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作成: 2000/10/31 須藤高史

データ番号   :010214
電子線照射による揮発性有機汚染物質の分解
目的      :排ガス中の揮発性有機物の分解除去
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(160kV,6mA)
線量(率)   :-275kGy
利用施設名   :テネシー大学宇宙研究所
応用分野    :排気処理、難分解性物質処理

概要      :
 排ガス中の揮発性有機物の除去法として種々の方法が提案されているが、厳しい運転条件や、建設費・運転費が高価な複雑な装置を必要とする事が多い。ここでは電子線照射による揮発性有機物の無害化を行うパイロット試験を行い、動力学モデルを作成して結果の予測を行い、装置の経済性の検討を行った。フレオンを除き分解除去効率は良い結果を得た。

詳細説明    :
 
 現在揮発性有機物(VOCs)の除去法として、溶媒抽出、UV照射、ポリマー化、微生物処理、脱塩化、酸化等種々の方法が提案されている。しかし過酷な運転条件や、建設や運転が高価な複雑な装置を必要とすることが多い。ここではZapit Technology社と協同して電子線によるVOCs除去法を検討した。上記会社は、LLNLと協同で電子線による3塩化エチレン(TCE)分解を行った。ここではパイロット試験を行い、簡単な動力学モデルを開発し、電子線照射によるVOC無害化装置の経済性の検討を行うことを目的とした。
 
 電子線による活性種の生成、活性種によるVOC分解およびその競合反応を動力学的にモデル化し、D/ln(Cvo/Cv)=(a/Gρ)D+Cvo/Gρ を得た。ここでD:照射線量(kGy)、G(活性種生成モル数/照射エネルギー)、ρ:運転条件での排ガス密度(g/l)、Cvo:VOCの処理前濃度(mol/l)、Cv: VOCの処理後濃度(mol/l) である。D/ln(Cvo/Cv)とDを縦、横軸にプロットすると直線となる。
 
 試験装置では液体および気体のVOCsが扱える。気体は条件設定された空気流中にボンベから設定流量で注入され、液体は空気をバブラーに送り、その空気をバイパス空気と混合して所定の濃度にして照射した。空気ダクトはすべて35°Cに保持した。使用した電子加速器は最大160kV,6mAである。塩化ビニール、1,1,1-3塩化エタン、1,1,2-3塩化3弗化エタン、過塩化エチレン、3塩化エチレン、プロパンの空気中濃度50-1000ppmについて試験を行った。個々の化合物の一連の試験から一つの試験データを取り出し、直線回帰法により(a/Gρ)と(Cvo/Gρ)とを決定し、その値からその化合物の他の試験データの予測計算を行った。Fig.1にプロパンの、Fig.2に3塩化エチレンの一例を示す。図中のResidualは、実験値と予測値の差である。予測値は実験値に良い一致を示している。小さな不一致は、実験誤差とガス流量や加速器出力の安定保持の困難さに起因している。


図1 Comparison between predicted and experimental data for experiment #6 for propane.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from B.Anshumali, C.Winkleman, A.C.Sheth, Proc. Int. Conf. Therm. Treat. Technol., 1997, p.509-514, Fig.3 (Data Source 1, p.512), Copyright (1997) by the Regents of the University of California.)



図2 Comparison between predicted and experimental data for experiment #10 for TCE.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from B.Anshumali, C.Winkleman, A.C.Sheth, Proc. Int. Conf. Therm. Treat. Technol., 1997, p.509-514, Fig.4 (Data Source 1, p.512), Copyright (1997) by the Regents of the University of California.)

 一般的に、個々のVOCの分解除去効率(DRE)は低照射量領域では照射量に応じ急速に増大するが、高照射領域では平坦化する。また入口濃度が高くなると、DREは低くなる。
 EPRIのガイドラインにより、除去装置の経済性の検討を行った。汚染空気流量は100x106ft3/year、VOCは3塩化エチレン500ppmvを仮定した。また電子線処理で残ったVOCは活性炭で除去するシステムとした。図3にその結果を示す。


図3 Estimated cost of TCE destruction at two different electron gun efficiencies.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from B.Anshumali, C.Winkleman, A.C.Sheth, Proc. Int. Conf. Therm. Treat. Technol., 1997, p.509-514, Fig.6 (Data Source 1, p.512), Copyright (1997) by the Regents of the University of California.)

 加速器効率50%の時、フレオンで24%、過塩化エチレン、3塩化エチレンでは72%のDREの照射により、活性炭のみの装置より数%の費用節減となった。フレオンはイオン化ポテンシャルが窒素の極近傍で、DREが低かった。
 提案した動力学モデルの予測性は良く、経済性検討においても電子線によるVOC除去は従来法より優れていることが分かった。さらに実用化に向けての課題も明らかにできた。

コメント    :
VOCs除去技術は日独米において研究が進んでおり、実用化は近いと思われる。効率の良い電子加速器と効果的反応器設計が今後展開するだろう。

原論文1 Data source 1:
E-BEAM BASED DESTRUCTION OF VOLATILE ORGANIC CONTAMINANTS
Anshumali, Winkleman, B. C. , Sheth, A. C.
University of Tennessee Space Institute:Tullahoma,TN37388-8897
Proc Int Conf Inciner Therm Treat Technol 1997, p. 509-514(1997)

キーワード:揮発性有機物、電子線、分解、動力学モデル、フレオン、プロパン、塩化ビニール
Volatile Organic Contaminants, Electron Beam, Destruction, Kinetic Model, Freon, Propane, Vinyl Chloride
分類コード:010101,010501,010505

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