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作成: 森 雅和 2003/02/05
改定 放射線利用技術データベース専門部会 2004/03/02

データ番号   :010246
高分子の放射線架橋における照射時の温度効果
目的      :高分子の放射線架橋に及ぼす温度の効果
放射線の種別  :ガンマ線,エックス線,電子
放射線源    :ガンマ線、電子加速器
線量(率)   :10 kGy - 1 MGy
利用施設名   :ガンマ線照射施設、電子加速器
照射条件    :室温から300℃程度の高温まで
応用分野    :高分子の放射線改質

概要      :
 高分子の放射線架橋の確率は照射時の高分子の温度に依存しており、ポリエチレンの架橋では、照射温度の上昇につれて架橋確率が上がり、室温に比べて100℃で50%、200℃で3倍、300℃で10倍に増大する。一方、ポリスチレンでは、100℃前後のガラス転移温度を超えると切断の確率が大きくなりゲル化が起こらなくなる。

詳細説明    :
 高分子の放射線架橋反応は室温あるいは室温以下の低温でも起こり、熱化学反応のような温度依存性は観測されないこと、また、反応活性種の生成に関わるイオン化エネルギーは温度に依存しないという考えから、架橋の確率に対する温度効果は無いか、有っても極めて小さいものとみなされてきた。ポリエチレンのような結晶性高分子では、融点以上の温度で照射すると、架橋の効率が上がることはよく観察されていたが、これは架橋が主として非晶域で起こるためであり、融点以上では非晶域が増えるためであると解釈されていた。

 高密度及び低密度ポリエチレンについて、室温から融点を超える高温度域(360℃)での放射線架橋を検討した。架橋の度合いをゲル化線量とG値で評価した結果を表1に示す。なお、この試験は放射線照射中の熱酸化を防止するために、60Coγ線を真空中で照射する条件で行われた。

 

表1 ポリエチレン(PE)の放射線架橋における照射温度の効果。ゲル化線量(Dg(kGy):ゲルの生成が観察される最低線量)及び架橋の確率(G値:吸収エネルギー100eVに対する架橋の数)を示す。作成者自作
照射温度
    ℃
低密度PE 高密度PE
Dg (kGy) G値 Dg (kGy) G値
30 42   1.4 16 2.8
100 27   2.3 13 3.5
150 16  3  9 4.6
220   8.5  7   6.5 6.7
300   5.6 16 - -
 
 高密度、低密度ポリエチレンともに、照射温度が上がるにつれてゲル化線量は小さくなり、架橋のG値は増大する。120〜130℃以上では溶融状態であるが、300℃までは架橋の確率が照射温度の上昇に連れて大きくなっている。即ち、低密度PEを300℃の高温で照射すると、架橋反応の確率は室温に比べて約10倍になり、室温照射と同等の架橋を行うためには、10分の1の線量で間に合うことになる。300℃を超えると、熱分解反応が始まり、350℃を超えると線量を増してもゲルの生成が観察されなくなる。一方、照射温度の上昇とともに水素ガスの発生量が増大するが、300℃での照射では、室温照射の2倍程度である。

 架橋の確率が照射温度の上昇とともに増大する反応機構の説明として、二重結合が有効に寄与している可能性を言及しているが、水素ガスの生成量などとの量的な観点からは整合性はとれない。

 ポリスチレンの放射線架橋についての照射温度効果は表2に示すが、ポリエチレンと逆の挙動となり、温度の上昇につれて架橋の確率は低下し、100℃前後のガラス転移温度を超えると切断の確率が大きくなり、ゲルは生成されなくなる。この反応機構に関しても説明はなされていない。機構解明には更なるデータの蓄積が必要である。
 

表2 ポリスチレンの放射線架橋に対する照射温度の効果。作成者自作
照射温度(℃) 架橋のG値 切断のG値
 40 0.041  0.016
 80 0.034  0.032
100 0.018 0.06
150 0 0.09
 

コメント    :
 
 ポリエチレンの架橋の確率は高温照射で大きくなることを活用すると、電子線照射の場合に線量率を高めて電子ビーム加熱を利用することにより、必要線量を低減できる。しかし、試料温度を上げ過ぎると、形状の保持に課題が生ずるので、その兼ね合いを考慮する必要がある。

原論文1 Data source 1:
 Temperature dependence of radiation effects in polyethylene: Cross-linking and gas evolution
Guozhong Wu, Yosuke Katsumura, Hisaaki Kudoh, Yosuke Morita, Tadao Seguchi
The University of Tokyo, and JAERI Takasaki
J.Polym.Sci.,Part A, Polym.Chem., Vol.37,1541 (1999)

原論文2 Data source 2:
Temperature effects on radiation induced phenomena in polystyrene having atactic and syndiotactic structures
Kazunobu Takashika, Akihiro Oshima, Masahiko Kuramoto, Tadao Seguchi, Yoneho Tabata
Tokai University, JAERI Takasaki, Idemitsu Kosan Co. Ltd
Radiat.Phys.Chem., Vol.55, 399, (1999)

キーワード:放射線、架橋、照射温度、高分子、ポリエチレン、ゲル分率、水素ガス
Radiation, Crosslink, Irradiation temperature, Polymer, Polyethylene, Gel fraction, Hydrogen gas
分類コード:040302

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