作成: 2000/10/01 加納 義久
データ番号 :010219
SIS系粘着剤の表面粘着性能に及ぼす電子線照射効果
目的 :SIS系粘着剤における耐熱性の向上
放射線の種別 :電子
放射線源 :加速電圧(200KeV)
線量(率) :0-100kGy
利用施設名 :日新ハイボルテージ社製エリアビーム型キュアトロン
照射条件 :窒素中
応用分野 :粘着テープ、ラベル
概要 :
ゴム系粘着剤の欠点である耐熱性を改善する方法として、電子線照射による架橋の導入がある。電子線を利用すれば、硫黄や過酸化物などの架橋反応剤が不要になり環境に優しい。SIS系粘着剤に電子線を照射すると、粘着性能が低下することなく耐熱性が向上した。
詳細説明 :
SISはスチレンとイソプレンで構成され、スチレン相が擬網目点となるミクロ相分離構造を形成している。このSISと粘着付与剤との混合物が相容状態であれば、良好な粘着性能を示す。ベースポリマーであるSISはシェルジャパン社製のKratonD 1320X、粘着付与剤は荒川化学工業社製のArkonM100、ArkonP 100を用いた。SIS/ArkonM=60/40wt%(以下SM64)、SIS/ArkonP=60/40wt%(以下SP64)をPETフィルムに塗布して粘着テープを作成した。作成した粘着テープをステンレス板に貼り付けて電子線を照射した後、接着面に対して1Kgの荷重をかけ、50℃/hourで昇温させたときに粘着テープがステンレスから剥離して落下する温度を耐熱性の指標とした。粘着性能はプローブタック試験で評価した。また電子線照射した試料のガラス転移温度をDSCで求め、電子線架橋がSISの分子運動性に及ぼす影響を調査した。
表1に耐熱性試験の結果を示す。
表1 耐熱性試験の結果(原論文1より引用)
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SM64 SP64
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does/kGy 落下温度/℃ 落下温度/℃
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0 108 119
25 142 148
50 148 150<
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SM64、SP64共に照射線量の増加にしたがって耐熱性能が向上している。芳香族構造を有するスチレン部分は電子線での架橋に寄与しない。したがって、この耐熱性の向上は、イソプレンの架橋に起因している。図1にプローブタックの結果を示す。
図1 照射線量と表面タック力の関係(原論文1より引用)
SM64、SP64共に、電子線を照射してもプローブタック力は150kPa前後を維持しており、表面の粘着性能に変化は見られなかった。通常、架橋が進行すると弾性率が上昇し、粘着剤の流動性が消失し、表面のタック力が低下するものと考えられている。そこで、DSCによりTgを求め、電子線照射がSISの分子運動性に与える影響を調査した。表2に照射線量とTgとの関係をまとめた。
表2 照射線量とTgの関係(原論文1より引用)
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SM64 SP64
--------------------------------------
does/kGy Tg/℃ Tg/℃
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0 -43.5 -45.4
25 -44.3 -42.2
50 -42.8 -43.8
100 -43.0 -44.4
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本研究で用いているSISにおいて、スチレンの含有率は10%であり、且つミクロ相分離を形成していることから、DSCではスチレン相の情報は得られない。よって、表2に記載されたTgは、イソプレン相に起因している。電子線照射線量が増加しても、Tgの変化は観察されない。したがって、電子線照射による架橋は、粘着剤の軟化状態での流動性を阻害して耐熱性を向上させるが、ゴム状態での分子運動性には影響を及ぼしていないことが判明した。
コメント :
ゴム系粘着剤に電子線を照射すると架橋が進行し、耐熱性の向上は図られる。しかし、あまり架橋が進みすぎると粘着性能の低下が予想される。粘着剤の種類にもよるが、SIS系では100kGyまでの照射線量では、粘着性能を低下させずに耐熱性を向上させている。ゴム系粘着剤において、粘着性能と耐熱性を両立させるには、最適な照射線量の選択が必要と思われる。
原論文1 Data source 1:
SIS系粘着剤の表面粘着性能に及ぼす電子線照射効果
井上芳久、森崎重喜、伊藤栄子、伊藤寿、榎本一郎
東京都立大学工学部
社団法人高分子学会, 97/2高分子表面研究会(第7回研究発表会)講演要旨集, p3(1997
キーワード:SIS系粘着剤、表面、粘着性能、電子線照射、SIS-based PSA's, Surface, Adhesion Performance, Electron Beam Irradiation
分類コード:010303