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作成: 2001/11/1 早味 宏

データ番号   :010222
高分子絶縁材料の耐放射線性
目的      :高分子材料の耐放射線性
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :0.05-10kGy/h
照射条件    :(a)酸素圧0.6MPa、線量率5kGy/h、室温、(b)空気中、線量率10kGy/h、室温
応用分野    :電線、ケーブル、電気絶縁材料

概要      :
 高分子材料の耐放射線性の加速試験は種々の方法が検討されている。その中で酸素を加圧し比較的高線量率で照射を行う加速試験は、実使用時の低線量率×長期間の照射条件による材料の劣化挙動を模擬できる。ここでは、電線、ケーブルの絶縁材料に使われている各種材料に、この加速試験法を適用し、引張特性、ゲル分率、体積抵抗率等の変化を調べて、劣化挙動は4つのカテゴリーに分類できることを主張。

詳細説明    :

 高分子材料の耐放射線性は、実使用時における低線量率×長期間の照射条件での劣化挙動と、加速試験における高線量率下での照射による劣化挙動が大きく異なるため、従来から各種の加速試験法が検討されてきた。この中で酸素加圧下で比較的高線量率で照射する方法は、実使用時の劣化挙動と良い一致が見られることから、この方法を用いて各種高分子材料の耐放射線性を調べた。

 試料中の酸化層の厚みは、(1)式のように、酸素圧の1/2乗、線量率のマイナス1/2乗に比例する。
 
   L=K(P/I)1/2 (1)
 
ここに、L:酸化層の厚み(cm)、P:試料雰囲気の酸素圧(MPa)、I:線量率(Gy/s)

 図1は酸素雰囲気下に線量率5kGy/hで200kGy照射したポリエチレンシートについて、横軸に酸素圧の1/2乗を取り、シート厚みをパラメータとしてゲル分率をプロットしたものである(酸化層では分子鎖切断が起こり、架橋によるゲルの生成が無い)。ゲル分率は酸素圧の1/2乗に逆比例し、(1)式の妥当性を示すとともに、例えば、1.9mmシートでは0.6MPaの酸素圧で厚み方向全体に照射誘起の酸化劣化が進行することがわかる。


図1 Gel fraction vs. oxygen pressure during irradiation of low density polyethylene(原論文1 Fig.2)(原論文1より引用)


 図2はPVCについて引張試験を行って比較した結果であり、1.6MPaの酸素圧下に2.5kGy/hの条件で照射したものは、空気中0.05kGy/hで照射したものとほぼ同じ劣化挙動を示すのに対し、空気中で高線量率の10kGy/hの条件で照射したものは耐放射線性が大きく異なる。


図2 Change in tensile properties of polyvinylchloride(原論文1 Fig.3)(原論文1より引用)


 そこで、各種ポリマーの1mm厚のシートを、(a) 酸素圧0.6MPa、線量率5kGy/h、室温、(b)空気中、線量率10kGy/h、室温の2条件で照射し、引張強さ、伸び、ゲル分率、比重、体積抵抗率等を測定した。その結果、劣化挙動は次の4つのカテゴリーに分類できた。

 [カテゴリーA]:
 
 引張強さ、伸びともに、酸素中照射の方が空気中照射よりも低下する系であり、天然ゴムを例示できる。天然ゴムは架橋されているので、酸素中での照射は分子切断を促進し、ゲルのネットワークを破壊する。空気中での照射は表面層のみで分子切断が起こり、内部では架橋が進行するため、表面層のゲル分率は低下し、内部では架橋が線量とともに増加するので、酸素中照射の方が伸び、引張強さともに空気中照射より低下する。

 [カテゴリーB]:
 
 カテゴリーBに属するポリマーは放射線酸化により、引張強さが低下し、伸びは低下しないものであり、EPゴムを例示できる。ゲル分率の挙動はカテゴリーAの天然ゴムと同様であるが、伸び変化の傾向は異なる。体積抵抗率は酸素中照射の方が低下し、分子切断により生成する酸化物の蓄積によるものと考えられ、この現象はフッ素ゴムにおいて顕著である。

 [カテゴリーC]:
 
 カテゴリーCに属するポリマーは、放射線酸化により、伸びが低下し、引張強さが低下しないもので、このカテゴリーに属するポリマーは少ないが、架橋ポリエチレンを例示できる。架橋ポリエチレンは、酸素中1MGyで伸びがなくなる。架橋ポリエチレンは結晶部と非晶部からなるが、照射誘起の酸化劣化は柔軟性を受け持つ非晶部で主に進行し、伸びが低下するが、結晶部の残存により強度は保持される。

 [カテゴリーD]:
 
 カテゴリーAと反対で、放射線酸化により、伸び、引張強さともにある線量の範囲で増大するポリマーで、アクリルゴムを例示できる。酸化劣化による分子切断にともない構造変化が進行する系と思われる。

 各種ポリマーおよびその配合物について、空気中10kGy/h(架橋が進行する条件)、酸素加圧中5kGy/h(空気中での低線量率×長期間照射を模擬する条件)の2種類の照射条件で伸びが100%になる線量、引張強さが初期値の半分となる線量をまとめたものが図3である。


図3 Radiation resistance of common polymer materials(原論文1 Fig.9)(原論文1より引用)



コメント    :
 酸素加圧下で5kGy/hという高線量率で照射する加速試験法は、高分子材料の耐放射線性を比較的短時間で把握するための優れた方法であり、実用的な価値は大きい。また、本報に記載されている耐放射線性に関するデータは放射線環境で使用される電線、ケーブルの設計を行う上で極めて有用なデータである。

原論文1 Data source 1:
Radiation resistance of polymer insulating materials
T. Seguchi, Y. Yamamoto*, H. Yagyu*
Japan Atomic Energy Research Institute, *Hitachi Cable Ltd.
Hitachi Cable Review, No.4, (August) 1985

キーワード:高分子材料、耐放射線性、放射線劣化、ポリエチレン、EPゴム、PVC、電線、ケーブル、加速試験、酸素圧
polymer, radiation resistance radiation aging, polyethylene, ethylene propylene rubber, polyvinylchloride, wire, cable, acceleration test, oxygen pressure
分類コード:010101, 010105, 0106--

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