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作成: 2000/10/26 河中 裕文

データ番号   :010216
発泡ポリオレフィンへの応用
目的      :電子線照射技術の発泡ポリオレフィンへの応用
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子線加速器(200KeV-1MeV)
線量(率)   :20-100kGy
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :放射線架橋、放射線グラフト重合、放射線キュアリング

概要      :
 電子線照射技術は架橋発泡ポリオレフィンの製造に応用されている。ポリオレフィンは無架橋の状態では、溶融時の弾性率が著しく小さいため、常圧における発泡化が困難である。弾性率を向上させる一つの改質方法として、電子線照射による架橋がしばしば行われる。良好なポリオレフィンの架橋発泡体を得るためには、照射量の適正化が重要である。ポリプロピレンにおいては、電子線照射により、樹脂劣化も進行するので、劣化対策も必要になる。

詳細説明    :
 
 電子線架橋をプラスチックの分野で実用化した例の一つとして、発泡ポリオレフィンが挙げられる。架橋発泡ポリオレフィンは軽量、断熱性、緩衝性など発泡体としての諸性能に優れるだけではなく、他のプラスチックと比べ優れた化学的・機械的・電気的特性を有しており、建築用断熱材、包装材、浮揚材及び車両用内装材など幅広く使用されている。ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)は融点以上の温度になると、急激に弾性率が低下するため、発泡成形に適する弾性率範囲内に制御することが極めて困難である。また、樹脂の融点<発泡剤を練り込む温度<発泡剤の分解温度とする必要がある。このような制限から、化学発泡剤を用いて常圧発泡させるためには、樹脂の融点よりかなり高い温度で発泡成形させる必要がある。そのような高温では、溶融弾性率が小さすぎるため、発泡剤が分解して生じたガスはセル成長に寄与せず、空気中に散逸してしまう。そこで、溶融弾性率を向上させるための改質法の一つとして、電子線架橋がしばしば行われている。電子線架橋を施すことによって、融点以上の温度における弾性率が劇的に上昇し、また、温度上昇による弾性率の低下も少なくなる。図1に架橋ポリオレフィン樹脂の発泡特性改善効果を示す。


図1 架橋ポリオレフィン樹脂の発泡特性改善効果

 このように、電子線架橋による改質により、高倍率のポリオレフィン架橋発泡成形が可能となっている。しかしながら、最適な発泡体を得るためには、さらに溶融弾性率の最適化も必要である。すなわち、溶融弾性率が低すぎると、膨張したセル壁が破壊されやすくなり、高倍率化が阻害される。逆に、溶融弾性率が高すぎると、セル壁の強度が大きすぎるため、セル膨張が抑制され、高倍率な発泡体が得られない。従って、適度な溶融弾性率にコントロールする必要性がある。溶融弾性率は原料樹脂の分子量、分子量分布、分岐度、結晶化度及び、電子線照射時の照射線量に依存する。従って、選択した原料樹脂に対して、最適な照射線量を与えて、溶融弾性率を制御する必要がある。参考として、図2に各ポリエチレンの照射線量とゲル分率の関係を示す。架橋が進行すると、全体が網目構造になり溶媒に溶解しなくなる。溶解しない部分の重量百分率をゲル分率と呼び、架橋の程度を表す尺度としている。ポリエチレン種によって、架橋度がかなり異なることが判る。


図2 Changes in gel fraction(%) with irradiation dose of PE samples irradiated in air at room temperature(原論文2より引用)

 ポリオレフィンに電子線などの放射線を照射すると、上述のように架橋反応が起こる場合と、分解反応が生じる場合がある。ポリエチレンは典型的な架橋型高分子であり、電子線照射により容易に架橋体が得られる。それゆえに、良好な架橋発泡体も得られやすい。しかし、ポリプロピレンは結晶化度が高く、主鎖のα位にメチル基を有するため、主鎖切断による分解反応も起こりやすく、ポリエチレンより架橋効率が悪く、適切な溶融弾性率が得られ難い。図3に掲げるように、低線量でのポリプロピレンの固有粘度を測定すると、いったん低下してから上昇する。このようなことから、良好な架橋発泡ポリプロピレンを得るためには、ポリプロピレンの劣化防止対策が必要になる。


図3 ポリプロピレンの固有粘度の変化(原論文2より引用)

 劣化防止対策として、3〜4官能の多官能性モノマーをポリプロピレンに配合し照射することで、10kGy程度の低線量でも劣化ぜすに、架橋構造体を得る技術が開発されている。この技術を利用して、20倍以上の発泡倍率を有するポリプロピレン架橋発泡体が得られている。発泡ポリプロピレンの用途としては、自動車用内装材を始めとした車両分野へ展開されている。

コメント    :
環境問題を考慮すると、架橋発泡ポリオレフィンは、焼却しても有毒ガス、煙などが出ず安全であるが、リサイクルが難しいという難点がある。一方では、耐熱性、強度の点で架橋発泡ポリオレフィンに固有の利点もある。架橋発泡ポリオレフィンのリサイクル化技術が発展し、これらの利点が活かされ、益々幅広く使用されていくことを期待する。

原論文1 Data source 1:
発泡プラスチック
大崎 利政
積水化学工業(株)
放射線化学, 第51号 (1991), pp.40-42

原論文2 Data source 2:
ポリエチレン、ポリプロピレンの放射線照射による変化
今井 正彦
東京都立アイソトープ総合研究所
コンバーテック, vol19 (2) (1991), pp.19-23

参考資料1 Reference 1:
ポリプロピレンの架橋と発泡体への応用
野尻 昭夫
古河電工(株)
古河電工時報, 71, 81 (1981), pp.81-89

キーワード:電子線照射、発泡、ポリオレフィン、架橋、弾性率
Electron Beam Irradiation,Foam,Polyolefin,Crosslinking,modulus
分類コード:010101,010107

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