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作成: 2000/10/30 宮田幹二

データ番号   :010205
コール酸誘導体を用いる包接ラジカル重合
目的      :包接重合における重合機構の解明とポリマーの特性
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源
線量(率)   :1Mrad
利用施設名   :大阪大学産業科学研究所付属放射線実験所
照射条件    :真空中、液体窒素下又は、室温
応用分野    :新物質合成、ESR研究への応用

概要      :
 分子レベルの入れ物であるホストに反応性分子を包接させガンマ線を照射し、後重合する。ホストにはコール酸誘導体として数種のものを用い、反応性分子としてはジエンモノマ-を用いた。この反応はホストにより反応場の規制を受け立体特異的なものである。重合温度と生成するポリマーとの関係や、重合の際発生する成長ラジカルについて検討した。生成するポリマー、また、成長ラジカル挙動の解明は、今後多岐にわたり有用である。

詳細説明    :
 
 一般に気相や液相での重合反応は、モノマーに比べ無限に大きな容器によって行われるためモノマーは等方的運動性を有し、入れ物の大きさは無視できる。一方、固相重合において、モノマーは重合反応が進行するために必要最低の運動性しか持っていないものが多い。これらの報告については過去多くのものがあったが、気相,液相と固相のちょうど間に位置する状態での重合反応に関し詳細に調べられた報告はない。そこで、図1に示すように分子レベルの入れ物であるホスト分子にモノマーが取り込まれた包接結晶場においてこれらのことを解明し、重合反応と反応場との関係を系統的に調べた。


図1 Molecular assemblies in various states and their space effect: (a)in solution a macroscopic scale, (b)in the inclusion state on a molecular scale, and (c)in the solid state regardless of space.


 ガンマ線照射による重合では通常、無数のラジカルが発生し、その重合の立体化学の制御は困難とされている。しかし、包接重合は、分子レベルの入れ物であるホスト分子にモノマーがゲスト分子として取り込まれた状態で重合反応が起こるため、ガンマ線開始による重合でもその反応を制御することができる。包接重合の研究例としては以前、ホストに尿素、チオ尿素を用い、ゲストにジエンモノマ-を用いたものが報告されているが、これらの場合、定量的に立体規則性の高いポリマーが得られたが非常に限られたゲストでしか反応を示さなかった。そこで本研究ではホストに、Deoxycholic Acid(DCA)とApocholic Acid(ACA)の2種類の胆汁酸を用いた。これらを用いることで図2に示すように、様々なジエンモノマーにおいて重合反応が進行することがわかった。


図2 Polymerization monomers in the channels of urea, tiourea, deoxycholic acid and apocholic acid.The monomers in a square polymerize in channels of the corresponding host shown at the right edge. (原論文2より引用)


 その重合条件及び、結果を表1に示す。

表1 Condition and results of the inclusion polymerization of diene monomers in DCA and ACA canals.(原論文1より引用)
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Monomersb)   Hostc)   Postpolymerization    Polymer yield   Content of
                        temperature   time    in mg/g    in%   1,4-trans
                          in℃                 in days   host  polymer  in%
------------------------------------------------------------------------------
  BD            DCA        0           0,2       38       56           77
                ACA        0           0,2       39       28           56
  PD            DCA        0           2         30       34          >99
                ACA        0           2         72       41           89
  MPD           DCA        0           2         Trace    Trace        --
                DCA        50          1         26       25          >99
                                                                              
                ACA        0           2         48       23          >99
                ACA        50          1         78       23          >99
 DMPD           DCA        50          1         Trace    Trace        --
                DCA        100         4         Trace    Trace        --
                                                                              
                ACA        0           7         30       12          >99
                ACA        50          1         84       34          >99
------------------------------------------------------------------------------
(a)γray irradiation:does=1Mrad/h,T:-78℃ for postpymerization at 0℃,0℃ for
postpolymerization at 50℃,100℃:mole rato:DCA/monomer=2/1,ACA/monomer=1/1.
(b)BD:1,3-butadiene;PD:1,3-pentadiene;MPD:4-methyl-1,3-pentadiene;
DMPD:2,4-dimethyl-1,3-pentadiene.
(c)DCA:deoxycholic acid;ACA:apocholic acid.

 ホストとして用いた2種類の胆汁酸であるDCAとACAの違いは、ACAの方がDCAより大きな包接空間を形成することである。ここで非常に興味深い結果が見られた。モノマーに2,4-Dimethyl-1,3-pentadieneを用いると,DCAでは重合温度、重合時間などを変えても反応は進行しないのに対し、ACAでは重合反応が進行し、結果生成するポリマーは定量的に1,4トランス体のみが得られた。この理由としてDCAの場合では包接空間が小さいためモノマーが硬く固定され重合反応が進行しないが、ACAの場合はDCAより大きな包接空間を形成するため、重合反応が進行したと考えられる。このことからも、包接重合ではモノマーの大きさと、包接空間の大きさの関係が非常に重要であることがわかる。
 
 包接重合では、ガンマ線照射後の反応活性種である成長ラジカルをESRにより容易に観測できる。元来、この種の実験では、モノマーを凍結状態や粘性を高くした状態などにしてからでないと観測することが困難であった。しかし、包接重合では、成長末端のラジカル種がホストの包接空間内に存在し、その運動性が制限され比較的安定な状態で存在しているため温和な条件でも観測が可能である。また、得られたスペクトルは成長ラジカルの運動性が低いためブロード化したものであった。
本研究をさらに進めていくことで、重合反応が反応場の規制により受ける影響に関する詳細な知見を得ることができる。また、ホスト、ゲスト(モノマー)をコンビナトリアルケミストリー的に調べることで、立体規則性の高いポリマーを得られる可能性を秘めている。さらに、このような工業的分野の応用だけでなく、ESRによる成長ラジカルの研究に関しても重要な役割を担っている。

コメント    :
ホストとモノマーを精密に設計することで立体規則性の高いポリマーを得ることができる。また、ラジカル重合反応の反応場における影響を系統的に調べることや、ESRにおける成長ラジカルの様々な解釈に役立つことが期待される。

原論文1 Data source 1:
Inclusion Polymerization in Deoxycholic Acid and Apocholic Acid Canals: Decisive role of a relative size between a canal and monomer
Mikiji Miyata, Toshitake Tsuzuki, Fusaharu Noma, Kiichi Takemoto, Mikiharu Kamachi*.
Department of Applied Fine Chemistry, Faculty of Engineering, Osaka University; *Department of Polymer Science, Faculty of Science, Osaka University
Macromol. Chem., Rapid Commun. 9, 45-50(1988)

原論文2 Data source 2:
Inclusion Polymerization
Mikiji Miyata
Department of Applied Fine Chemistry, Faculty of Engineering, Osaka University
The Polymeric Materials Encyclopedia-Synthesis, Properties and Applications 3226-3233(1996)

キーワード:包接重合、胆汁酸、包接空間、ジエンモノマー、ガンマ線、立体規則性、ESR、成長ラジカル
Inclusion Polymerization, Bile Acid, Canals, Diene Monomer, Gamma Rays, Tacticity, ESR, Propagating Radicals
分類コード:010101

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