電子ビームは水中で3cmまではほぼ均一な線量が与えられ、照射物を両面から照射する場合には約8cmの厚さまで適切な照射が可能である。医療器具では、平均の嵩密度が0.2g/cm3以下であり、厚さが10cmのダンボールに充填した場合には、片面からの照射でも適切な滅菌が可能となる。
 
 加速器の種類と特性では、静電加速タイプは電流値が大きく高出力が得られるが、電圧を5MV以上にするためには技術的な課題がある。これに対して、線型加速器(LINAC)は高周波で加速するので10MeV以上の高エネルギー電子を容易に発生できる。しかし、電流を大きくするのは容易でない。一方、ロードトロンという方式の加速器は高エネルギー、高電流の電子ビームが得られる。静電加速タイプからの電子ビームは連続した電流であるが、LINACとロードトロン方式の加速器からの電子ビームはパルス電流であり、照射電子パルス幅は数マイクロ秒(μs)から十数マイクロ秒で、そのパルス繰り返し数は1秒間に数百回である。従って、パルスの尖頭(ピーク)電流は平均電流の数百倍から千倍に達することになる。
 
 医療器具滅菌専用の加速器では、通常は大きな電流を必要としないので、LINAC方式あるいはロードトロン方式の10MeV加速器が採用されている。後者の加速器(10MeV, 200kW)と照射方法の一例を図1に示すが、加速器本体の大きさは5MeVの静電タイプ加速器に比べると数分の1のサイズである。 


図1  電子加速器(10MeV ロードトロン)と滅菌方法の概要図(原子燃料工業(株)のパンフレット)

 
 なお、加速電圧が10数MeVを超えると、電子線照射で放射化が起こる物質があるため、
現在の規制から、10MeVを超える照射利用は行われていない。

コメント    :
 
 5 MeV以上の高エネルギー電子加速器は、医療器具などの滅菌が均一にでき、処理速度も大きいこと、また、放射線源としての保守管理が容易なので、今後はガンマ線滅菌に取って代わるものと予測される。
 

原論文1 Data source 1:
 
原子燃料工業株式会社
原子燃料工業株式会社パンフレット 、

原論文2 Data source 2:
\\801)参考資料1(詳細説明に内容が加わる物のみ)
 電子線滅菌
 伸晃化学(株)
 伸晃化学(株)ホームページ http://www.shinko-ccl.co.jp/電子線滅菌

参考資料1 Reference 1:
 電子線滅菌
 伸晃化学(株)
 伸晃化学(株)ホームページ http://www.shinko-ccl.co.jp/電子線滅菌

参考資料2 Reference 2:
 電子線照射装置
 NHVコーポレーション
 NHVコーポレーションホームページ http://www.nhv.jp

キーワード:電子加速器、電子線、放射線、照射、滅菌、医療器具、
Electron accelerator, Electron beam, Radiation, Irradiation, Sterilization, Medical equipment,
分類コード:040102

放射線利用技術データベースのメインページへ