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作成: 2000/12/6 吉井文男

データ番号   :010206
キチン・キトサンの照射効果
目的      :キトサンの照射による分解と金属吸着能の変化
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
利用施設名   :ウッジ工業大学ガンマ線照射施設
照射条件    :空気中、真空中
応用分野    :金属鉱山、環境汚染浄化、放射性廃液の濃縮

概要      :
 キチンを脱アセチル化したものがキトサンである。これを放射性廃液野中の放射性金属イオンの吸着剤に応用するため、キトサンを硫酸銅溶液に浸し、銅イオンとの錯体を調製し、ガンマ線の照射を行った。キトサンの主鎖切断による分子量低下は起きた。しかし、銅の溶出はないことからアミノ基の分解は起きないため、錯体は安定であった。

詳細説明    :
 
 キチンはエビやカニの甲羅を脱だんぱく質により得られるものであり、それを脱アセチル化したものがキトサンである。近年化粧品などに応用されるようになり注目されている。固相状態でキトサンを照射すると分解が優先して起き、分子量が低下する。雰囲気により分子量の低下が異なり、空気中及び酸素中では、放射線の直接作用による分解の他に酸化による間接効果により、真空中照射よりも分子量の低下が大きい。また、分子量分布の幅を表すMw/Mnが線量とともに大きくなる(図1)。
 


図1  Viscosity and molecular weight of chitosan irradiated in solid state (O-in vacuum, +in air, x in oxyzen) as a function of dose : (a) intrinsic viscosity, (b) Mw/Mn, (c,d) reciprocals of Mn and Mw. (原論文1より引用。 Reprinted from Radiat. Phys. Chem.39, 53 - 57 (1992),P. Ulanski and J. Rosiak.,Pleliminary studies on radiation-induced changes in chitosan, with permission from Elsevier Science.)

 キトサンは吸着材としても有用な材料である。キトサン(分子量5x105, 脱アセチル化度 88%、32-64メッシュ)粉末に銅イオンを飽和吸着させ、ガンマ線による銅吸着量の変化を上澄液の溶出量から求めた(図2)。


図2  Changes in stability of chitosan- and IR-200CT-Cu2+ complexes on irradiation : chitosan; IR-200CT. (原論文2より引用)

 キトサンは市販のイオン交換樹脂IR200と同じようにガンマ線照射によって150kGyまで照射したが、吸着能はほとんど変わらなかった(図2)。吸着能は分子量に影響されず、表面電荷、つまりアミノ基に大きく影響されることから、主鎖切断は起きても、水中に懸濁した状態では、放射線照射によるアミノ基の分解がほとんど起きていないと言える。

コメント    :
キトサンは天然材料であり、使った後の処分の容易な材料であるため環境に優しい材料でもある。応用範囲を広げるには繊維や膜の加工技術が必要である。

原論文1 Data source 1:
Pleliminary studies on radiation-induced changes in chitosan
P. Ulanski and J. Rosiak
Institute Applied Radiation Chemistry, Thechnical University of Lodz, Wroblewskiego 1593-590 Lodz, Poland
Radiat. Phys. Chem., 39, 53 - 57 (1992)

原論文2 Data source 2:
キチン及びキトサンに対する放射線照射の影響
相羽誠一、井爪正人
製品科学研究所
製品科学研究所研究報告111号、43 - 48 (1988)

キーワード:キチン、キトサン、放射線分解、金属吸着能、脱アセチル化度、親和性、分子量、着色、懸濁液、照射線量
分類コード:010105,010504

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