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作成: 小林 雅貴 2003/02/01
改定 放射線利用技術データベース工業分野専門部会 2004/03/02

データ番号   :010248
電子線照射による焼却炉排煙中ダイオキシン類分解のパイロット試験
目的      :都市ゴミ燃焼排煙中のダイオキシン類を電子線照射により分解処理する。
放射線の種別  :電子
放射線源    :300keV,40mA
線量(率)   :2-30kGy, 0.35kGy/mA
利用施設名   :電子加速器
照射条件    :焼却炉排煙(200℃)
応用分野    :各種焼却炉の排煙中のダイオキシン類の分解・除去

概要      :
 都市ごみ焼却場に臨時に設置した電子加速器と試験プラントにより、排煙の電子線照射を行い、ダイオキシン類の分解・除去の試験を行った。14kGyの照射により、90%以上ダイオキシンを分解することができた。本技術では、ダイオキシンを分解処理することができるので、バグフィルターの処分等の後処理を必要としない。 

詳細説明    :
 都市ごみ焼却炉からのダイオキシン類(ダイオキシンおよび類似の化学構造をもつ塩素化ベンゾフラン類)の発生がこの10年来大きな社会問題となっている。現在、わが国のダイオキシン類の排出基準値は、新設炉で、0.1ng-TEQ/m3Nであり、既設炉では1ng-TEQ/m3Nでである(TEQ:ダイオキシン類には、塩素原子のつく位置の違いによる異性体数が100以上あり、毒性が異なっている。そのため、最も毒性の高い異性体の毒性に換算した等価毒性換算値TEQに各異性体濃度を乗じて合計した値をダイオキシン濃度として用いる)。
 
 この基準値をクリアするため、現在いろいろな技術が開発され、大都市のごみ燃焼用の大型炉に適用されている。現在最も効果が高いとされている技術が、バグフィルターを用いる方法である。この技術は、大きな布製のフィルター(バグフィルター)で、排煙中のダイオキシンを吸着する方法である。しかし、この方法では、吸着に用いたバグフィルターの処分等の課題がある。
 
 排煙に電子線を照射すると、排煙中の水分や酸素の分解により活性種(主にOHラジカル)が生じるので、この活性種との反応により、ダイオキシン類の分子を効率よく分解できるというのが特長である。
 
 日本原子力研究所は、この特長を活用して、近隣のごみ焼却場に電子加速器(300keV,40mA)と試験プラントを設置して、試験を行った。図1に、その試験装置のフロー図を示す。この試験では、電気集塵機(EP)から出た排煙の一部1000m3N/hを200℃に保温して採取し、図2に示す照射槽に導き13μm厚のTi薄膜の照射窓を通して電子線を照射した。照射された排煙は、煙道に戻され、煙突から排気された。
  


図1 Schematic flowchart of electron-beam facility for the treatment of PCDD/Fs at the Takahama Clean Center. Reprinted with permission from Environ. Sci. Technol., 37, 3164-3170 (2003), K. Hirota, T. Hakoda, M. Taguchi, M. Takigami, H. Kim, and T. Kojima, FIGURE 1 (Data Source 1, p.3165), Copyright (2003) American Chemical Society.(原論文1より引用)



図2 Schematic view of electron-beam irradiation to municipal solid waste incinerator (MSWI).Reprinted with permission from Environ. Sci. Technol., 37, 3164-3170 (2003), K. Hirota, T. Hakoda, M. Taguchi, M. Takigami, H. Kim, and T. Kojima, FIGURE 2 (Data Source 1, p.3165), Copyright (2003) American Chemical Society.(原論文1より引用)

  
 図3に本試験で得られた電子線照射によるダイオキシン異性体分解の割合を示す。12kGyの線量で90%の分解率が得られた。塩素化ベンゾフラン類については、同様な分解率が得られたが、90%以上の分解率を達するには14kGyを要した。これらの結果から、塩素化ベンゾフラン類を含むダイオキシン類を90%以上分解するためには、14kGyの線量が必要である。
 


図3 Decomposition efficiency of PCDD in MSWI flue gases with electron beams. The initial concentration of PCDD is in the range of 0.220.88 ng-TEQ/m3N.Reprinted with permission from Environ. Sci. Technol., 37, 3164-3170 (2003), K. Hirota, T. Hakoda, M. Taguchi, M. Takigami, H. Kim, and T. Kojima, FIGURE 4 (Data Source 1, p.3166), Copyright (2003) American Chemical Society.(原論文1より引用)

 
 これらの結果をもとに、40,000m3N/h(ごみ処理量150t/d)の排煙を300kV,500mAの電子加速器2台で処理し、ダイオキシン類を90%以上分解するプロセスのコストが試算された。その結果によれば、電子線法のコストは、現在最もダイオキシン除去効果が高いとされているバグフィルター法に比べ、約7%低い。

コメント    :
 
 大都市のごみ焼却炉等の大型焼却炉については、最新の燃焼技術あるいはバグフィルター技術により、ダイオキシンの発生を現在の排出基準以下に抑制できるようになってきている。しかしながら、中小の焼却炉については、技術およびコスト面から対策が不十分である。本電子線照射法は、既存の焼却炉にも設置でき、しかもその工程は、電子線を照射するだけのシンプルなプロセスである。さらに、本技術では、ダイオキシンを分解処理することができるので、バグフィルターの処分等の後処理を必要としない点有利である。これらの点から、本技術は各種の焼却炉の排煙中ダイオキシンの分解・除去用としての利用が期待される。

原論文1 Data source 1:
Application of electron beam for the reduction of PCDD/F emission from municipal solid waste incinerators
K. Hirota, T. Hakoda, M. Taguchi, M. Takigami, H. Kim, and T. Kojima
Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment
Environ. Sci. Technol., 37, 3164-3170 (2003)

キーワード:ダイオキシン、フラン、TEQ、、焼却炉、排煙、パイロット試験、コスト試算、
dioxin, huran, TEQ, incinerator, flue gas, pilot test, cost estimation
分類コード:010501

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