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作成: 2002/10/04 平田 嘉裕

データ番号   :010243
放射光を用いたセラミックス微細加工技術で製造した超音波素子
目的      :超音波診断の分解能向上
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :シンクロトロン放射光
線量(率)   :エネルギーとして、4KJ/cm3
利用施設名   :住友電気工業(株)NIJI-3号
照射条件    :ヘリウム中、室温
応用分野    :医療超音波診断、工業用超音波検査

概要      :
 超音波診断の分解能向上には、トランスデューサ材料を従来の圧電セラミックスから、圧電セラミックスの微細柱が樹脂シート中に多数林立した複合圧電材料とする事が有効である。しかし、従来の機械加工による微細加工限界は100μmであり微細化が不十分であった。
 そこで、シンクロトロン放射光を用いたリソグラフィを応用して、微細なセラミックス柱を形成する方法を開発し、所望の複合材料を得ることができた。

詳細説明    :
(1) 開発した超音波素子
 従来、超音波診断のトランスデューサ材料にはPZTを中心とした圧電セラミックスが使用されてきた。この材料は硬く機械的共振のQ値が高いため、一度共振すると振動が収まるまでの時間が長くなる。一方複合材料とすると樹脂がダンパーの役割を果たすため、Q値が低くなりパルスが短くなる。また、従来PZTは厚さ振動を励起しても、各種高次モードも共振してしまい必ずしも必要な振動へのエネルギー変換効率が高くない。一方、複合材料ではPZTは高いアスペクト比(縦/横比)を有しているため、他の共振モードを立てること無く必要な方向に振動するため、エネルギー変換効率が高い。


図1 複合圧電材料の概略(原論文1より引用)


(2) 開発したプロセス
 セラミックスは脆性材料であるため、従来の機械加工による微細加工限界は100μm程度であった。一方25μm角、高さ250μmのPZTが求められていた。
 そこで、シンクロトロン放射光を用いたリソグラフィと電鋳で金型を製造し、その金型を用いて樹脂モールドを行って樹脂型を量産し、その樹脂型にセラミックススラリーを注入する方法で微細なセラミックス柱を形成する方法を開発。得られた微細セラミックス柱列に樹脂を含浸して複合圧電材料とし超音波トランスデューサを製造した。


図2 開発した製造プロセス(原論文1より引用)


 ここでシンクロトロン放射光を用いたのは、放射光によるリソグラフィは、微細で高いアスペクト比の構造体を形成することができ、かつ精度が良いからである。これにより30μm角、深さ300μmのレジストパターン形成が可能となった。
 また、セラミックススラリーを樹脂型に注入した後に行う樹脂型除去では、通常のロストワックス法で行われるように熱分解でなく、プラズマ除去を行った。これは、熱分解では、溶けた樹脂が流動し微細なセラミックス柱列(焼成前のグリーン体)を倒壊させてしまうためである。また、このプラズマ条件を変更することで、比誘電率を制御することが可能なことを見いだしている。
 これらの開発によって、25μm角、高さ250μmのPZT柱列を形成することができた。


図3 製造工程におけるSEM写真(原論文1より引用)


(3) 特性と成果の活用
 複合化することで、機械的共振のQ値は27→7へと大幅に減じていた。10MHzの素子を
製作し評価したところ、パルス長は従来のPZTセラミックスの約1/3であり、感度も約3
倍と向上していることが確認された。この素子は現在オリンパス光学工業(株)の製品
に搭載されている。

コメント    :
 開発された複合材料による超音波素子は、超音波診断の分解能を向上させ、高度医療社会に大きく寄与するものと思われる。
 また、開発された技術は、セラミックスの微細加工として医療関係のセラミックス部品など広範な応用が期待される。さらに、樹脂の微細部品量産などへの展開も期待される。

原論文1 Data source 1:
超微細セラミックス柱と樹脂を複合化した超音波振動子の開発
平田嘉裕、沼澤稔之、仲前一男、高田博史
住友電気工業(株)播磨研究所
ファインセラミックスレポート, 19、No.9, 228-231 (2001)

原論文2 Data source 2:
Piezocomposite of fine PZT rods realized with synchrotron radiation lithography
Yoshihiro Hirata, Hiroyuki Nakaishi, Toshiyuki Numazawa, Hiroshi Takada
Harima Research Laboratories, Sumitomo Electric Industries, Ltd.
Proc. of 1997 IEEE Ultrasonics Symposium, pp.877-881 (1997)

原論文3 Data source 3:
A new control method for the relative dielectric constant of
1-3 piezoelectric composites realized with the LIGA process
Toshiyuki Numazawa, Yoshihiro Hirata, Hiroshi Takada
Harima Research Laboratories, Sumitomo Electric Industries, Ltd.
Microsystem Technologies, 6, 130-134 (2000)

キーワード:放射光、セラミックス、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、微細加工、LIGA、複合圧電材料、超音波素子、超音波診断、
高分解能、広帯域、比誘電率
synchrotron radiation, ceramics, PZT(lead zirconate titanate), micro fabrication, LIGA, piezo-electric composite,
ultrasonic transducer, ultrasonic diagnosis, high resolution, broad band width,
dielectric constant
分類コード:010103,010202

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