放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2001/01/01 粕谷健一

データ番号   :010202
微生物産生ポリアミノ酸のγ線照射による架橋
目的      :微生物産生ポリグルタミン酸およびポリリジンのγ線照射による吸水ゲルの開発および応用
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :60Co線源(110TBq)
線量(率)   :0.6Mrad/hあるいは1.6kGy/h
照射条件    :水溶液中、室温
応用分野    :紙おむつ

概要      :
 ポリ(γ-グルタミン酸)は、食べても無害なことから、食品、医薬品、化粧品の分野で増粘剤、徐放性担体、保湿剤などへの応用が期待されている。さらに、ポリ(γ-グルタミン酸)へ架橋を導入することにより吸水性材料への利用が期待される。一方、ポリ(ε-リジン)も微生物によって生産される水溶性高分子材料であるが、こちらも同様に架橋により吸水性材料への利用が期待される。ここでは、これら2種の水溶性高分子のγ線照射による架橋反応と生成したゲルの生分解性について述べている。

詳細説明    :
 
 微生物Bacillus属の数種類は菌体外にポリ(γ-グルタミン酸)を蓄積することが知られている。最適な培養条件では20-60g/Lもの大量のポリ(γ-グルタミン酸)を生産する。ポリ(γ-グルタミン酸)は、食べても無害なことから、食品、医薬品、化粧品の分野で増粘剤、徐放性担体、保湿剤などへの応用が期待されている。さらに、ポリ(γ-グルタミン酸)へ架橋を導入することにより吸水性材料への利用が期待される。
 
 一方、ポリ(ε-リジン)も微生物によって生産される水溶性高分子材料であるが、こちらも同様に架橋により吸水性材料への利用が期待される。
 
 ここでは、これら2種の水溶性高分子のγ線照射による架橋反応と生成したゲルの生分解性について述べている。
 
 微生物により作られたポリ(γ-グルタミン酸)の水溶液は、γ線照射することにより架橋体を形成し、この架橋体は高吸水性であることがわかった。ポリ(γ-グルタミン酸)水溶液(5wt%)を照射線量2Mrad(=20kGy)以上で照射することにより架橋が、生成し、照射線量を増加させると吸水率は極端に減少した。2Mradで生成したポリ(γ-グルタミン酸)架橋体は、自重の3500倍もの水を吸水する高吸水性架橋体であった。
 
 ポリ(γ-グルタミン酸)濃度が2wt%以上の水溶液γ線照射することによりポリ(γ-グルタミン酸)架橋体が生成し、濃度の増加とともに吸水率は減少した。ポリ(γ-グルタミン酸)架橋体は、蒸留水中で繰り返し吸水膨潤が可能であった。ポリ(γ-グルタミン酸)架橋体は、pH4以下で収縮することがわかった。塩化ナトリウム、塩化カリウムの存在下で吸水膨潤度が大きく低下した。ポリ(γ-グルタミン酸)鎖の加水分解があまり速く進行しない条件ではポリ(γ-グルタミン酸)架橋体の膨潤収縮は可逆的であることがわかった。
 
 生分解性ポリマーであるポリ(γ-グルタミン酸)の水溶液をγ線照射によって架橋させたポリ(γ-グルタミン酸)架橋体は、非常に透明な含水ゲルとなる。ポリ(γ-グルタミン酸)架橋体の強度の定量的な解析はまだ行っていないが、ポリ(γ-グルタミン酸)濃度5wt%、照射線量10Mradで生成したポリ(γ-グルタミン酸)架橋体は凝固した寒天(濃度2%)より若干固い強度を持っている。今後、ポリ(γ-グルタミン酸)架橋体強度を定量的に測定し、架橋点の密度および構造との相関を明らかにしていく。
 
 ポリ(ε-リジン)架橋体は、微生物Streptmyces albulusによって生産されるポリ(ε-リジン)の水溶液にγ線照射することによって調製した。ポリ(ε-リジン)水溶液濃度1-7wt%でγ線照射量70kGy以上の場合、透明な吸水ゲルが生成した。5wt%ポリ(ε-リジン)水溶液をγ線照射量70kGyで処理した場合、乾燥ゲル重量の160倍の水を吸水した。ゲルの吸水率は、γ線照射量の増加に従い顕著に低下した。ゲルの吸水率は、照射ポリ(ε-リジン)水溶液の濃度の増加に伴い上昇した。この結果は、ラジカル消去剤がポリ(ε-リジン)水溶液中に存在していることを示している。
 
 酸性条件下では、プロトン化されたポリ(ε-リジン)のアミノ酸残基の残基間の静電的反発によりゲルは膨潤する。40℃pH7の条件下でAspergillus oryzae由来の中性プロテアーゼを用いてポリ(ε-リジン)ゲルの酵素分解実験を行った。ポリ(ε-リジン)ゲルは、加水分解よりもずっと速い速度で酵素分解された。酵素分解速度は、γ線照射量の増加に伴い低下した。
 

コメント    :
天然物由来の生分解性吸水性ゲルは、環境問題を解決する上で非常にインパクトがある。

原論文1 Data source 1:
微生物によりつくられたポリ(γ-グルタミン酸)水溶液のγ線照射による架橋反応
国岡正雄
通産省工業技術院物質工学工業技術研究所
高分子論文集、Vol50、No10、pp755-760、1993

原論文2 Data source 2:
Properties of biodegradable hydrogels prepared by γ irradiation of microbial poly(ε-lysine) aqueous solution
Masao KUNIOKA, Hyuk Joon CHOI
通産省工業技術院物質工学工業技術研究所
Journal of applied Polymer science, Vol.58, pp801-806(1995)

原論文3 Data source 3:
Synthesis and characterization of pH-sensitive and biodegradable hydrogels prepared by γirradiation using microbial poly(γ-glutamic acid) and poly(ε-lysine) .
Hyuk Joon CHOI, Ryung YANG, Masao KUNIOKA,
通産省工業技術院物質工学工業技術研究所
Journal of applied Polymer science, Vol.58, pp807-814(1995)

キーワード:ポリグルタミン酸/poly(gummma-gulutamate), γ線/gumma ray, 枯草菌/Bacillus, 架橋/closslinking, 吸水/water absorption, ポリリジン/poly(epsilon-lysine), 膨潤/swelling
分類コード:010101, 020101

放射線利用技術データベースのメインページへ