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作成: 2002/8/1 早味 宏

データ番号   :010237
ポリプロピレンの照射架橋
目的      :ポリプロピレンの照射架橋
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子線加速器(1MeV)
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :電線、ケーブル、電気絶縁材料、耐熱性フィルム

概要      :
 ポリプロピレン(PP)に多官能性モノマーのTMPTMAを3phr(phr: per hundred resinの略、PPを100とした場合の添加剤の重量比率)添加した材料に電子線照射を行い、架橋性を評価した。ランダムPPは240kGy照射することにより架橋してゲル分率は約60%に達したが、耐熱変形性は架橋PEより著しく劣ることがわかった。TMPTMAの添加量を6、20phrと増量した結果、20phr添加した試料では架橋HDPEを上回る耐熱変形性が得られ、引張強さ33MPa、伸び500%と機械的物性にも優れることがわかった。

詳細説明    :
 ポリエチレン(PE)に放射線を照射すると、架橋反応が主として進行するのに対し、ポリプロピレン(PP)の場合は架橋反応と分子切断反応がほぼ同じ確率で進行するため、機械的物性が低下する。しかし、PPの機械的物性や耐熱性はポリエチレンより本質的に優れており、放射線照射によりPPを架橋できれば、用途が拡大すると考えられる。PPには、ホモ、ブロック、ランダムの3種類があり、本報ではブロックPP、ランダムPPの放射線架橋を検討した。
 
 PPを放射線の照射で架橋するには多官能性モノマーの添加が有効であることが知られており、PPに多官能性モノマーとしてTMPTMA(Trimethyrolpropanetrimethacrylate)を3phr(phr: per hundred resinの略、PPを100とした場合の添加剤の重量比率)配合した材料のプレスシートを作製し、加速電圧1MVの電子線を空気中で照射して、ゲル分率、伸びを測定した。その結果、ブロックPP、ランダムPPは何れも120kGyの照射で架橋してゲル分率は40〜60%に達し、ランダムPPは240kGyの照射した試料でも500%以上の伸びを示した。これに対し、ブロックPPは120kGyで伸びが大幅に低下し、放射線架橋にはランダムPPが適していることがわかった。
 
 次に、ランダムPPの放射線架橋性に対するモルフォロジーの影響を調べた。180℃のオープンロールミキサーを用いて、ランダムPPに3phrのTMPTMAを混合した材料を180℃で10分間熱プレスし、加圧状態のままプレス装置の熱板を水冷して5分後に試料を取り出す方法により得た試料をリファレンス試料とした。一方、同材料を180℃で10分間熱プレスした後、試料をプレス装置から取り出して、すぐさま氷水に浸漬する方法により得た試料をクエンチ試料とした。さらに、リファレンス試料を150℃で1時間熱処理した試料をアニール試料とした。各試料のモルフォロジーをDSCで調べたところ、アニール試料は融点がリファレンス試料よりも10℃高く(mp:149.3→160.7℃)、融解熱量も増加する(△H:-40.9→-72.5J/g)ことがわかった。これに対し、クエンチ試料の融点と融解熱量(mp:150.7℃、△H:-60.0J/g)はリファレンス試料と比べて大きな差がないことがわかった。
 各試料の放射線架橋性を比較した結果、図1のように、クエンチ試料は低線量でもゲルを効率的に生成するのに対し、アニール試料はゲル生成効率が低下し、伸びも大幅に低下することがわかった。


図1 Gel fractions of morphology converted polypropylene including a multi-functional monomer as a function of dose(Reprodced from Fig. 4 in Data Source 1, Copyright (2003), with permission from Elsevier Ltd.).(原論文1より引用)


 次に、架橋PPの耐熱変形性を調べた。耐熱変形性の評価は、図2のように、180℃の雰囲気下で1mm厚の試料に500gの荷重を所定時間印加し、印加後の厚みの初期値に対する保持率を調べる方法で行った。架橋PPの保持率はゲル分率が50%の試料でも架橋ポリエチレンに比べて大幅に劣っていることがわかった。


図2 Deformation retention of irradiated polyethylene and polypropylene as a function of dose(Reprodced from Fig. 6 in Data Source 1, Copyright (2003), with permission from Elsevier Ltd.).(原論文1より引用)


 一方、図3はランダムPPに添加するTMPTMA量を6,20phrとした材料に240kGy照射した試料の耐熱変形性をTMA(Thermal Mechanical Analysis)を用いて測定した結果である。TMPTMAを20phr添加した試料では、架橋HDPEを上回る耐熱変形性が得られることがわかった。この材料は引張強さ33MPa、伸び500%程度であり、機械的物性も優れていることがわかった。


図3 Temperature dependence of deformation thickness for several irradiated polymers measured by thermal mechanical analysis (TMA)(Reprodced from Fig. 13 in Data Source 1, Copyright (2003), with permission from Elsevier Ltd.).(原論文1より引用)



コメント    :
 ポリプロピレンを架橋する手段としては電子線架橋のほかにシラン架橋(水架橋)が挙げられるが、シラン架橋は架橋処理のスピードが電子線架橋プロセスと比べて極めて遅いのが欠点である。ポリプロピレンの放射線架橋が実現すれば、架橋ポリエチレンよりも耐熱性に優れた電気絶縁材料が得られ、さらに難燃性を付与できれば、電線・ケーブルの分野での応用が拡がると考えられる。

原論文1 Data source 1:
Modification of radiation cross-linked polypropylene
Satoshi Shukushima, Hiroshi Hayami, Tomohito Ito*, Sei-ichi Nishimoto*
Sumitomo Electric Industries
*Kyoto University
Radiation Physics Chemistry 60, 489-493 (2001)

キーワード:ポリマー、ポリプロピレン、多官能性モノマー、放射線架橋、電子線、耐熱性、電線、ケーブル
polymer, polypropylene, polyfunctional monomer, radiation crosslinking, electron beam, heat resistance, wire, cable
分類コード:010101, 010105, 010107

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