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作成: 2002/8/1 早味 宏

データ番号   :010234
高圧下の溶融結晶化によってγ結晶化されたアイソタクチックポリプロピレンの電子線架橋
目的      :ポリプロピレンの電子線架橋
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器
照射条件    :窒素中、室温
応用分野    :耐熱性フィルム、電気絶縁材料、電線、ケーブル

概要      :
 2.3wt%のエチレンユニットを含む特定のランダムポリプロピレンは電子線照射により架橋することが見出されており、この材料のフィルムを加圧下で溶融結晶化することによりγ晶化し、電子線照射による架橋性を調べた。元のα晶フィルムでは架橋と分子切断が拮抗するのに対して、γ晶化したフィルムでは架橋の確率はα晶フィルムと同程度であるが、分子切断の確率が著しく抑制され、結果として架橋の割合が増大することがわかった。

詳細説明    :
 ポリエチレンに電子線を照射した場合、架橋反応と分子切断反応が同時に進行するのに対して、ポリプロピレンでは一般に切断反応が優先する。しかし、近年、イソタクチックポリブロピレン構造に微量のエチレンセグメントを導入したランダムコポリマーが電子線照射によりゲルを生成することが見出された。このポリマーはエチレンを2.3%含有するランダムPPコポリマーで、図1のように、一定量の架橋反応確率におけるゲル生成量は分子量が大きいほど増加することが確認された。


図1 Variation of gel fraction as a function of probability of crosslinking (ρ). The numerical values in the parentheses represent the number-average molecular weights.(原論文のFig.4)(原論文1より引用)

 上記のランダムPPコポリマー(Mw:5.43×105, Mw/Mn=4.00, Tm:150.4℃、Tc:106.2℃、結晶化度33.0%)のフィルムを70〜150℃で5時間アニール処理した試料に窒素雰囲気下で電子線を照射し、架橋反応のG値(G(X))、分子切断のG値(G(S))、架橋反応と分子切断反応の比率G(X)/G(S)を求めた。各種の温度でアニール処理したフィルムに電子線照射を行い、Charlesby-Pinnerプロットにより、G(X)、G(S)を求めた。試料の結晶化度、G(X)、G(S)をアニール温度に対してプロットしたものが図2である。電子線照射によって発生するラジカル濃度は結晶化度に大きく依存し、また、G(X)/G(S)がアニール温度の上昇とともに単調に減少することから、分子切断反応は架橋反応よりも結晶化度の影響を受けやすいことがわかった。


図2 Effect of annealing at various temperatures (Ta) on (a) the crystallinity and (b) the G-values of EB-induced cross-linking and main-chain scission.(原論文のFig.6)(原論文1より引用)

 次に、上記フィルムを高圧下で溶融結晶化することによりγ晶化したフィルムを作製し、窒素雰囲気下で電子線を照射し、架橋反応のG値(G(X))、分子切断のG値(G(S))、架橋反応と分子切断反応の比率G(X)/G(S)を求めた。フィルムを200MPaの加圧下で溶融後、160℃(P1)、180℃(P2)、200℃(P3)、220℃(P4)で3時間保持し、徐冷(一晩かけて室温まで冷却)することにより、γ晶のみを含むフィルムを得た。アニール前のα晶フィルムのゲル生成線量は300kGyであったのに対し、γ晶を含むフィルムでは何れも240kGyの線量で30%以上のゲルを生成することがわかった。
 
 Charlesby-Pinnerプロットを行い、G(X)、G(S)、G(X)/G(S)を求めた結果、加圧溶融後の保持温度が低いほどG(X)、G(S)の値はともに低下するが、G(X)/G(S)の値は増加し、相対的には架橋反応の確率が増加することがわかった。さらに、溶融結晶化によりγ晶フィルムを作製する際の冷却条件と架橋反応性の関係について調べた。160℃で3時間保持後、急冷したフィルム(P5)はG(X)、G(S)ともに低下するものの、G(S)の低下が著しく、その結果、G(X)/G(S)の値は2.30と徐冷したフィルム(P1)よりも大きくなることがわかった。
 
 以上の結果から、PPの結晶構造は、架橋反応および切断反応の競争過程に大きな影響を及ぼすことがわかった。

表1 G-values of EB-induced crosslinking (G(X)) and main-chain scission (G(S)).(原論文のTable 2)
 Film    Cγ/%   G(X)    G(S)    G(X)/G(S) 
  A     0     0.29    0.29     0.98
  P1    100     0.24    0.16     1.54
  P2    100     0.28    0.23     1.24
  P3    100     0.32    0.37     0.86
  P4    100     0.32    0.56     0.57
  P5    100     0.20    0.086    2.30


コメント    :
放射線照射時のポリプロピレンの分子切断を抑制できれば、機械的強度や耐熱性に優れる新規材料の開発が期待できるとともに、医療器具(滅菌)分野での利用価値も極めて大きいと考えられる。

原論文1 Data source 1:
放射線照射による高分子物質のモルホジェネシス
西本清一、八田博司、山田和香、幕内恵三*、須郷高信*、吉井文男*
京大、*原研高崎
原研施設利用共同研究成果報告書, No.28, pp.51-55 (1999)

原論文2 Data source 2:
Electron beam-Induced Crosslinking of γ-Isotactic Polypropylene Prepared by Melt Crystallization under High Pressure
T. Ito, W. Yamada, L. Zhou, F. Amita, O. Kajimoto, S. Nishimoto, S. Shukushima*, A. Nishimura*
Kyoto University, *Sumitomo Electric Industries, Ltd
JAERI-Conf 2000-001, pp.239-242 (2000)

キーワード:ポリマー、アイソタクチックポリプロピレン、電子線、架橋、モルフォロジー、α晶、γ晶、溶融結晶化
polymer, isotactic polypropylene, electron beam, cross-linking, morphology, α-crystalline, γ-crystalline, melt crystallization
分類コード:010101, 010107, 010105

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