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作成: 須藤 高史 2000/10/31
改定 放射線利用技術データベース工業分野専門部会 2004/03/02

データ番号   :010212
電子線照射によるダイオキシンモデル化合物類の分解
目的      :飛灰中のダイオキシン類の分解
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器
利用施設名   :電気興業株式会社加速器
照射条件    :空気中(シャーレ中)
応用分野    :排煙処理、難分解物質分解

概要      :
 廃棄物焼却時に生成するダイオキキシン類の電子線による分解効果を確かめた。実験では飛灰模擬体としたケイ酸マグネシウムに模擬ダイオキシン類を吸着させ、電子線を照射した。分解生成物の分析から、脱塩素化が進行し、両側に塩素がある位置の塩素原子が脱塩素化されやすいことが分かった。

詳細説明    :
 廃棄物焼却に伴ない生成するダイオキシン類(以下DXN)は、環境排出DXNの90%以上を占めるといわれており、燃焼改善、排ガス処理の高度化等で排出削減がなされている。しかし、焼却灰中のDXNを分解処理しなければ、環境への排出を削減できない。本データベースでは、模擬飛灰に吸着させたDXNの分解に対する電子線照射の効果について紹介する。
 
 図1に電子加速器と試料の照射方法を示す。


図1 実験装置の概略(原論文1より引用)

 電子線照射は、比較的ダイオキシン濃度が高く、温度が高すぎない条件が望ましいので、焼却プラント内における照射位置は、バグフィルター直前が現実的である。この条件では、DXNの大部分は飛灰等の粒子状物質表面に吸着していると推定される。
 
 実験では、飛灰模擬物質としてケイ酸マグネシウムを使用し、これにDXN摸擬体を吸着させ、シャーレ中で照射した。模擬DXNとしては、DXNに化学構造が近く分解特性が近いと推定される5塩化ベンゼン(PCBz)を用いた。また、毒性が低く脱塩素により毒性の高い2,3,7,8-TCDDなどを生成する恐れの少ない1,2,3,4-TCDDも実験に用いた。参考のため、図2に2,3,7,8-TCDDの化学構造式を示した。


図2 2,3,7,8-TCDDの化学構造式

 試料調製は、トルエン等の溶剤に溶かしたPCBz、1,2,3,4-TCDDを0.05mg/gとなるようケイ酸マグネシウムに添加し、良く攪拌しシャーレに1g取り、粒子の飛散を防ぐためポリエチレンラップで覆って、電子線照射を行った。
 
 PCBz試料に電子線照射を行った結果を図3に示す。


図3 電子線照射によるPCBzの分解率と転化率(原論文1より引用)

 PCBz自体の分解率は300kGyで98%に達している。脱塩素化生成物の低塩素化塩化ベンゼン(CBz)分があり、CBz全体としての分解率は62%にすぎない。この分解率は、排ガス中DXN処理としては許容範囲と考えられるが、今後大幅な効率向上が必要である。
 
 分解生成物の調査からPCBzでは、(1) 両側に塩素がある位置が脱塩素し易いこと、および(2) 両側に2個ずつ塩素があるほうが1個と3個の塩素で挟まれた位置より若干脱塩素し易いことが分かった。
 
 次にDXNの分解特性を調べるため、毒性が少なくしかも一方のベンゼン環にすべて塩素が置換している1,2,3,4-TCDDを使用し試験を行った。図4に分解率の結果を示す。


図4 電子線照射による1,2,3,4-TCDDの分解率と転化率(原論文1より引用)

 図から、DXNの分解率の値と傾向はPCBzと似ていることがわかる。分解生成物の3塩化物での置換位置は、1,2,4-T3CDが圧倒的に多く、PCBzと一致した傾向を示している。

コメント    :
 DXNやPCB類は難分解性であり、本方法は土壌汚染の保全化にも応用できる。国内、ドイツや米国においても研究されており、その経済性も評価されている。また、注目すべきは2塩化物以下の生成物はほとんどないことである。もし両方のベンゼン環に塩素が置換している場合にも同様の結果が得られるならば、電子線照射により毒性の高い2,3,7,8-TCDDが生成する可能性は低い。

原論文1 Data source 1:
電子線照射によるダイオキシン類の分解
竹内正雄、今川隆、椎名拡海、土屋健太郎、原田和彦*、勝美篤弘*、平島照久*
資源環境技術総合研究所:つくば市小野川16-3
*電気興業株式会社
第9回廃棄物学会研究発表会講演論文集、p757-759(1998)

キーワード:電子線、ダイオキシン、分解、焼却炉、飛灰、脱塩素
Electron Beam, Dioxin, Destruction, Incinerator, Fly-ash, Dechlorination
分類コード:010501,010505,040102

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