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作成: 2002/10/1 玉田 正男

データ番号   :010231
放射線グラフト重合法で作製したアミドキシム捕集材によるホタテ残渣からのカドミウムの回収
目的      :繊維状吸着剤の重金属捕集への応用
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(3MeV,25mA)
線量(率)   :200kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所2号加速器
照射条件    :窒素雰囲気中、室温
応用分野    :重金属捕集

概要      :
 放射線グラフト重合法により作製した捕集材をホタテ加工処理残さに含まれるカドミウム(Cd)の捕集除去に応用した。ポリプロピレン不織布にアミドキシム基をグラフト重合により導入した捕集材は、重金属イオンを選択的に吸着することができる。捕集効率には廃液のpH依存性があり、pHが6のときに最大の効果を示した。1gの捕集材を充填したカラムにより、Cdを16μM含む200ccの廃水を0.8μMに低下できた。即ち、96%のカドミウムを取り除くことができた。

詳細説明    :
 ポリプロピレン繊維の不織布を基材として、放射線グラフト重合により、重金属を選択的に吸着するアミドキシム基を導入した捕集材を合成した。これは海水中の極低濃度の重金属(ウランやバナジウムなど)を捕集する能力があるが、この捕集材を帆立て貝の加工処理場で生じる廃棄物中のカドミウムの除去に応用することを試みた。帆立て貝の内臓部分にはCdが含まれており、その廃棄物中のCd濃度は許容される濃度の100倍に相当する20〜40ppmである。この除去方法として電気化学的手法や微生物利用法など種々検討されているが、効果的な方法が未だ開発されていない。
 
(1)アミドキシム捕集材の合成は、直径40μmのポリプロピレン繊維不織布に対して電子線前照射グラフト重合法を適用することにより行った。照射した不織布をジメチルスルホオキサイドを溶媒としたアクリロニトリルとメタクリル酸(80:20mol%)の混合モノマー(50%)中に浸漬し、40℃(313K)でグラフト重合させた。反応時間に対するグラフト率は図1のようになる。150%程度の重合体をヒドロキシルアミンと反応させると、アクリルニトリルのCN基がアミドキシム基に変化して、捕集材1g当たり5.3mmolのアミドキシム基を含有する捕集材が得られた。


図1 Time course of grafting on polypropylene nonwoven fabrics(Reprodced from Fig. 2 in Data Source 1, Copyright (2003), with permission from Elsevier Ltd.)(原論文1より引用)

 
(2)捕集材のCd吸着に対するpHの影響を検討した。Cd溶液は、帆立て貝のうろ(60g)を蒸留水(300ml)の中で粉砕し、遠心分離にかけて、その上澄み液を用いた。pHを調整した上澄み液(200ml)に捕集材を0.25g入れて吸着量を測定した。pH6 で最大の吸着性能が得られ、試料中16μMのカドミウムの62%が吸着除去された。
 
(3)捕集材のCd吸着容量は、塩化カドミウム溶液を用いて測定した。図2に示すように、Cd吸着量は溶液中のCd濃度が高くなるにつれて増大したが、捕集材1g当たり820μmolの吸着量で飽和した。この飽和の値とグラフト重合収率から求めたアミドキシム基の数との割合は、Cdイオン1個当たり、アミドキシム基6から7個の関係になる。
 


図2 Adsorption of Cd in the various concentrations of Cd solution(Reprodced from Fig. 5 in Data Source 1, Copyright (2003), with permission from Elsevier Ltd.)(原論文1より引用)

 
(4)多種類の元素イオンが共存する場合の影響について検討した。帆立貝の処理廃液には、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)が共存している。図3に捕集材に吸着される各元素の量の時間変化を示す。300分での濃縮係数(=捕集材カラム中濃度[mol/g]/溶液中濃度[mol/g])はCdが1.1×103、Mgが0.43、Caが8.4、Znが2.9×103、Feが4.7×103であった。カドミウム、亜鉛、鉄はマグネシウム、カルシウムに比べて係数が極端に大きいことがわかる。
 


図3 Adsorption of metals in scallop waste: (■) Mg, (□) Ca, (●) Zn, (○)Cd, and (△) Fe(Reprodced from Fig. 6 and Table 1 in Data Source 1, Copyright (2003), with permission from Elsevier Ltd.)(原論文1より引用)

(5)カラムを使用した吸着除去は、1gの捕集材をロートに詰め、200gの試料液を流したときのCd濃度を測定して調べた。一回の通過により、16μMカドミウムは出口で0.8μMまで減少した。即ち、95%が捕集材により除去された。

原論文1 Data source 1:
Recovery of cadmium from waste of scallop processing with amidoxime adsorbent synthesized by graft-polymerization
Tomoyuki Shiraishi, Masao Tamada*, Kyouichi Saito**, Takanobu Sugo*
Environment Purification Reseach Institute, *Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute, **Department of Materials Technology, Chiba University
Radiation Physics and Chemistry, 66, 43-47 (2003)

キーワード:放射線グラフト重合、捕集材、アミドキシム、ホタテ加工残渣、カドミウム、有害金属、除去、高分子基材、電子線
radiation induced graftpolymerization, adsorbent, amidoxime, scallop processing waste, cadmium, toxic metal, removal, trunk polymer, electron beam,
分類コード:010201, 010203, 010101

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