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作成: 2001/11/28 長澤 尚胤

データ番号   :010225
生分解性ポリマーの放射線分解
目的      :放射線による生分解性ポリマーの改質
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :10-1000kGy・10kGy/h
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所コバルト第2棟、食品照射棟
照射条件    :粉末(固体状態)・水溶液、空気中・真空中・窒素ガスまたは酸素ガスバブリング中、室温(25℃)・液体窒素温度
応用分野    :環境保全、資源リサイクル、資源利用、農業

概要      :
 アルギン酸ナトリウム(ALGNa)とポリ乳酸の放射線照射による分解が、照射の条件により著しく影響される。1%のALGNa水溶液では、20kGy照射で分子量6x105のものが8x103に低下した。同じ低分子量のものを得るのに固体照射では500kGyを要した。水がALGNaの放射線分解を促進する。また、水溶液照射は固体照射で得られない低分子量のものが得られる。照射したALGNa水溶液は二重結合の生成により着色が起こる。固体状態で照射したポリ乳酸は、分解により分子量、結晶融点、ガラス転移温度が未照射に比べ著しく低下する。照射中は空気存在下の方が、窒素ガス雰囲気よりも酸化劣化により分解が起き易い。酵素分解による生分解性は、照射により抑制される。

詳細説明    :
 
 海藻から抽出されるアルギン酸ナトリウム(ALGNa)を種々の条件で照射し、分子量変化、着色挙動をUV吸収スペクトルとESR測定により調べた。
 図1は固体と水溶液照射による分子量変化を示す。固体照射では100kGyまで著しく分解し、その後は緩やかに進行する。


図1 固体(粉末)状態で照射したアルギン酸ナトリウムの分子量変化(○)空気中、(●)真空中(原論文1より引用。  Reproduced from N. Nagasawa, H. Mitomo, F. Yoshii, T. Kume, Polymer Degradation and Stability, 69, 279-285(2000), Fig. 1 (Data Source 1, p.280), Copyright (2000), with permission from Elsevier Science.))


 100kGyまでの初期の分解は非結晶域で起き、後期は安定な結晶域のため緩やかに進行する。水溶液照射では濃度が希薄なほど放射線分解が起き易く、10-20kGyで分子量が大きく低下する。1%のALGNa水溶液では、20kGy照射により分子量6x105が8x103に低下する。これと同じ分子量低下に4%水溶液では50kGy,固体では500kGyを要する。これは水の放射線分解により生成した水酸基ラジカル(・OH)がALGNaから水素を引き抜き、新たなポリマーラジカルを生成するため、分解が促進されると考えられる。空気存在下と真空中の固体照射では、雰囲気による分子量低下の違いは認められなかった。したがって、水溶液系の放射線分解では、放射線の直接作用のほかに水の放射線分解による間接効果が大きいことが明らかとなった。
 
 ALGNaは水溶液照射を行った場合と固体で照射しした後水に溶解すると、いずれも著しく着色する。着色は酸素を吹き込みながら照射した場合は起こらず、窒素ガス雰囲気下で起こる。照射後着色した水溶液にオゾンを吹き込むと着色が消失する。これらの結果をESR測定の結果と総合的に考察すると、着色は主鎖中のグリコシド結合切断によるC4とC5の間に生成する二重結合によると推定できる。
 
 ポリ乳酸(PLA)はグルコースを原料としているため、比較的安価に製造でき生分解性ポリマーの中でも一番実用化に近い材料である。PLAの照射効果を明らかにするため、固体の照射後の融点、ガラス転移点、分子量、機械的物性、生分解性について調べた。図2には真空中と空気存在下で照射したポリ乳酸の分子量を示す。分子量は200kGyまで大きく低下し、その後徐々に進行する。これもALGNaと同様に初期の分解は主に非結晶部の分解であると言える。分解は照射の雰囲気により異なり、空気存在下の方が真空中照射よりも分解しやすい。照射による分子量低下は、結晶融点、ガラス転移温度、強度の低下を引き起こす。このことからポリ乳酸は放射線分解型の材料である。照射後の生分解性を酵素分解により評価した。照射の線量が大きいほど生分解性が抑制される。真空中照射の方が空気中照射よりも分解しにくい。これは照射によるマイクロゲルの生成及び照射分解生成物により、酵素分解が抑制されたものと考えられる。


図2 照射したポリ乳酸の数平均分子量の変化(●)空気中、(○)真空中(原論文2のFig.3)(原論文2より引用。  Reproduced from P. Nugrohoa, H. Mitomo, F. Yoshii, T. Kume, Polymer Degradation and Stability, 72, 337-343(2001), Fig. 3 (Data Source 2, p.339), Copyright (2001), with permission from Elsevier Science.))



コメント    :
 水がALGNaの放射線分解を促進することを実証した。しかも固体照射では得られない低分子量のものが得られる。オリゴ多糖類の製造には、加水分解法や酵素分解法により行われているが、長い時間を要し、廃液処理や酵素除去といったプロセスが煩雑である。放射線法は照射のみにより分子量を制御できるため、有用な分解技術である。ポリ乳酸は硬く、透明な材料であるため、医療用具に使用されているが、低線量で分解が起こるため放射線滅菌を行なうときは注意を要する。

原論文1 Data source 1:
Radiation-induced degradation of sodium alginate
Naotsugu Nagasawa, Hiroshi Mitomo, Fumio Yoshii*, Tamikazu Kume*
Department of Biological and Chemical Engineering, Faculty of Engineering, Gunma University, Kiryu, Gunma 376-8515, Japan, *Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki, Gunma 370-1292, Japan
Polymer Degradation and Stability, 69, 279-285(2000)

原論文2 Data source 2:
Degradation of poly(L-lactic acid) by γ-irradiation
Pramono Nugroho, Hiroshi Mitomo, Fumio Yoshii*, Tamikazu Kume*
Department of Biological and Chemical Engineering, Faculty of Engineering, Gunma University, Kiryu, Gunma 376-8515, Japan, *Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki, Gunma 370-1292, Japan
Polymer Degradation and Stability, 72, 337-343(2001)

キーワード:放射線分解、γ線照射、アルギン酸ナトリウム、ポリ乳酸、分子量、G値、褐変化、生分解、酵素分解
Radiation degradation, γ-irradiation, Sodium Alginate, Poly(lactic acid), Molecular weight, G-value, Discoloration, Biodegradation, Enzymatic degradation
分類コード:010106,010204,010506,020160

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