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作成: 2001/12/25 吉井文男

データ番号   :010224
放射線分解型多糖類添加によるハイドロゲル強度の改善
目的      :多糖類添加による高い強度をもつハイドロゲルの合成
放射線の種別  :γ線
線量(率)   :10kGy/h
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所コバルト2棟照射施設
照射条件    :空気除去、室温
応用分野    :医療材料、農業資材、衛生用品

概要      :
 ポリビニルピロリドン(PVP)は放射線橋かけにより、多量の水を含むハイドロゲルとなる。この材料のゲル強度を向上するために、海藻多糖類のカラギーナンを添加して、放射線橋かけを行う技術。その技術は、PVP・カラギーナン・水をブレンドして放射線照射する方法と PVPのモノマー(VP)・カラギーナン・水のブレンドに照射する方法。いずれの場合もPVPハイドロゲル強度の改善にカラギーナンは有効であり、最大のゲル強度を与える照射線量は、前者では20kGy、後者では50kGyであるが、その最大ゲル強度は前者が大きい。

詳細説明    :
 
 ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、PVPのような水溶性ポリマーは照射による橋かけ反応によって水を多量に含むハイドロゲルとなる。しかしながら、このようなハイドロゲルはゲル強度が低く脆いものが多く、ゲル強度の改善が衛生用品や医療材料への応用に不可欠である。
 
 放射線に対して分解型であるK-カラギーナン(KC)が、照射中に水溶性ポリマーと絡み合いや付加反応に結びつくと、ハイドロゲルの強度の増加が期待できる。ここでは、次ぎの2つの方法が検討された。1)PVPとKCとをブレンドし、水溶液中で照射を行う。2)PVPモノマーのVPとKCとを混合し、水溶液中で照射を行う。得られたハイドロゲル強度は、直径15mmで20cmの棒状試料の圧縮破壊から求めた。 
 
 KCは水に溶解し加温後徐冷すると単独でハイドロゲルとなる。KCの5%水溶液から調製した単独ハイドロゲルのゲル強度は照射とともに減少し、初期強度27N が10kGyで5N、30kGyで1N以下になる。KCは放射線照射により分解するためである。図1には1)の方法により調製したハイドロゲル強度を示す。PVP15%の水溶液にKCを5,3,1%添加した。


図1 放射線橋かけによって合成したPVP・KCハイドロゲルのたゲル強度、(a)PVP15%のときのKC濃度の影響、A:5%, B:3%, C:1%, D:KCなし、(b)KCを5%と一定にしたときのPVP濃度の影響、A:15%, B:10%, C:5% (原論文1の図5) Reproduced from Zhai Maolin, Ha Hongfei, F. Yoshii, K. Makuuchi, Radiat. Phys. Chem., Vol.57, 459 - 463 (2000), Fig. 5 (Data Source 1), Copyright (2000), with permission of the authors and Elsevier Science).(原論文1より引用)


 また、KCを5%の値に保ち、PVP濃度を5%から15%まで変化させた。KCを添加しないPVP単独ハイドロゲルの強度は10N以下であるのに対しKCの添加によりPVPハイドロゲル強度は増加し、15から30kGyに最大値が現れた。最も高いゲル強度を与える両者の濃度は、PVP15%,KC5%であり、そのときの強度は140Nに達する。一方、2)の条件で合成したPVPのハイドロゲル強度を図2に示す。


図2 KCを4%と一定にしたときのVP/KCの放射線重合橋かけによって合成したハイドロゲル強度。(白丸)KC/VP15%, (黒丸)KC/VP10%, 2本の線のみ (原論文2の図5) Reproduced from Lorna Relleve, Fumio Yoshii, Alumanda dela Rosa, Tamikazu Kume, Angewante Makromolekulare Chemie, Vol.273, 63 - 68 (1999), Fig. 5 (Data Source 2), Copyright (1999), with permission of the authors and WILEY-VCH Verlag Gnbh, D-69451 Weinheim).(原論文2より引用)


 この場合もKC濃度の増加とともにハイドロゲル強度が増加するが、VP15%にKCを4%添加し、50kGy照射が最良条件で、ハイドロゲル強度は70Nに達する。1)の条件で合成したハイドロゲルの方が高い強度が得られる。これは照射前の混合によりKCとPVPとの分子鎖の絡み合いが2)の重合橋かけよりも容易に起こるためと考えられる。放射線によるゲル合成では、水の放射線分解等により生成したガスにより泡の発生があるが、この方法ではそれも防げる。ハイドロゲル合成にKCの添加が極めて有効である。したがって、KCはPVP分子鎖へのグラフト反応による絡み合いとPVPの橋かけによって生成した網目の内部に入り込んで引き起こす絡み合いの二つの寄与によりゲル強度が向上したものと考えられる。

コメント    :
 カラギーナンのブレンドは、を放射線法ハイドロゲル合成の弱点であった、ゲル強度の向上が図れる有用な技術である。衛生用品や医療分野への応用の拡大が期待できる。さらに、KCは海藻から得られる生分解性材料であり、土壌中で水溶性ポリマーの分解性を加速できる。

原論文1 Data source 1:
Effect of Kappa-carrageenan on the properties of poly(N-vinyl pyrrolidone)/Kappa-carrageenan blend hydrogel synthesis by γ-irradiation technology.
Zhai Maolin(1), Ha Hongfei(1), F. Yoshii(2), K. Makuuchi(2)
(1) Department ofTechnical Physics, Peking University, (2)Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment

原論文2 Data source 2:
Radiation-modified hydrogel based on poly(N-vinyl-2-pyrrolidone) and carrageenan.
Lorna Relleve(1), Fumio Yoshii(2), Alumanda dela Rosa(1), Tamikazu Kume(2)
(1) Philippine Nuclear Research Institute,(2)Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment
Angewante Makromolekulare Chemie, Vol.273, 63 - 68 (1999).

キーワード:ハイドロゲル、放射線照射、橋かけ、カラギーナン、ポリビニルピロリドン、ゲル強度、膨潤率、ゲル分率
hydrogel, radiation irradiation, crosslinking, carrageenan, poly(vinylpyrrolidone), gel strength, swelling, gel fraction
分類コード:010101, 010102, 010107

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