放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2000/10/31 須藤高史

データ番号   :010213
電子照射処理と電子加速器の利用の現状
目的      :電子線照射利用の現状
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器
応用分野    :架橋、タイヤ製造、グラフト重合、環境保全、殺菌・滅菌

概要      :
 放射線加工処理技術は、1952年の英国チャールスビー博士のポリエチレン架橋の発見以来徐々に範囲を広げ、取扱い容易な電子照射装置の向上に加速され、工業利用分野で著しく発展した。架橋、グラフト重合、ゴム加硫に加え、環境保全、滅菌・殺菌等分野を広げて発展してきた。利用分野の拡大に伴い、工業利用される電子加速器も設置台数が増え、利用分野に応じた性能機種が増えた。

詳細説明    :
 
 放射線加工処理技術は、1952年の英国チャールスビー博士のポリエチレン架橋の発見以来徐々に範囲を広げ、取扱い容易な電子照射装置の向上に加速され、工業利用分野で著しく発展した。図1に電子照射の利用分野を示すが、多岐にわたっている事が実感される。


図1 EB照射の利用分野(原論文1より引用)

1) 架橋分野
 架橋は分子間を3次元構造で結合し、耐熱性向上等の高分子物性を改善する。日本においても電線被覆に利用され、工業利用分野として最も成功した例であり、電気機器の配線ヤワイヤハーネス等に広く使用されている。ポリエチレン、塩化ビニール等が照射対象の主流であったがフッ素樹脂にも実用化されている。またポリウレタンの耐水性向上にも利用された。発泡材に対しても、材料組成が化学法に比べ簡便である、架橋と発泡が個別に制御できる、製品の良好な表面が得られる等の利点があり、利用されている。
 
2)タイヤ分野
 1970年代から米国を中心に工業利用がなされ、順調に増え続けている。未加硫部材の変形や流動を防ぐための予備加硫が目的である。
 
3)グラフト重合分野
 ポリマー鎖に異なるモノマーを接ぎ木状に重合させて幹ポリマーに枝ポリマーの性質を付加させる。イオン交換樹脂膜、電池のセパラータ、吸水性ポリマー、防曇フィルム等の製造に利用されている。
 
4)ラジカル重合分野
 1960年代にラジカル重合反応を利用した塗料塗膜の瞬間効果が注目され、塗料メーカ数社にパイロットプランと設置された。自動車部品や、金属板、合板の塗装ラインに利用された。この分野ではUV法が主流であるが、リリース紙、凹版印刷、粘着剤、転写フィルム等の製造で利用拡大しつつある。
 
5)環境保全分野
 排煙からの脱硫、脱硝が国内及び中国、ポーランド等で実用装置が稼動し、注目されている。その外にも下水、廃水処理、排気中の有機塩素化合物、ダイオキシン、PCB処理等幅広く研究され、最近は液体から重金属をキレート状で除去する方法で、50kGyで95%以上除去できることが報告されている。
 
6)殺菌・滅菌分野
 放射線による殺菌・滅菌は古くから知られ、医療器具等の殺菌がCoからのγ線を用いて広く行われていた。一方エチレンオキサイドガス等の有毒ガス利用が安全管理、環境保全の立場から電子照射法へと代替する傾向にある。国内にも自社専用や、委託滅菌設備が稼動している。
 
7)電子加速器
 上記の様な利用分野拡大により、図2に示すように国内設置台数が増えている。図3にはその分野ごとの推移を示す。


図2 設置台数の推移(原論文2より引用)



図3 各分野ごとの設置台数推移(原論文2より引用)

 加速器も利用分野に応じて、環境保全では大電流化、高効率化、キュアリング分野での、低エネルギー化、均一長幅化、殺菌・滅菌分野での高エネルギー高出力化等が図られている。

コメント    :
電子加速装置の工業的信頼性が増し、種々の分野での利用開発がなされ、より安全で線量率の高い電子線照射がオンラインでの製造工程で使用されている。経済性があり、今後の発展が期待される。

原論文1 Data source 1:
EB照射装置と利用分野
柏木正之
日新ハイボルテージ株式会社:京都市右京区梅津高畝町4
原子力eye、Vol. 44 No.6 p60-64(1998)

原論文2 Data source 2:
最近の中・低エネルギー電子加速器の用途と利用状況
星康久
日新ハイボルテージ株式会社:京都市右京区梅津高畝町4
日本アイソトープ・放射線総合会議論文集、Vol.22, p.290-302(1996)

原論文3 Data source 3:
世界における放射線加工処理―第10回IMRPから- 新しい市場の開発(1)電子線
水澤健一
日新ハイボルテージ株式会社:京都市右京区梅津高畝町4
放射線と産業、 No. 75, p. 20-24(1997)

キーワード:電子線、架橋、重合、環境保全、滅菌
Electron Beam, Cross-linking, Polymerization, Environment Preservation, Sterilization
分類コード:010101,010107, 010104

放射線利用技術データベースのメインページへ